24曲目
過去編その5
人間は常に感情を抱き行動している。
好きなモノは好きで、嫌いなモノは嫌い。
興味があるモノには惹かれ、その逆は離れていく。
欲しいモノがあったら買い、その逆は買わない。
それこそが自然の摂理であり、当たり前のことだ。
それは太古の昔から今、そしてはるかなる未来まで。
平和なるときも澱んで腐敗した世の中にもある存在。
あらゆる場所、あらゆる時代にも心を動かされる衝動。
それは人類に人間が存在する限り、永遠に続く『感情』だ。
だからこそ、俺は今、感情を動かされたに違いない。
俺には医療できる治療も、高い金を与える権力も無い。
無力で、無価値で、才能のカケラも無い俺だからこそ動かされた。
俺に出来ることは限られているし、初めて会った人にする必要もない。
だから、どうしたってんだ?
そんな理屈も道理も俺は知ったこっちゃない。
この子はこのまま病院生活を続ければ、近いうちにそのまま死ぬ。
彼女の弱気で内気な性格を少しでも変えれば、まだ未来があるんだ。
心だ、目の前に影で苦しんでいるこの子には今、心が必要なんだ。
だったらその心に色彩を塗り潰すための、音が必要なんだ。
もう一度俺は自分自身に"俺が俺であるために"とオウム返しする。
もしこんな俺を今見知らぬ人が見たらどんなことを言うだろうか。
今日会った女の子だから? 共感したから? 善人ぶってるから?
そう言いながら俺に指差して、ケラケラ笑って、馬鹿げてると言うだろう。
ああ、俺にとっては大いにけっこうなことだ。
善人ぶってるバンザイだし共感もしちまったし、目の前で救える命があるんだ。
いいじゃねえか……だったら俺が俺であるために、俺ができることをしてやる。
「だったらよ、アンタはもう一度"新しくページ"をめくればいいだけじゃねえか」
俺は盲目少女にそう呟きベットから起き上がる。
隣で横たわる彼女は"えっ"と小さく呟き疑問に思っていた。
俺はそんな彼女を尻目に、近くに置かれたアコギに手を伸ばす。
ネックを握り引き寄せ、ボディを太腿に乗せて右手の関節を置く。
そしてぎこちない動きでギターケースに手を伸ばし、ノートを取り出す。
「俺が今、君のその哀しいことを物語ってくれたから感情が動かされた。俺がするべきことを君は簡単に成し遂げたんだ。だったら今度は俺の番だ。君の目に巻かれた包帯を取り出す勇気、病気に負けずにこれからの人生を歩んで行こうという活気、そしてこれから先続く未来の中で君自身がやってみたいことを見つけ出せる運命……全部ひっくるめて俺が作った自信作のオリジナルを披露するぜ。俺にとって大事な客であり、失わせたくない命なんだからよ」
病室内にアコギから鳴り出したコードが響き渡る。
盲目少女は力を振り絞って上半身だけベットから起き上がらせる。
病室にいるのは俺と彼女の2人だけだし、僅かなやんちゃも大丈夫だろう。
とはいえいきなり俺の持論を呟いてからのアコギのコード弾きだ。
盲目少女はいきなりアコギの音が聞こえたため一瞬だけ身を強張らせる。
しかしすぐに俺の意図を理解してくれたらしく、黙って聴いてくれてた。
きっと医者や看護婦からも怒られるだろうが、そんときゃそんときだ。
悪いことをしちまった自覚はあるし、バレたらごめんなさいと謝罪しよう。
けれど――悪いことをしてまでもしなきゃならないってときがある。
それが今、俺の目の前にいる消えそうな命の灯に、もう一度強く灯すんだ。
そう心の中で決意を抱き出し、ペラペラと捲ったノートを仕草を止める。
そこには俺、熱川陽太が音楽を初めて最初に手掛けたオリジナル曲。
曲調はロック寄り、コード進行も単純だが、歌詞が熱く手掛けれた最高傑作だ。
俺は目をつむり、深呼吸し、たった一人の観客に聴かせる心の準備をする。
そういえば盲目少女は自分のこういった人生は運命なんだ、と言っていた。
運命か……こうしてこの子との出会いだって運命できめられてたのかもな。
だったら、俺が今こうして弾き語りをし希望を与えるのも、運命なんだ。
もしかしたら、この曲をこの子に聴かせるために、コイツは生まれたのかもな。
病室で、音楽環境も何もない個室だけど、今の俺にとっては最高のステージだ。
最高の、魂に灯を与える歌声とギターを君の心に伝えて、決意の朝を迎えよう。
俺はそう考えると思わず吹き出しそうになるが、出かかったとこで止めた。
本当にライトノベルみたいな展開にしか見えないけど、今本当に起こったんだ。
もう一度深呼吸をし、肩の力を抜き一気に鼻から空気を吸い込み。目を開く。
目の前にいる盲目少女のあるであろう目を見据えて、力強く前に漕ぎ出す。
「聴いてくれ。俺が俺であるために、君のために歌うぜ――"DREAM SKY"」
それが俺の原点であり、夢を追い続けるための火種となる曲のタイトルだ。
それは目の前にある霞ゆく命の灯に、もう一度最高の炎の魂を灯らせるために。
俺が願い続けてきた夢の第一歩を踏み出すために、俺の曲を今歌おう……。
ご愛読まことにありがとうございます。
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