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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Third:Track To Chain To Feather To Sun To Chasers
251/271

250曲目

 男女問わず大量に居る人前で、最高潮と熱と最高峰の曲を奏でる。

 ここまで脳汁が溢れ、アドレナリンが沸騰することは無いですね。

 達成感を感じた瞬間、糸が切れて崩れ落ちた親友を心配し寄り添う。

 意識が確認できない中で気の抜けるような声を出し、ケンが顔を上げた。

 その見せる顔は、これまた気の抜けるような、力の抜けきった顔をしていた。


「ただ疲れちゃって、安心したら腰が抜けただけだから大丈夫だよ~。だからちょっと休ませて~……もう僕もくたくたで仕方ないんだから~」

「は、はあっ!? んだよ、疲れて腰が抜けたぁ?」

「なんだそりゃ~? だったらちゃんと返答に答えろよな」

「全くだ。なんという紛らわしい真似をしてくれるのだ……」


 のんびりとした口調で気の抜けることを知らされたみんなはそのまま脱力し、俺は最悪の事態を想像させてくれたことによるやり場のない怒りの矛先を、当然のようにケンに向けた。


「ふ……ふざけんじゃねえぞバカ! コノヤロー、不治の病に侵されているな~。お、おおおおお前がやると冗談にならないんだよ!」


 思わずどもりながら抱き起していたケンの体を、そのまま放り投げた。


 ――ドサッ!


 また楽屋内に鈍く重い音が床に響いた。


「いいっ!? い、痛った~~~~~~っ! ちょっと、陽ちゃ~ん。痛たたた、いきなりなにするんだよ~~~~~……」


 ケンは不満そうな顔つきで地面に打った体の箇所を擦る。


「お前があんまりふざけた真似をするからだ。自業自得だ!」


 怒りのあまりに怒鳴ったら、俺もカクンと膝が折れた。

 どうやらホッと安心したら、俺まで気が抜け腰が抜けたらしい。

 様々な生の感情が脳裏に駆け巡りながらも力が抜け1度床に倒れると、もはや自分の体に力が込めれないし入り出来ず、動くのがもはや億劫になってしまった。

 ケンの横に、タオルを肩掛けする俺も身体を投げ出してへたりこむ。


 俺があぐらをかいて物思いに耽るように俯き、隣には横になって左腕を自分の顔の前に置いているケン、楽屋の椅子へと両腕を置いてその間に身体を預けて天井を見上げるように脱力するアッキーと壁際に背中を預けて俺と同じように肩の力を抜いたソウ……"Sol(ソル) Down(ダウン) Rockers(ロッカーズ)"であり陽没の熱演者たちは、もう体中の力は残ってなかったがそれでよかった。

 俺たちはもう全力で、本気で、コンテストのライブに挑戦できた。

 それだけの理由だが、俺たちには大事で達成できたことを誇りに思う。


「あはは、なんだよ~。陽ちゃんだって~」

「うるへーな。ちょっとライブではっちゃけすぎただけだ」


 全身に心地の良い気だるさが満ちていて、言い返すのすら面倒だった。

 それはケンも同じようで俺の返答を返すことなく笑ってるだけだった。


「同感だ。体力がありあまるオレもさすがに疲れたな~」

「ふむ。俺もだ……もはや動くのも難しいな」


 見れば、正確無比で怒涛なテクニックで場を沸かせたアッキーもソウも、さっきと同様に思い思いの体制で力無くぐったりしていた。

 4人が4人とも、全精力を持ってライブに使い果たしたのだろう。


 時間が刻々と過ぎる中でもジッとしていると、先ほどまでステージに立ちソルズロックを観客に感情のままに知らしめていたライブ会場から、ワッと大歓声と大喝采が上がり轟かされる爆音が聞こえてきた。

 おお、なんだよ。ずいぶん盛り上がっているみたいだぞ。


「ちぇ……なんだよ、サイコーな音と歌を奏でた俺たちの後も、けっこう盛り上がってるじゃないか。流石にレベルが高いな、コンテストに出場する面々はよ」


 クソっと思って、耳を澄ませてから理由に気づいた。


「……ああっ? こ、これは……」


 メンバーたちとの話で意識が向き、さっきのことなのに忘れていた。

 だけど、会場に流れ奏でる音と聞こえる声で記憶を呼び戻してくれた。


 疲れ果てても、記憶に消えてても、俺の耳はその声を聞き逃さない。

 かすかに耳へと飛び込んで聞こえる歌声は、大好きな稔のものだった。

 いつも以上に可愛く整ったライブ衣装に身をまとい、俺好みのスタイルでいつも惑わしてくる胸やお尻で魅了を振りまいてくるクセに、まるであどけない少女のような性格で接してくれる元盲目の少女が俺から手渡された歌のバトンをしっかり取って奏でてやがる。


 背中に羽を生やして飛び立って、人々に幸せを分け与えている。

 彼女たちの創り出す歌声と音はそういう力が込められているんだ。


「ああ、この音と歌声は間違いないね。僕らの後は二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)だったよね。うん、さすが結理ちゃんたちだなあ……迫力が違うね」


 ケンが腕の中から覗かせる目を閉じて、稔の歌声に耳を澄ませていた。

 彼女たちの奏でる音と稔の歌声に、心地よさそうに微笑んでいる。


「バカ。感心なんてするんじゃねえよ。いくら知り合いだって言っても、アイツらはコンテストに立ちはだかる最大の敵なんだぞ。俺らよりいい演奏されて、優勝を持ってかれたらどうすんだよ。俺たちが初出場初優勝を決めるんだぞ」


