248曲目
世界の自転が今まさにこのステージに立つ俺たちを起点にし回ってる。
森羅万象とも思えることすらも実感できるライブも、終わりに近づいた。
ギターを掻き鳴らしながらマイクに近づき、最後となる歌詞を唄い紡いでく。
「Hard Air Drive!!」
最後となる箇所を唄うと4つの音がさらにアドレナリンが注入されたかのような、大爆発にも似た爆音が奏で出しPAの音響のおかげでステージ内の上にあるスポットライトが色んな色で彩られる光が点滅してクライマックス感を高めていく。
観客達も右手を上げ人差し指を天高く上げて掛け声を唄う。
舞台袖で稔たちも同じく掛け声を唄い、俺たちを、俺を見ている。
ああ、そうなんだ。
核爆発よりも爆発力のあるSoundを奏でられるんだ。
俺が俺であるために、俺の歌を聴かせるためにライブハウス内に轟かす。
そう思うとダメだ、全然ダメだぜ、欲に目がくらむ自称音楽人らわよぉ。
金も女も地位も名誉も求めて音楽を演奏するヤツははふざけてやがる……そんな嘘偽りなカッコつけをしなくてもな……全世界に、全宇宙に歌と演奏を紡げば1つになれるんだよ! なぁ……そうだろ、ケン!
想いが爆発しそれを歌の力に変えて、マイクに向けて俺の歌を唄う。
勝敗を掴むのはキミ次第、だから、Hard Air Drive!!
未来を開くのはキミ次第、そうさ、Hard Air Drive!!
ケンが"Am"のコードを勢いよく弾き、アッキーがルート"A"を土台としたテクニックを披露し、俺が"Am"ペンタトニックで出せるチョーキングやタッピングに速弾きを織り交ぜたギターフレーズを弾きながらソウのドラミングが正確無比で細かいテクから徐々に遅くなってスリーストロークロールを終わらせた途端――3人はステージ上から高く跳び、地面に着く瞬間に"Am"のコードがズドンと噛み合い決まった。
直後、一瞬にして割れんばかりの歓声が一気に押し寄せてきた。
拍手喝采からの向日葵として百花繚乱の光景が視界一杯に広がった。
水を被るぐらいに降り注ぐ喝采の中、俺は理解する。
ああ、今この瞬間となる演奏が終わる。
いや、もうソルズロックは終わってしまった。
俺たちのたった1度の真夏が、今音とともに終わった。
だけどこれはもの悲しい終わりを告げることじゃない。
これは、ただの始まりに過ぎないんだ。
俺たちはやっと助走を終えたところだ。
スタートラインに立ててこれから本格的に走り出すんだ。
なに? 前からずっとそんなこと言ってるだろって?
同じことばっかで要領もなにもあったもんじゃないって?
お前は走り続けるんだとか熱くとか言い過ぎだって?
ああ、俺はいつだってそういう熱苦しい気持ちだぞ。
いつだってどこだってなんだって、これからなんだ。
どんな状態でもリスタートを切れる、人生なんてそんなもんだ。
観客からも審査員からも舞台袖からも大歓声と大喝采を受け、ケンがライブハウス内に生み出された熱気によって汗でびしょ濡れの顔を光を受け輝かせている。
最後のライブで満足のいく演奏が出来たって顔だ。
アッキーもソウも、やはり顔を上気させて満足そうだ。
熱気で包まれた体が割れてしまいそうな大歓声が、俺たちの全身を叩く。
大事なライブで満足いく演奏が出来たという充実感と達成感。
それがもう終わりを告げてできなくなってしまうという寂しさ。
ライバルの"二時世代音芸部"に勝てただろうかという期待と不安。
それから、不治の病に侵され続けるケンのことも……。
全てを賭けて挑んだコンテストのライブを見事に雪辱を晴らせることを達成した瞬間に、俺の中に色んな想いがごっちゃになって、たくさんの気持ちも込み上げてきて、体がはち切れてしまいそうになる。
だけど、これだけは確かにわかる。
今この瞬間は、俺たちが太陽になれていることだ。
だからこそ、俺は心の底から沸き上がる想いを叫んだ。
「みんなーーーーーーーーーッ!! 本当にありがとう!!」
不思議と、無意識に出て来たのはそんな人に向ける感謝の言葉だった。
ライブをする者としては捻りも無い言葉だが、それだけでいい気がする。
「みんな、マジで愛してるぜっ!! どんなときでも、暗くなったりしたら俺たちの歌を思い出せ! 人生という名の名曲というものはありとあらゆる時代を越えて若い人、 年寄り、男女の性別すらも超越して未来永劫に残り続け、歌い継がれていくものだ! みんな、盛大にこのクソッタレた世界に魂の爆音を奏で続けろよ!」
俺がずっと思いづつけていた言葉をアレンジしマイク越しに伝える。
想いが一気に伝わったのか観客からの大歓声が、天を宇宙を突きあげる。
俺はその行方を目で追うように、頭上を天高くへと仰いだ。
一瞬、熱くて輝く太陽の陽を浴びた。
そうだ。ライブハウスの天井しか見えないそこに、あるはずのないギラギラした太陽が、俺にはハッキリと見据えているような気がした。
「陽ちゃん、本当にありがとう……ぐすっ、僕の願いを叶えてくれてさ。やっぱり陽ちゃんは奇跡を起こしてくれるカッコいいHEROだよ……ありがと。アッキー、ソウ、一緒に演奏してくれたみんなありがとね」
ケンたちが、期待と達成感の想いで抱き合ったり握手を交わしたりしてる。
だが、俺はそこにはない、世界中を照らす太陽の空を仰いだまま動けない。
ケンたちがそんな呆然と仰ぎ見てる俺を振り返った。
「陽ちゃ……ってあれ? 陽ちゃん、もしかして泣いてるの?」
彼の言葉は的中してる。
俺の目元から熱い涙が流れている。
感激して出た感情だが、俺は恥ずかしくて否定する。
「バ、バカ、んなわけないだろ。泣いてなんかない。汗が目に入ったんだ」
「あはは、そっか。そうだよね、みんなすごい汗だもん」
「ああ、そうだな。でも……清々しい汗だし、綺麗だぞ」
熱気と祝福に混じり合い満ち溢れて出る汗は、あとからあとからと無限に溢れ出し、やり切った感を十二分に肌で感じる俺の顔中を濡らした。
あークソ、今日はなんて暑くて鼓動を高めてくれるサイコーな日なんだ。
おかげで汗が止まらないし、なにより、楽しくて仕方ないじゃないか。
「ロックに革命を刻み込めたんだ。そうだ、このクソッタレた世界にはすべてソルズロックンロール! 全力でライブをするならONE FOR ALL ALL FOR ONE!! ――WE ARE THE "Sol Down Rockers"!!」
天に向かって量の拳を高らかに突きあげ、俺は全力で叫んだ。
大喝采と大歓声が、俺に応えて空から降ってくるようだった。
朝も夜も関係なしに無数の星々と月の煌き、太陽の熱した光を浴びる。
こうして、コンテストに挑んだ俺たちのステージは、終わった。
俺たちのサイコーのメンバーで演奏できる夏が、終わった……。
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