246曲目
真紅より赤く、鮮血よりも熱い。
太陽と同等となる楽曲を、彼は奏でる。
さあ、大舞台に出せる策は整った。
今まで受けた雪辱を晴らす、反逆の狼煙を上げよう。
静まり返るライブハウスの中で見てる客たちを尻目に、初ライブで行ったときと同じように俺が決意に満ちたメンバー同士に目配せすると、俺の持つテレキャスターからドンシャリの音作りで一発"Am"のローコードを弾きリズムを取り出し、同時に暁幸のルート"A"によるリズムとビートが上手く噛み合い最高の爆音をライブハウス内に轟かす。
出だしでの魅せプレイに貫徹し、人々の視線を一気にステージに集中させる。
そこで俺がもう1度、世界に名を轟かす太陽の象徴をマイクに通し口にする。
「――俺たちが、Sol Down Rockersだっ!」
その瞬間、ソウのシックスストロークロールからの"Am"をドカンと決める。
爆音、衝動に駆られるような地響きがライブハウス中に反響し合い観客が騒ぐ。
それぞれが出来るテクニックを披露し、3度ほどの音合わせで演奏に返り咲く。
俺とケンだけの音だけになり、バッキングとテクニックに分かれて演奏する。
余韻が鳴り響く最中で宗介の持っているドラムスティックでカウントを始める。
すると今度はケンが"Am"のコードを弾き暁幸は先ほどと同様にルート"A"の音を指弾きでリズムを刻み、宗介の正確無比なドラムに合わさって俺が"Am"の中でできるロックバッキングを掻き鳴らし、あの時とは見違えるほどに精錬された音が混ざり合いノリを生み出した。
ロック風にと腰の位置まで下ろしたギターを掻き鳴らす俺とケン。
同じくその位置まで下ろしてピック弾きから指弾きに丁寧に変えるアッキー。
表と裏を交互に合わせて正確無比な音で生み出すリズムとビートを支配しているソウのプレイに混ぜて、ロックバッキングの中にオクターブ上のペンタトニック独特のダブルチョーキングを織り交ぜてから俺が1歩前に出て、マイクに向けてがなりをベースにした俺だけの唄い方で叫び出す。
「Hard Air Drive!」
瞬間、怒涛の進撃にも似た爆音と振動がライブハウスに響き渡る。
邦楽と洋楽のギタリストから視て聴いてコピーしてはアレンジに特化したケンのロックバッキングの中に"Deryck風"の歌メロに唄うようなカッティング奏法も取り入れた俺のギターフレーズ、ルートは必ずブレずにリズムとビートは当たり前のように刻み指弾きに加えて速さと音圧を重視した独特のスラップを"Flea"風に仕上げたアッキーのベースと、"Joey風"の高速のブラストビートやバスドラムを活かしたドラマー屈指の強烈で圧倒的なドラミングで叩き鳴らすソウの音がすべて噛み合い、Aメロへと繋げていく。
いつも俺たちのスレスレに刻まれる、運命と境界の狭間。
デタラメに折った紙飛行機を、飛ばしたのをよく覚えてんだ。
変わらぬ不甲斐なさのせいで、外で泣いたあの日だって……。
思い描けない夢だけ、もう1度立ち上がりたいと願ったんだ。
Aメロを弾きながら唄う俺はソッと上手でサイドギターを弾くケンを見る。
本気でライブする熱気で汗が飛び散るケンのギターが、素晴らしすぎる。
こんなにケンが弾く度に喜びが隠せないほどゴキゲンな音で唄うギターを掻き鳴らしてるなんて、音楽を始めて以来から初めてのことじゃないだろうか。
腰よりも下までストラップで下ろしたギターに呑気なクセにまったくブレもせずに編み出したギターフレーズを難なく演奏するだなんて、まるでケンが残りわずかとなった自分の命を天国と地獄すらも超越した業火で燃やし尽くすその力でギターに想いも感情もすべて注ぎ込んで掻き鳴らしているようで、俺は良い意味で胸が張り裂けるほどに苦しくなるような焦燥感を覚えた。
負けられない、もっともっと太陽みたいに輝くのは俺だ。
そんな気持ちに駆られてギターを弾き、最高の歌を唄う。
太陽のように熱いリズム隊に背中を押してもらい、俺は前に踏み出す。
暗闇のHope Light、空を切ったNo Mind。
今すぐ音を聴かせてくれよ、だから行こうぜJast We Way!!
絶望からのGo For Future、世界の果てまで Go My Way。
今すぐ生命を掻き鳴らせよ、ドンマイバッチグーOne For One!!