 俺がうなだれながら文句を言うと、俯いて聴いているソウが呟く。


「まあ陽ちゃん、もうよいではないか。もう俺たちが出す楽曲は観客に、審査員席にいる音楽業界の人々に紡げたんだ。こちらはこちらで、出し切れるだけのことはやったのだからな。後は結果のみ……神のみぞ知るだ」

「そうそう、そういうこと。難しくて堅苦しいことはもう抜きにしようぜ~? オレは、オレのことを思ってくれてる女の子たちと新たな俺のファンとなる女の子たち、そして大事な芽愛から十分キャーキャー言われたから満足だ」


 ソウもアッキーも曇り気の無い笑顔を振りまき同意する。


「なんだソレ、なんて志が低いクソッタレなヤツらだ!」


 とは悪態気味に言うモノの、俺も自然と顔がにやけてきてしまう。

 俺も十分出し切れた演奏に満足してるらしい、人のことを言えないな。


 まあ無理もない、そりゃそうだよな。

 あんなにサイコーで熱くて楽しいステージだったんだから。

 カッコよく演奏できたんだから、もうしばらくは動きたくない。


「あー、ちくしょう。でも稔たち、知ってたがやっぱ上手いなー」

「うん、そうだね~」


 俺も無意識に稔たちの実力を認めるとケンがそれに同意し答える。

 ああ、そういや、稔たちに勝って優勝すると言うのが目的だったっけな。

 成長した演奏をしたから自信はあるがどうだろうな、勝てるんだろうか?


 わからない、だが、決して負けてる気はしない。

 今までのメンバー同士で意見も音すらも噛み合わないなら負ける同然だ。

 だけど少なくとも合宿を通じ絆を築いて全力で挑んだ今日は、相手がプロや神様とかそれすら超越する誰であろうと、俺たちのソルズロックは誰にも負けるような気はしなかった。


 結果がどうであれ、だ。

 俺たちにはそれを拭える最高の過程があったから、だ。

 だからこそこんなに清々しい気持ちで稔の歌声を聴けるんだ。


 俺が僅かに顔を上げて稔の歌声が聞こえるステージ方向を見てると、


「ねえ、みんな。二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)のステージ、観に行かなくてもいいの? あ~、陽ちゃんは稔ちゃんの歌う姿、見たいんじゃないの~?」


 ケンがみんなに、特に俺には意味深な言い方でそう促す。


「ああ、オレは別にいいかな」

「俺も止めておく。陽ちゃんはいいのか?」

「ん~……そうだな、俺も別にいいや」


 3人が俺の問いにビックリしたが、すぐさま俺の考えを悟った。

 自分と同じ気持ちなんだなって思ったらしくそれ以上は言わなかった。


 そうだ、とにかく今は力を出し切ったので動きたくなかった。

 少しでも長く、このメンバーでこうして一緒にいたかったんだ。

 最後となる俺たちの時間を、僅かに、長くしたいと願ってるから。


 夏休みに入る前から集まりバンドを結成し、色々なことを経験したこの面子でのステージに上がることは、もうこの先2度と起こることは無いだろう。

 悔しいが、これが俺たちの最後となるライブのステージだったんだ。

 奇跡でも起こしてまたコイツらとステージに上がりたいもんだ……。


 ライブを本気でやり切って力無くうなだれる俺たちは、誰もそうは言わないがみんな心の内でそれがわかっているから、誰1人としてここを動こうとはしない。

 少しでも長く、1分1秒でも多く、この時間が続けばいいと思っている。


 そんなことを心の中で考えていたら、サイコーで最高潮に有頂天へと達することができたステージで唯一無二となるサイコーの気分がよかったはずなのに、なぜかやり場のない言葉にできず拭えない気持ちが、腹の底から込み上げてきた。


 コレはロジック的な何かでは説明できない、心理的な想いだ。

 そんな気持ちが蠢いていると自然にモヤモヤしだして気味が悪い。


「あーちっくしょ~! 絶対に負けねえぞ! 太陽は沈まないからなぁ~!」


 今まさに得体の知れない感情に身心ともに覆い尽くされそうになり、俺は出せる限りの力を振り絞り叫んで、自らの並みならぬ熱い意思を奮い立たせる。

 違う、全然違うんだ、俺たちはまだ終わりなんかじゃない。

 考えてることがぜんぜん変わっているが、やはり終わりと思えない。

 だって、俺たちはまだSTART(スタート)から走り出したばっかりなんだからな。


 何度でも、何度でも、気持ちの弾丸を再装填して人生を進んで行こう。

 いつどこで、どんな場所でだってSTART(スタート)を切って走り出せるんだから。

 そんな風に気づかさせてくれた仲間に感謝をしないと、バチが当たるぜ。


 最初に仮初めのバンドとして鐘撞大祭(しょうどうだいさい)ライブのときと同じで、反射的に立ち上がって本当に空に沈み見えない太陽に向かって駆け出したい衝動に駆られたが、立とうとした途端に腰が砕けてまた座ってた場所に尻もちをついた。


 ダメだ、今は立ち上がれそうにない。

 だがいい、今だけは少し休むとしよう。


 この瞬間もきっと、ロックの女神様がくれた祝福なんだ。

 太陽を象徴とする天照大御神みたいな女神様の祝福を、無下にしたくない。

 だったらソレを快く受け入れ、ほんの束の間、"今"という大事な瞬間だけは――


 ――この素晴らしくクソッタレな仲間たちに安らぎを……。




 ご愛読まことにありがとうございます!

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