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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Third:Track To Chain To Feather To Sun To Chasers
239/271

238曲目

仕事で残業により遅くなりました(汗)

真実の物語も終盤に差し掛かりました。

 ケンの話では、全国でも2000~3000人くらいの患者が降り男性のみが発病するとのことで、しゃべりにくかったり食事の際にむせやすいくもなり顔がぴくつきなど、手足がやせて力が入らないといった症状が中心に起こり症状はゆっくりと進行していくとのことだ。


 球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう)と似たような病気で筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)――通称【ALS】と呼ばれる難病と同様に、この病気の症状はゆっくりと蝕むとは言えいずれは全身に及び、進行すると会話や呼吸すらできなくなってしまい、稔みたいに病院生活はもちろん医療機械に頼らなければ息すらできずじまいで生きることも難しいという。


 だが、この病気で自由が利かなくなるのは言葉をしゃべったり、食べ物や飲み物を飲み込んだりするときに使う筋肉や舌の筋肉さらには手足の筋肉だけで、脳による思考には影響はないらしい。

 つまり、自分の体にある筋肉そのものがどんどん萎縮し動かなくなっていくのだけは、しっかりと理解できる、決して逃れることは不可能でも感じていられるということだ。


 それだったら、意識があることはむしろ苦痛を伴うだけじゃないか。

 ゆっくりと進行し自分の体が動かなくなってただ生きてるだけの苦しみが理解できるだなんて、なんて残酷なことを強いらせやがるんだよ、まるで生き地獄の苦艱(くかん)じゃねえか。

 理解し難い、どうしてそんな難病がこの世に存在するんだ?


 俺はあまりのショックで味覚でも奪われたのだろうか?

 深く考えることなく注文で店員が持ってきたサンドイッチがまるで砂でもかじってるかのようにジャリジャリし、暖かいコーヒーは泥でも啜ってるかのように苦く思えてしまい、やはり話を根掘り葉掘り聞かされてからどこかネジが外れてしまってるようだ。


「すまん……いつから、なんだ?」


 稔に勇気を与えただなんて、世界を救った勇者みたく浮かれてた。

 親友であるケンがそんな病気だなんて、ちっとも気づかなかった。

 俺はなんでも出来るんだって、自意識過剰に思ってただけなんだ。

 ははっ、おかしくて鼻で笑えるぜ、なんて大マヌケなんだ俺は。


「えっと、ちょうど3年前の今ごろだったかな? その頃からなんだか体の具合がおかしいなって思って、病院で診てもらったらこの病気だって告げられて……ほら、そのときから何度か、風邪だとか体調が悪いとか言って何日も入院したことがあったじゃない? あのとき、本当は、検査を受けてたんだ」


 ケンはしみじみと思い出すかのように告げる。

 奏音もカフェオレを飲みながらも思い出したのか、静かに泣く。

 理不尽だ、なぜこの兄妹がこんなに苦しまなきゃならないんだ?


 ともかくそのことなら俺も覚えている。

 何度も病院に行き入院生活になってたから心配になったものの、たいしたことはないから見舞いはいらないし大丈夫だと言うので、その言葉を信じて見舞いには行かなかった。

 入院しても本当に3か5日ぐらいで退院して戻って来たので、俺たちは風邪とかただ単に体の具合がかなり悪かったんだと信じて信じて疑わなかった。まさか、そんな治ることのない難病の検査を受けてるなんて、夢にも思わない。


「3年もずっと……そんなころから、お前は病気を隠してたのか」


 3年という期間を聞き、俺は心底驚かされた。

 そんな前から難病を患っていたのに、コイツは俺たちや稔たちにいつも通り気兼ねなく接しながら、呑気ながらも心配させないよう楽し気に振る舞っていたことを知り動揺を隠せない。


 苛立ちにも似た感情が沸き上がるが決して違う感情だ。

 親友として相談してくれなかった深い悲しみが溢れ出る。

 絶対に振り下ろせない拳を強く握り、開放するしかなかった。


「うん……陽ちゃんゴメンね、病気のこと話せずにずっと黙ってて」


 ケンは申し訳なさそうに弱弱しく言う。

 そんな惨めで辛そうな顔なんて出して欲しくない。

 病気のことをずっと黙ってたケンを責めてるわけじゃない。

 そんな治療法も無く決して治ることの無い難しい病気だということを、親友や知り合いである俺たちにずっと黙っているのは、きっとケンの性格と優しさからして俺たちが考えられないほどにメチャクチャつらくて、燃えさかる業火で身を焼かれるほどに苦しかったはずだ。

 生まれたときから盲目で世界が真っ暗というのが当たり前だった稔と同じように、いや、それ以上に難しい病気になっちまったってことだけでも深刻に悩んでただろうに、自分のことだけでも精一杯なクセにその上俺たちにまでそんな気を使ってたなんて……そんな現状を知って、無性に悲しくて腹立たしいことだ。


 今にも俺が泣き崩れ消えちまいそうだよ。

 この力のこもった拳を、いったい、どこに向ければいいのか?

 俺の中でいろんな葛藤が渦巻き、答えが出ることはなかった。


「ふ、ふざけんなよぉ。そういう大事なことは黙ってるんじゃねえ。俺とお前は親友なんだから、相談しろよ。早く言ってくれよな、バカヤローがっ……」


 テーブルの上に両手を置き身を震わせながらも言う。

 その声色はいつもの調子じゃなく、困惑の色に満ちていた。

 ソレは俺が消してしまいたい感情なのに、反逆は敵わない。




ご愛読まことにありがとうございます!

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