254曲目
投稿が遅くなり申し訳ありません。
ブラック企業に勤め、残業もこんな時間まで当たり前な勤務になりましたが、自分は元気です(白目)。
この時の自分に戻りたい……。
俺が某然とロックンローラーとしてなにが大事なのか、自分の概念でもある『太陽』という決意の力こそが自由で正しいのかとか、色んな考えが脳裏へと螺旋の動きで渦巻いている中、雲行きの怪しい顔で渋ってるケンが確信を突いてくる。
「そっか。それじゃあ、まだ新しいバンドは決まらないんだね」
ケンがもの凄く残念そうに呟いた。今にも泣き崩れてそのまま消えてしまいそうな感じで言うのも当然であり、俺たちのソルズロックバンド――【Sol Down Rockers】は、実質的には、約1ヶ月前に行われたバンドコンテストで出せたサイコーのライブを最後に解散した。
最後となると思うと自然と悔しさと苦しさが込み上げてきたが腑に落としたものの、明示的に解散と決めたわけじゃないが、ケンの患っている不治の病に気をつかった形だ。俺だってバンドを作り出す原典であり力の源ともなってくれたケン抜きであの太陽の象徴となるサイコーなメンバーで演るつもりもサラサラないし。
俺らも2年の後半となり3年となる来年に控えなきゃならないしで、メンバー同士で集まるのが難しくなってきたということもある。
気が早いなとも思えるがソウは【寺の住職】と【旅館の旦那】と【園長】という職に就くために必死に勉強してて来年の受験準備に入っている詩、アッキーはモデルと俳優のバイトを掛け持ちで始めたと聞くが知り合いに声優面にて顔が利く人がいて「俺の美声を聞かせてやる」とか息巻いているらしい。
未来へ歩いている、それは二時世代音芸部の連中もそうだ。
柳園寺と南桐もやはり名の知れた資産家の御令嬢とのことらしく実家の仕事を手伝いながらもそれぞれドラムとキーボードを続けたり、奏音は兄のケンが罹っている病と向き合いながらも兄の作詞作曲を手伝ったり結理も兄のようにベースを止めずに音楽活動を続けていくらしいし、天真爛漫で笑顔を振りまいている稔もまた自分にある病気――"眠り姫死病症候群"。別名"クラインレプシー・シンドローム"とも真剣に治しかかると共に弾き語りやバンド生活を活発的に活動していくなどで、みなそれぞれの歩むべき道へと進み始めているのだ。
そんな中で俺だけは昔から変わらないまま原始的な作詞作曲とアコースティックギターにて弾き語り、それにスタジオ入りしてエレキギターを演奏しながら架空のバンド演奏でシミュレーションしたりで寺で教えられた走り込みと夢想無念をと座禅を休まずに行っては、今回の一件ですっかり気に入られた笹上さんのバンドにて出入りし演習させてもらっているという現状だ。
「まあバンドのことはおいおい考えるさ。お前の分も背負って頑張らないといけないけど、俺がサイコーに楽しめて熱い演奏を奏でられるってとこじゃないと意味を成さねえんだ。『Re:Start』ってことになるが、俺のバンド人生は終わっちゃいないんだから、じっくり検討ってことだ。で、話ってのはなんなんだ?」
話している中で『お前の分も背負って』という箇所を訊いたケンはどこか嬉しそうに目を細め頬を赤らめるのを尻目に、エテジラソーレへとわざわざ茶をシバキに来た今日は、大事な話があるって言われて呼び出されたのだ。
俺もこうしてケンと奏音と久しぶりに話せて嬉しいが、本題に入ろう。
「あ、うん。そうなんだけどね。そういえば、陽ちゃんも僕たちに話があるって言ってなかったっけ?」
「ああ、あるけど、俺はお前らに呼び出されたからついでに言おうと思ってただけだ。そんなに大層なことじゃないから、大事な話があるそっちが先でいいぜ」
俺がそううながすと、ケンは奏音に目配せをした。
