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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Third:Track To Chain To Feather To Sun To Chasers
254/271

253曲目

仕事が立て込んで遅れました(汗)。

 俺がコンテストで出場した自身のバンドが努力賞という結果に終わってから、笹上さんとのカツ丼鰻丼を食べスタミナ摂取をしたという昔話を最後までしながらも残り少なくなったサンドイッチを頬張り咀嚼し終えると、向かい側に座っているケンが疑問そうな顔つきで尋ねてくる。


「――で、結局注文した品を全部食べさせられたの?」

「もし全部食べきれたら俺は今ごろ大食いチャンプに挑戦状を叩き付けているだろうな……無理、さすがにあの量を1人で全部じゃ限度越えてるって。俺の腹持ちが限界突破しちまうから無理だ。そこはもう笹上さんと2人で、山のような大盛の店屋物を片っ端から食いまくったよ」

「えっ? 間違いで送られてきて迷惑なはずの笹上さんも、カツ丼と鰻丼を食べたんですか? 100個もあるんですよね。食べきれたんですか?」


 当然の疑問を浮かんだ奏音が俺にそう問いかける。


「おお、最初から腹が減ってたとか言って食ってたよ。まあ、結局のとこ笹上さんが自腹で払ったんだし食べるのは当然だろうな。そんで俺が鰻丼とカツ丼を3人前ずつぐらい食ってさすがに苦しくなって箸が進まなくなってきたら、あの人いきなり俺が食べるはずの量まで取って食い出してさ」


 笹上さんの食べるスピードはそれこそニトロ積んだエンジン並みだった。

 俺の分まで手を付けて食べてくれるのに情けをかけられた気になっちまった俺もガツガツと食べ始め、食べ切るのが目的のはずなのにいつの間にか早食い勝負みたいになって、2人で競ってずいぶん食った。


「それでも100杯はきつかった。2人じゃ結局ぜんぶは食いきれなくて、限界すら超越した状態になってまで食った後、もう最後の手段だと言って笹上さんが携帯で知り合いを呼んでたよ。狭い和室の中で野郎がひたすらメシをカッ喰らうんだから、もう阿鼻叫喚の死屍累々よ……うぐっ、今思い出しても吐き気がする。サンドイッチ戻しそうだ」


 そう言いながら喉元まで上るが、なんとか吐き出さずに飲み込めた。

 口の中に酸っぱい味が広がり苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。


 そうだ、あのときも喉元まで食い物が来てる感じがしたもんな。

 ちょっと動いただけでも吐きそうだったけど、早食いと大食いの混じった勝負だと勝手に思い込んで「吐いたら負け」って気になっちまって死ぬ気で耐えて、吐きそうになりながらも必死にカツ丼と鰻丼を食した。

 なんとか食べ切ったその後は畳みの上でぶっ倒れてたが、体が横になってると逆流しそうな気がして俺と笹上さんとその知り合いとで”白神郷(しらがごう)”でのスポットとなっている噴水広場の公園まで歩いてたとき、唐突に「歌えば気持ち悪いのも無くなるだろ」って笹上さんからわけわからない提案を出したもんで、人目も気にせず手拍子のみで歌を唄ってたっけな。


 それ以来ウナギもカツは食ってないし、死屍累々となるほどに死ぬ気で食ったんだからこの先も当分は食いたいとは思わない。まさに自業自得なことだが、どうやら俺自身もウナギとカツがトラウマになってしまったようだ。


 ホットコーヒーを啜りながら言い切ると奏音が嬉しそうに尋ねる。


「へえ、コンテストが終わってからそんなことがあったんですか。ふふっ、見かけは凄く怖そうなのに……以外に笹上さんって、面白い人なんですねぇ」


 奏音が無邪気にそう言うとケンも微笑を浮かべる。

 あれは面白いをとうに越しててる部類に入ると思う。


「ありゃ、相当な変わり者だな。見た目は本当に熊かゴリラかとでも思えるのに小心者なとこがあるし、悪いことをしても軽く叱る程度で後は気兼ねなくラーメンを食いに行くぞとか言うし。あの人の脳内はどうなってんだかな。しかもその後、バンドとロックの話で盛り上がってからなんでか気に入られたみたいで、俺らの事情を知ってるからか笹上さんのバンドの手伝いとかさせられてさ」


 俺がテーブルに肘を付けて顔に手を当てながら言う。

 その話が出た直後にケンが驚いた様子で話に入ってくる。


「あ、その話って本当だったんだ? 陽ちゃんが、笹上さんのバンドに出入りしてるって。稔ちゃんたちやアッキーたちからも聞いたけど、笹上さんたちと一緒にスタジオに入ったりしてるの何度か見たことあったからそうなんじゃないかって、みんな言ってるんだよ?」

「それじゃあ、陽太さんはNew(ニュー):Energie(エネルギー):Ours(アウアーズ)の正式メンバーになったんですか? 私はてっきり、シンガーソングライターとしてソロ活動するものだとばっかり」

「いいや、そういう正式にとか本格的にってわけじゃない。そこらのバンドマンからしたらありがてぇ話なのかもしれないけど……あくまで手伝ってるだけだ。ま、この際だからさ。俺らよりもバンド歴が長いとこに身を置いて、視て聴いて盗めるものは病気と借金以外はなんでも盗んでやろうと思ってるけどさ」


 俺がそう言うと2人も納得したようにうなずく。

 そしてコーヒーを飲み、ホッと息を吐いて和む。


 どういうつもりかは知らないが、【NEO(ネオ)】でサブリーダーを張ってる笹上さんも、どうやらそう思ってくれている節がある。

 笹上さんのバンドに出入りさせてくれてるが、強制はしない。

 俺らしく()れるようと自由なポジションでいさせてくれているのだ。


 笹上一成(ささうえかずなり)という人は思考が読み取れないが、とにかく豪快だ。

 努力賞にした腹いせとして丼大量イタズラをしても軽く説教しては笑って許し、バンドでの接し方は相変わらずバカにする感じだが、どこか兄貴分な位置から俺を視て弾き語りや歌い方を享受してくれるのだからあの人は本当に懐がデカい。


 俺は残りわずかとなったコーヒーを飲み干しながらフと考える。

 もしやロックンローラーとして世界中の人々に認められ、ソルズロックで成功するには来るもの拒まず去るもの追わずといった精神も持ってないとイケないんじゃないかって、笹上さんを見ていると思わされてしまう。


 そう一瞬で思い、俺は必死で大柄な笹上さんの姿を脳裏に浮かべようとする。

 しかし俺の脳内が暗闇に覆われた頃にはもう、彼の姿はぼやけ遠くなっていた。




 ご愛読まことにありがとうございます!

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