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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Third:Track To Chain To Feather To Sun To Chasers
246/271

245曲目

 夢を目の前にしてるんだ、誰が止まるか!?

 必死になって走るから、お前も、止まるんじゃねえぞ……。

 人間には生まれた瞬間から課題を課せられている。

 それは誰でもない個人の力でしか達成できない至難の業。

 ケンはケンにしか出来ないことをするんだって、決意していた。


「だから陽ちゃんも、こんな風にクヨクヨしてるのはらしくないし……シャキっとしようよ。まだ陽ちゃんの音楽人生は始まったばかりなんだから、こんなところで躓いてちゃダメだ。そんなのは僕が許さない。陽ちゃんはまだ動けるんだから、陽ちゃん自身が目指すべきゴールに向かって走り出さないと……言ったじゃない。陽ちゃんは太陽になるんでしょ? この世界を照らせる象徴になるのにこんなとこで躓いていてどうするの?」


 まだその手を掴めずに踏ん切りが付けない俺のもとをジッと見据えるケンに感化されたのか、ベースをアンプの傍に立て掛けたアッキーとスティックをスネアの上に置いたソウが近寄って俺の背中を支えてくれた。

 分け隔ても無く力の失った俺の体を支えてくれる、最高のメンバーだ。

 ああ、そうか。凡人だった俺の傍にはこんなに頼れる仲間がいるのか……。


「しっかりしろ、僕にとって最高の親友! 太陽になるんだから、もっともっと光り輝かなくちゃいけないじゃない。もっともっと力強く光を放ってギラギラに輝いてよ。それが、陽ちゃんにしか出来ないことなんでしょ?」


 ケンの言葉が、不思議な力を持って俺の胸に迫ってくる。


「俺にしかできないこと……太陽みたいに、光強く輝け、か」

「やっと気づいたの? もう、遅いな~。そうなんだよ。僕、陽ちゃんが太陽みたいに輝いて世界中に【熱川陽太】の歌とギターが認可されるの、楽しみにしてるんだからね」


 ケンが年端もいかぬ無邪気な子供のように笑う。

 俺にはその笑顔こそがずっと目指している太陽みたいに見えて、負の感情に支配されていた体が、今にも崩れて消えそうな心が温まっていくように感じた。

 そうか。ずっと自分自身でも俺は俺であるためにとか、人々を熱狂の渦に巻き込むのは俺だからこそ成せる業だとか自意識過剰に思っていたんだけど、それはきっと俺1人でできることじゃなかったんだ。

 One For All All For One――まさにその言葉に相応しいんじゃないか?

 友達、それこそがプロにも成せない、最強の力を発揮する源だったんだ。


 身も心もすっかり温まると、にわかに力が湧き上がってくる。

 背負うモノが多すぎるからこそ、全ての人に笑って演奏しなきゃな。

 それをアッキーにソウに、ましてや気弱なケンに教えられるとはな。


 クソおッ! なんだソレ、超ヤベーじゃんか!

 コノヤロー、ケンのクセしてかっこつけやがって!


「バカ。いいか? そういうのは、カッコいいオレの役目だろうが」

「あはははっ、うん。そうだね、陽ちゃんの役目だからしっかりしてよ」


 ステージ上で絆を確かめ合った俺たちは、見つめ合って大いに笑い合った。

 静かだったライブハウス内に活気が出始めたとき、周りの時間が動き出した。


「あの……"Sol(ソル) Down(ダウン) Rockers(ロッカーズ)"のみなさん。もしかして、なにかトラブルがありましたか? もし演奏続行が不可能とのことでしたら、棄権しますか?」


 舞台袖から出て来た司会が心配そうにマイク越しに訊いて来た。


 はっ……? 今、司会の人は俺たちになんつったんだ?

 ライブを棄権するかだと? ……ふざけんな、冗談じゃねえ!


 この素晴らしいロックに最高の祝福を贈れるライブなんだ。

 そんな短い人生に1度もあるかどうかの最高の瞬間を、切り上げてたまるか!


「おい待て、司会進行役の人! いつどこで誰が最高のライブを棄権なんてするもんか! ちょっと足をすっ転んだだけなんだし、すぐ演奏を続けるからちょっとぐらい寛大な心で待ってやがれ!」


 感情の赴くままに司会のヤツに怒鳴りつける。

 審査員の人も見てるんだし、これはもしかして減点対象だろうか?

 優勝から遠のいてしまいそうな行動だったが、まあもうなんでもいいや。


 差し出されたケンの手を取り、背中を支えてくれるアッキーとソウの力も借りて、親友の友情パンチを思いっきり食らってはステージにぶっ倒れて目が覚めた俺は勢いよく立ち上がる。

 ライブハウス内にいるすべての人間がステージに立ち俺たちを、俺を見上げる。

 ありのままにぶっ飛んだテレキャスターを手で取ってストラップを肩掛けする。


「すー……はー……」


 溜まりに溜まったモノを出すように大きく息を吸いそのまま息を吐く。

 深呼吸するといろんなものが、想いと感情が、それの中に渦巻いている。

 まるで、すべてを飲み込んで吹き飛ばしていく嵐のようなものだった。


 時間が経っても整理がつかず、まだすごく混乱している。

 どんなに取り繕っても戸惑いを隠せないのは当然の仕草だ。

 だけど、とりあえず最高のライブで最強の演奏ができる『今』この瞬間だけは、そういう感情も想いもすべて脇に置いておこう。


 無駄な事を考えずに、なにかを考えるよりも早く体が動きエネルギーを無駄に消費しないで悟りを開いた未来(さき)の人を感動させることのみに趣向を置いて、最も効率的な演奏を望めるように心の中で培ってきたことを考え込むルーティンに徹する。

 心が清く流れる水のように鮮明になった瞬間、目を開けて光を浴びる。

 今だけは、不治の病にすら負けない決意を抱いたケンと、覚悟を決めてライブに臨むアッキーとソウと俺と、新たなジャンルのソルズロックで挑み太陽の象徴となる4人で作るこのステージのことだけを考える。


 暗かった風景にパッと明るい光で照らされた世界が視界に飛び込む。

 気持ちはもう、揺るがず、熱くて楽しくてカッコいいことをするのみだ。


「オーケー、バッチグーだぜ。気づかせてくれてサンキュー。そんで悪かった、もう……本当に俺は大丈夫だ。最高の演奏を出せる自信をお前らに、大事な親友に教えてもらえたからな」


 アッキーとソウに目くばせを送りうなずくのを確認し、そのまま俺の方をジッと見つめるケンに向かって力強くうなずきかけると、ケンの顔に有頂天に達したほどの笑顔がこぼれた。


「うん、()ってやろうよ。僕たちのソルズロックを!」


 メンバーの意思を尊重して俺は再びマイクを握る。


「観客のみんな、そんで審査員の人らよ。なんかいきなり変なことになっちまって、誠に、すみませんでした。だけどもう大丈夫です、時間を取らしちまった分……最高峰の熱い演奏をするんで! Sol(ソル) Down(ダウン) Rockers(ロッカーズ)、再開します!」


 会場も舞台袖もまだざわついているが、俺たちは構わなかった。

 そんな不安な色すらも、俺たちの色で塗り替えてやればいいだけだ。

 ソウのカウントで、俺たちの作り上げたオリジナルの演奏を始める。




 ご愛読誠にありがとうございます!

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