奏音が、ケンの代わりに持っていたギターケースを俺に寄越す。
2人から開けてくれと急かされたので開けると、ケンのギターだ。
「陽太さん。これ、お兄ちゃんのギターです」
俺の方へと受け継がせるように奏音がそう答える。
そんなことは理解している、よく憶えている品だ。
それは音楽とロックの原点である"Sum41"のギター&ボーカルであるDeryck・Whibleyが愛用するテレキャスターと同等に俺が昔から好きなギター……それこそ、ロックの代名詞とも言えるメーカーGibsonの【レスポール】だった。
「おう、そりゃ知ってるけど……んだよ、コレ確かメチャクチャ値段が高いヤツだし。なによりビンテージものだとか言うギターだろ? 本気で理解し難いんだが。こんな値段が高くて良い音が出て、年代物のギターを俺にどうしろってんだ? ショーウィンドウの向こう側にあるトランペットをただジッとながめる少年の真似事でもしろってか。趣味悪いぞお前ら」
俺が的確な例えを言うと。奏音もケンも思わず吹き出し笑い出す。
なんだ、今しがた俺はなにかおかしなことを言ったのだろうか?
2人だけ理解してて面白くない、まったくもって理解できんぞ。
「もう~、陽ちゃん違うよ。そんなことしないって。それ、陽ちゃんにもらってほしいんだ。もう僕にはギターも弾けそうにないから、弾いてくれる人がいないとギターだって拗ねちゃうでしょ? だから、この世で一番に音楽とロックへと人生そのものを賭けている人に、陽ちゃんに受け取ってほしい」
そう気兼ねなく笑いながら答えるが、事態は深刻である。
ケンを蝕む不治の病――球脊髄性筋萎縮症の症状は、この1ヶ月という短い時間だというのに合宿中から症状が悪化しその時間分だけキッチリ進行している。
彼自身しゃべるときはかなり気を使って話しているがほぼ滑舌が悪くなってるし、体中の部位が不可思議な震えが見てとれると時間というのは残酷だと言うが、身をもってそれを知られてまさに史上最悪の気分だ。
不治の病に患ってるってだけで周りの俺らからしてそんな残酷な気持ちになるのだから、3年という長い月日で病気と向き合っている当人のケンはいかばかりだろうかと思う。
だが、当人のケンはソレに不安になるどころか案外サバサバしている。
それは親友である俺の前だからそうして表では笑ってても裏では強がっているのか、それとも、自分は誰よりも早く死ぬという運命にもがいても無駄だと知って、もう散々嘆いて嘆きまくって嘆き飽きたのか。
俺の目から見るに、案外そのどっちでもないのかもしれない。
ただ、決して治ることの無い病気がゆっくりと進行しているという惨劇な現状を知ってるにも関わらず、あのコンテストライブのステージで傍にいたのと同様にケンはとても元気だった。
この前もどこか踏ん切りがつかないでオロオロとする奏音に、苦難を目の前にしてもどっしりと構えて生きてるケンから爪の垢を煎じて飲んだらどうかと、冗談を笑いながら言ったぐらいだ。
夏休み最終日に迎え努力賞を貰ったバンドコンテストからこちら、絶対に抗えることのない運命を言い渡されてるケンは、それすらも自分で認めて今自分のできる限りで、精神的に生と『今』この瞬間に流れる1分1秒を全力で謳歌しているように見えた。
だが、やはりどこか気が引けてしまうものだ。
たしかに親友の頼みを無下にし断るのも俺にとっては苦しい選択肢だ。
でも、そうだとしても、大事な楽器をわざわざ手放す理由にはならない。
「お前の言い分はわかる。悔しいがケンはもうギターが弾けない体になるのはもう避けられない事実だ。でももう指も体も上手く動けないし弾けないからって、俺にくれちまうことはないんだぜ。それこそバンドコンテストで最後まで一緒にいてくれた相棒って名目で