その手で未来を掴めよ、そして、せめて傍にいてくれよ……。
観客がぜんぶ、活気に満ち溢れ掛け声を合わせてくれる。
おい、おい、おい……日本のパンク・ロックさながらな大合唱だ。
心地よい、それでいて元気を与えてくれるなんて気が利くじゃねえか。
俺らはもっともっと未来へ、頑張って歩んで行かなきゃならない。
でもなケン、お前はそんなに身を粉にして頑張らなくてもいいんだぞ。
だってお前はそこに居てくれりゃ、ずっと居てくれりゃいいんだから。
お前は稔と同じく、俺の希望の星であり世界であり、太陽そのものだ。
シンガーソングライターとして子供が好きそうな物ぜんぶ投げ出して孤独だった俺に最初に手を差し伸べてくれた親友であり、周りが音楽なんて時代遅れとかバカにする中でもお前だけは傍から離れずにギターを弾いてくれたし、俺にだけしかできない作詞作曲だって難なくこなしてビックリさせた才能を持っているんだから……もう、そんなに頑張らないでくれよ。
救いたいだなんて思うほど、君が弱くないのは知ってたさ。
それ以上に俺が弱いから、君のことが大事だったんだ。
面と面で話すと、「独りで生きてくぜ」って言った俺。
成り下がってく俺を笑えばいい、独りで怯える俺のことを……。
演奏の爆音に轟かし、パフォーマンスも最高潮に決まってる。
こんな体力を消耗させる現状の中、お前は倒れちまうじゃねえか。
だけど、そう心配すると同時に、俺はメチャクチャ感動している。
何てったってあのケンがこんなに素晴らしい演奏ができるなんて。
ああ、ヤバい……メチャクチャすごいじゃねえか、ケン!
お前はやっぱりやればできる努力家なヤツだったんだな!
俺は今、本当にこれは俺たちが奏でているのかと疑問に思ってしまう。
だがこれは、今まさにステージ上で俺たちが奏でる太陽のSoundに間違いない。
俺とケンのギター、アッキーのベースとソウのドラムでの、熱い太陽の象徴だ。
暗闇のHope Light、空を切ったNo Mind。
今すぐ音を聴かせてくれよ、だから行こうぜJast We Way!!
絶望からのGo For Future、世界の果てまで Go My Way。
今すぐ生命を掻き鳴らせよ、ドンマイバッチグーOne For One!!
その足で明日を走れよ、そして、せめてその手で掴めよ……。
Bメロを唄い弾ききり等々盛り上がるサビに入る瞬間だった。
アッキーも俺の方を見ては輝く笑顔を魅せ、見えないソウも魅せてるだろう。
ああ、サイコーだ。こんなクソッタレてサイコーすぎるロックステージじゃ、ケンの体の心配だとか不治の病だとかバンドの活動がこれからどうなるかだとかなんとかかんとか、そんな煩わしくてみみっちいことだって全部がもうどうでもよくなってきやがる。
ロックンロールの原点を取り入れ、アレンジにアレンジをしたソルズロック。
ギターもベースもドラムもボーカルも、全てが混ざり合い大爆発し誕生する。
観客も審査員席の人らもゴキゲンに叫んでるんだ、これ以上なにかを望むのか?
ああ、望むよな……ソレは、太陽よりも熱く輝けるロックの音楽だぜ。
そうだ、もういい! これから先どうなっても知るもんか! その通りだケン! お前が思うように思う存分ギターを弾くがいいさ! ステージ上でカッコつけてゴキゲンな音を奏でればいいさ! これだけクソッタレて素晴らしい世界に祝福のロックを届け奏でられる演奏が本気でできりゃ、お前だって本望だろう?
音楽を演奏する者にとって、一番大事なことはなんだろうな。
金か女か、地位も名誉も権力も全てを手にする圧倒的な力か、違う。
ソレはきっと、決して消えない熱い魂を燃え続ける、不動の決意だ。
過去でもなく未来でもない。
今、この瞬間に俺は心の中で決めた。
何回目ともなる心の刻みになるだろうが、知ったこっちゃない。
――俺は、俺たちはロックな人生に恐れずに、決意を抱き続けるんだ。
大好きなロックを歌い続ける決意と、人を救う覚悟を持って音と向き合う。
だからこそ、今の俺たちは、サイコーに輝きを放ち演奏できてるんだろう。
世界中全ての人間に笑顔を出させるソルズロックンロールは、鳴り止まない。
怒涛に押し寄せるロックの音の波に飲まれる中、俺たちは必死に奏で紡ぐ。
ご愛読まことにありがとうございます!




