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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Third:Track To Chain To Feather To Sun To Chasers
250/271

249曲目

 オリジナルを2曲演奏を終えたのでステージを後にした。

 疲れ切った俺たちの横を歩いて行く【二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)】を尻目に楽屋へと戻ろうとすると、俺の横を過ぎ去る瞬間に稔の視線を感じ見ると目が合った。


「――()()、守ってくれたね。ありがとう、私のHERO……」


 そんな風に呟くとそのまま嬉しそうにステージへと駆け出していく。

 彼女の意味深な言葉を一瞬理解し難かったが、あのときの言葉を思い出す。


『君が照らしてくれる太陽、あの夢を描く空を、私に届けてくれるよね?』


 2度目の音楽人生の架け橋となった大事な言葉だ。

 そうか、稔もそんな昔のことを覚えていてくれたのか。

 ありがてぇ、俺は自分の中で演奏へと出向いた彼女に感謝を述べる。


 俺がステージの方からきびすを返すと、3人は俺の方を見て待ってた。

 待たせたことに悪びれるように駆け出し、楽屋へと向かった。


 まだ歓声が鳴り止まずに聞こえる。

 それは全部、太陽の象徴となる俺たちへと向けられた声だ。

 未だにとどまらずに熱狂的な俺たちのバンド名を叫んでいた。


「ふぅ~! ヤベェ、やっぱ女子にキャーキャー言われるのはすこぶる気分がいいが……こう、なんというか、でっかいステージで男女関係なしに注目されるのはサイコーだな。決めた、オレ、やっぱり有名人になるぜ! 陽ちゃんが太陽みたいに熱く輝くヒーローなら。俺じは世界中へと一番星にきらめき輝けるスターにな!」


 アッキーはライブで受けた大歓声と大喝采にすっかり味を占めたようだ。あの時の薄暗くて静かな本堂で、幾ばくかのクソッタレな女どもにキャーキャー言われていたのと、あんなに広くて神々しいライブハウス内にて演奏で巻き起こせる無限の可能性を秘めた実力を出して男女問わず出す歓声とは桁が違うからな。

 するとアッキーのスマホにてメールが入り中身を確認すると、彼の彼女である芽愛からのであり、『暁幸、もの凄くカッコよかった。私の彼氏はこんなにカッコいいんだぞって友達に自慢したら羨ましいって言われたよ~』と書かれていた。

 愛情の込められたメールを見てニヤニヤしているが、それも仕方がない。


「悪い、ちょっと芽愛と電話させてくれ。すぐに終わっからよ」


 そう断りを入れてから少し離れたとこに行き電話する。

 相手側もすぐに着信に出て、アッキーは楽しそうに会話している。

 立ち振る舞いも喋り方、そして汗に塗れたヤツの姿が星のように見える。


 それに将来はモデルになるか俳優になるかとか色々と言っていたが、こんな開放的で最大限に奮い立たされる快感を身心ともに知ってしまったら、コイツもいつか、大事な彼女へと自慢し続けられる最高のスターとしてライブの世界に戻って来るんじゃなかろうか。

 それは俺が突き進んでいく音楽と言うジャンルかどうかはわからないが、アッキーなら、俺の自慢できる兄貴だったらそれもありそうな気もする。

 コイツには自由と愛し土台を刻むベースがよく似合っているから。


「本当に俺たちはやり遂げたのだな。清々しい気持ちでいられるのが、こんなに素晴らしいとはな。仏教とビジネスでは感じ取れない、音楽の感覚的な解放感だ。しかし、この後に出るバンド……二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)には悪いことをしたな。今の観客は太陽の音楽で酔いしれている。よっぽどの演奏をしなければ、客は満足するまい」


 いつもは能面で無感情なソウが、今はどこか感情的で得意気だ。

 大人しくて第三者からの目線に立っているのが日常なのに、さっきかましたサイコーな演奏を世界中に旅立って自慢して回りたいとでもいうような、清新活力とエネルギーを与えるさまを彷彿(ほうふつ)とさせた顔つきをしている。


 人になにかを自慢することはしない色即是空で夢想無念な性格だったのにな。

 仏教で、己の内に生まれた欲とか自分とかは捨てるもんじゃなかったのか?

 ……と思ったので言葉に出し言って”仏の道から外れている”だなんて困らせてやろうかと(よこしま)な考えが浮かんだのだが、コイツ自身にある殻を破ってきて視野が広がったんだとも見て取れるし、今の俺はすこぶる気分がいいので黙っておいた。


「ああ、あんがと。俺も芽愛のこと、愛してるぜ。悪いな、今終わ……」


 彼女との甘い電話が終わってこちらにアッキーが近づこうとした。

 そのときだった。


 ――ドサッ!!


 床になにかが倒れ楽屋内に鈍く重い音が響いた。


「あっ……」


 似つかわしくない音に振り返ると、ケンがそこに倒れていた。

 まるで力尽きたように、うつぶせに倒れてからそのまま動かない。

 それを見て、最悪の考えが一瞬にして浮かび、体が反射的に動く。


「おいっ、ケン! 大丈夫か!? 起きろ、目を覚めせよ!」

「…………………………………………」


 すぐさまケンの元へ駆け寄って体を支え揺するが彼は動かない。

 人形のように人の形をしたなにかに変貌しており、背筋がゾッとする。

 まさか、本当に命を懸けて、力尽きちまったってわけじゃないだろうな?

 親友との別れが唐突過ぎて、洒落になってない。


「ケン! おいっ、起きろよケン!!」


 俺が出す本気の態度から2人も慌て始める。


「おい、ケン。よ、陽ちゃん、起きないってことはまさか……」

「なっ、そんな!? 待っていろ! 今すぐ救急車を呼んで……!」


 ソウが自分のスマホを取り出し119番に連絡を取ろうとしたときだ。


「ああ~、ちょっと待って待って~。落ち着いてよみんな。僕はほら、この通り大丈夫だから~、心配し過ぎだってば」


 腕の中で動かずにいたのに、バツの悪そうな顔色とともにケンが喋り出した。

 ドッキリ大成功! ――と、テロップが出て来る展開で、3人は唖然とする。




 ご愛読まことにありがとうございます!

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