記念にとっておけばいいじゃないか」
俺が遠慮気味にそう答えるとケンは俺の目を見る。
奏音もその意図を察してか彼の代わりに首を横に振る。
この兄妹は本当に気心が知れて以心伝心してんだな……。
「ううん、いいんだ。僕は陽ちゃんにこのギターを持ってて欲しいんだよ。実際このギター、前に陽ちゃんはふざけ半分で仕草は本気で欲しいって言ってたじゃない? 冗談だとか言いながら本当は欲しがってたの、僕は知ってるんだよ」
的確に図星を突かれて思わず俺はうろたえる。
漫画やアニメみたいな仕草をして驚くんだな、人間って。
「まあな。でもさ、やっぱり……」
俺はそこまで言って口ごもる。
そりゃそうだ、事実欲しがっている俺がいる。
ケンの持っているGibsonレスポールは、ブルース・ロックのジャンルで知られるイングランド出身のブルースロックバンド【Fleetwood Mac】のギタリスト『Peter Green』がロックギタリストであり人間国宝とまで称された『Gary Moore』へと無料同然の金額で譲り渡したモデルのスペアとして弾いていたモノと同年代であり、ピックガードは外されているのでまさにそれと同等の代物だ。
実際にバンドのオリジナルである【Hard Air Drive】でのソロパートで出したギターテクニックは、"Deryck"のテクニックも視て聴いて覚えたフレーズをアレンジしたものが多かったが、"Am"ペンタトニックを3音ずつ並べてマシンガンのようなピッキングの速弾きとまるで唄うように奏でるロックテクニックは『ギタークレイジー』『泣きのギター』と称された"Gary"からの影響が大きかった。
俺のギターヒーローの1人である彼と同じモデルのレスポール……。
喉から手が出るほどのギターだからこそ、このように躊躇してしまう。
そんな俺の背中を押してくれるように、奏音が言葉を付け加えてきた。
「あの、もし陽太さんがよかったらこのギターもらっちゃってください。お兄ちゃんて、優しくて人のことを大事にしているように見えて、1度言い出すと聞かない頑固者なんですから。案外意固地だなって、陽太さんも知っているでしょ?」
「おお、そりゃ、まあな」
最後のスタジオ練習でも、コンテスト本番でも、今でもそうだ。
ケンはふだん自分の意見を強く主張したりというアグレッシブなことは滅多にしないが、こうと1度でも決めたら江戸っ子であるゴ〇モンみたいに絶対に曲げないし譲らない、まさに仏のような人を怒らせたら手に付けられない状態そのものだ。
頑固親父もお手上げなその剛情さは、俺以上ではないかと思うことがある。
ここまできたら、もう首を縦に振って観念しよう。
「……ったく、わかったよ。そこまで言ってくれるんなら親友としても嬉しいもんだ。それじゃあお言葉に甘えて、ありがたくもらって……いや、言葉が違うな」
「「えっ?」」
俺の言葉へ2人は同時に疑問そうな声でいい顔を見合わす。
そこで1呼吸置いてから交互に顔を見て、大きくうなずく。
「お前の意思、覚悟、魂の熱気。そういったもの全部、俺が受け継いでくぜ」
俺にとっては人生の相棒であり親友としてずっとそばに居て音楽をやってくれて、最終的には命の炎を燃やし尽くし懸け切ってロックに徹してくれた、師匠とも思える人物へと成長を遂げてくれたんだ。
そんなヤツから受け継がれるんなら、俺も満足だ。
「う……うんっ!」
ケンがそう力強く答え奏音は彼を見て微笑んでいた。
そんな彼女からギターを手渡され、両手でもって受け取る。
大事に扱われてきたケンのギターは、なんだかえらく重く感じた。
同時にそれだけの想いが詰まってるんだと、俺は心の内で思った。
ご愛読まことにありがとうございます!




