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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Third:Track To Chain To Feather To Sun To Chasers
252/271

251曲目

夏の熱も引いた、雪の降る冬の街。

彼等の心境にどんな変化があっただろうか?

 そして暑い夏から時は巡り――


 ――今度は寒い、冬がやって来た。


 季節は9月の中旬。

 熱い日差しからは遠のき、静かな秋の気温となる中で白神郷の外では老若男女問わず様々な人々が道を行き交う中、稔の実家である喫茶店兼楽器スタジオ【エテジラソーレ】は相も変わらず賑わいが彩っていた。

 仕事休憩で立ち寄るサラリーマンやOL、年金暮らしになって余生を楽しむ老夫婦、遠くから旅行に来たであろう家族やカップルなどで店内はごった返していた。


「いらっしゃいませ。おや、陽太君に健二君と奏音ちゃん……いつも御贔屓にしてくれてありがとね」


 コーヒーを淹れてたカウンターからマスターが出迎えてくれた。

 こんなに繁盛している中でたった1人で切り盛りしているんだから凄い。

 稔のお母さんもたまに手伝っているところを見るが、スタジオの方でバンドマンやシンガーソングライターの人の対応と接客で忙しいんだし仕方ないだろうが、それでも商売人魂と言うのだろうか? さすがだと言いたい。


「うぃっす。どうも……あれっ? 稔は?」


 大繁盛している店内を見渡しても"稔の姿"が無かった。

 そんな仕草を見たケンと奏音がクスクス笑うが気にしない。

 同様にマスターも気さくに笑いながらその疑問に答えてくれる。


「ああ、稔なら今アコースティックギターを持って結理ちゃんのとこにでも行ってるんじゃないかな? 誰かのように弾き語りが上手くなりたい~って張り切ってたからね。本当に良い傾向に進んでくれてて、親である私としては何よりだよ」


 そう言ってマスターは俺の方を流し目で見てくる。


「そうですか……ま、いいんですけどね。とりあえずマスター、ホットコーヒー3つで砂糖とミルクは1つずつ。そんでサンドイッチ1つね」

「はい、畏まりました。空いてる席にておくつろぎください」


 注文をすると接客のマニュアル通りに対応するマスターはそのままカウンターの方で調理へと入り、俺たちは店内を見渡しながら空いてる席を探す。


「あはは、オジサンも相変わらずの対応だよね~。……うう、なんかちょっと寒いね。秋に近づいているからかな?」

「ココ、エアコンから遠いからな。ほれ、あそこに付いてるし、景色も見渡せるから向こうの窓際に座ろうぜ」


 午後の陽射しが降り注ぐ、落ち着ける窓際の席を見つけ座る。

 用事を済ました俺はいつも通り自分の部屋で作詞作曲とギター練習に励みを入れていたところ、ケンと奏音に携帯で呼び出されたのだが、この2人とこうして外で会うのは珍しい。


「なんか久しぶりだね。最近、陽ちゃん学校に来てないから」


 覚束ない足取りを奏音が支えながらそっとケンを席に座らす。

 そして彼女も隣に座りながら、俺とケンの話を清聴する。


「んっ? ああ、悪い。俺も色々と立て込んでてさ」


 かれこれ、もう1ヶ月近くは休んでいるだろうか。

 少なくとも、あのサイコーに輝いたコンテストのライブをして以来からは、ほとんど顔を出していないと思う。

 その間も、ちょくちょくケンたちや稔たちには会っていたのだが、ここのところ忙しくてちょっと間が空いていた。


 俺がそう物思いに耽ると、マスターが注文の品をトレイに乗せて近寄る。

 俺は腕組しながらそちらを向き、日向兄妹もマスターの方を見上げる。


「はははっ、思い出話のところ悪いね。……お待たせいたしました。こちらサンドイッチと、ホットコーヒーでございます」


 マスターはそう丁寧に言い静かに注文の品をテーブル上に置く。

 サンドイッチは喫茶店特有の見た目と秋に近づいて肌寒くなった季節には打ってつけであるホットコーヒーからは湯気が立ち上がっており、コク、苦味、酸味、香味など様々な個所をクリアし味わい深さのあるおいしさを追求したオリジナルブレンドの香りに嗅覚が刺激される。


「どうも、アザッス」

「いえいえ……それではごゆるりと」


 俺が軽い感謝を述べるとマスターは当然のことのような振る舞いをしてから、店内で注文をと手を挙げながら彼が呼ばれたのでそのまま呼ばれた方へと歩みを進め、物静かでダンディーな雰囲気を全面的に出しながら接客に取り組んだ。

 あのコンテストでのライブの一件以来、ケンはすでに体の筋肉が萎縮して今では宣言通りに松葉杖を使いながら歩くようになったため腕などの機能も低下しコーヒーカップすら上手く掴めない。今では奏音が給仕みたいにしてくれている。


「ああ、美味いね……ありがとね、奏音。そう言えば聞いたよ。笹上さんの駄菓子屋に、コンテストでの結果が納得しなかったからって嫌がらせで、大量の出前を注文してやったんだってね?」


 俺がコーヒーを音を出さずに啜り、訝し気な顔つきで返す。


「なんだ藪から棒に。あれは当然の報い、天罰なんだよ」


 それはコンテストが終わってから3日後の話だ。

 俺たちが全力で挑みサイコーに楽しめるライブを出したコンテストの後、しばらくして、夏の陽射しからは遠のいて気温も涼しくなってきたころのことだ。


「もう~、さすがにアレはやりすぎだと思うけどな。優勝は出来ずじまいだったけど、夏休みの中で実力を上げてライブで盛り上げたからって努力賞にされたこと、よっぽど恨んでたんだね」

「あの、すみません陽太さん。私たちのバンドが優勝しちゃって」


 ケンが面白おかしく笑うのとは裏腹に奏音は申し訳なさそうだ。

 謙遜しているのに言うことは立派なんだから、無自覚傲慢だよな。


「なんだソレ、もしや嫌味か?」

「えっ!? い、いいえ、そんなとんでもないっ!」


 俺がサンドイッチをムシャムシャ食べながら軽い敵対心を込めた目で訴えると、奏音は当然のように手を前にし首と同時に横に振って小動物みたくシュンとする。


 結局のとこ約1ヶ月前に行われたバンドコンテスト、栄えある優勝を掴んだのは奏音たちだったんだもんな。

 そして俺らは頑張ったで賞、通称【努力賞】を授与された。

 なんだソレ、小学校の運動会とかの話じゃねえんだぞ、と言いたい。


「まあいいんだ、優勝ができるできないもどうでもよかったし、貰えたのも努力賞でさ。もちろん俺たちだって初出場初優勝を目標にして挑んだんだけど、なんかこう、あのときは……あの『今』を感じられる一瞬だけは、どんな最強で最高峰なバンドよりもサイコーで、俺たちの掲げている"熱くて楽しくてカッコいい"って百点満点な演奏が出来て俺も満足してたからな……なんて思ったこともあったが」


 たしかに俺もあのときは腑に落して納得してた。

 だがこうして時間が経つにつれて、どうしても納得いかない気持ちが再度生まれ、段々と大きくなっていったのだ。

 そんで、勢いのままにあのコンテストで審査してた審査員たちに怒涛な電凸をして理由を問い質したりしたのだが、もう決まったことだったので当然まったく相手にされず。

 怒りが溜まる一方で発散できなかった、なので……。


「そんでついカッとなってさ、やっちまった。後悔はしてない」


 俺は腕組みをしてさも自慢げに言うと、2人は微笑を浮かべる。

 そんでケンがもらったビニール袋に記載されてた笹上菓子問屋(ささうえかしとんや)という、審査員の中で唯一住所のわかった笹上さんの家に、大量の出前を注文してやったのだ。

 そのときうなぎとカツが食いたかったので鰻丼とカツ丼を50ばかり。

 鰻もカツも重ではなく丼にしてやったのは、武士の情けだ。

 笹上さんも有名なバンドでライブをしているとはいえやはりバンドマンは金が無いのがテンプレなんだし、そこに合計100個の重盛りなんかの支払いをしたらとんでもない額になるだろうと僅かばかりの良心が働いたので、腹の虫が悪くても仕方なく慈悲をかけてやったのだ。


「でもさ、そんなことして大丈夫だったの? こうしてみんなも知ってるし、しかも白神郷の中でも噂にまでなってるぐらいだから、さすがにバレちゃったんでしょ? 笹上さんのことだし、普段は温厚な人が怒ったら手が付けられなさそうな気もするんだけど……」


 ケンがまた奏音の手助けによりコーヒーを啜りながら尋ねる。

 たしかにバレたし、漢らしくゲンコツを喰らう覚悟でいたのだ。

 だが……。


「ああ、そりゃもちろんだ。すぐにバレて笹上さんに呼び出されたよ。あーこりゃぶん殴られるな~って思ってたんだけど、行ってみたらそれがよくわかんないんだけどさ……」


 前置きを言いながらもそのときのことを思い思いに喋り出す。




ご愛読まことにありがとうございます!

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