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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Third:Track To Chain To Feather To Sun To Chasers
238/271

237曲目

現実は理想との狭間に揺らぐ。

残酷と残虐な事実すらも突き付ける。

 それからのことは時間が経つのみで、よく覚えておらず記憶に無い。

 そこだけが白紙のように真っ白で足元もおぼつかない感じで過ごした。

 ハッと気づいたら、俺はいつの間にか演者の控え室へと戻って来ていた。


 時計を確認するともう本番に近い時間を示しており、控え室にはそれぞれのバンドメンバーが楽曲の確認やら楽器の練習やらをしている中、なにやら曇りかかった雰囲気を醸し出していたアッキーたちと稔たちが俺たちに気づく。


「あ、やっと戻って来た! 陽ちゃんにケン、どこ行ってたんだよ?」


 アッキーが俺の頭を軽く叩いては説教染みたように諭す。

 最初から痛みすらも与える感じで無くともまるで感覚が無い。


「あ、ああ……待たせて悪かった、ほんとに」


 俺はまだ雲の上を歩いているような感じで返す言葉も覇気がない。

 奏音に事情を訊こうとして出ていたのはほんの10分か15分ばかりだったと思うが、バンドメンバーであり今日のコンテストに本気で挑もうと意気込むアッキーとソウには、ずいぶん心配させてしまったらしい。


「2人ともゴメンね、心配させちゃったみたいで……ちょっと本番に近づくのを考えると緊張で大変だったからさ。陽ちゃんに緊張を紛らわすの、付き合ってもらってたんだ。お陰で緊張も大丈夫になったから」


 口ごもって答えられない俺に代わってケンが答える。

 2人はそれで納得するが、当たり障りの無いウソだ。

 ケンの平然な態度に思わず驚愕し、俺はさらに思いつめてしまう。


 だってそうだろ。

 ケン、お前はどうしてそんな平然とした顔でいられるんだよ?

 お前の病気は治療法が無くて、もう絶対に治らないんじゃないのか?


 普通ならもっとオドオドして心細くなったりするもんだろ。

 なのになんで、どうしてなんだ……。


「あの、陽太さん、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」


 傍で奏音が、心配そうに俺の水が濁ったような顔を覗き込んでくる。

 俺の顔を見るその目はまだ少し赤く、涙もろいように瞳がうるんでいた。

 そんな引っ込み思案のクセに人のことを大事にする奏音にまで心配されるほど、ケンの抱えている真相を聞いて、思わず現実逃避に浸ってた俺はどうかして見えるらしい。


 親友のケンが難病にかかり治ることは決してない。

 未だにそんなのは信じれずに受け止められない俺がいる。

 否定をしてれば嘘だと言ってくれると、まるで縋るような想いだ。


 とにかく話を聞いてからまだ気持ちが整理できない。

 頭の中がグルグル回ってるし、鼓動も痛いほどに速い。

 まるでここは現実なんかじゃなく夢の世界に居るようだ。


 ああそうだ、絶対そうに違いないじゃねえか。

 今朝、ひどくうなされて夢現(ゆめうつつ)で見ていた悪夢と同じじゃないか。

 俺はまだ夢を見てて本当はまだ目を覚ましていないんじゃないのか?

 そんな気すらする。

 だって、こんなことっておかしいじゃないか。

 小学高学年の頃にシンガーソングライターとして活動してた時も周りからの目は冷たく石ころでも思わせるような態度だったし、初めてできたファンで今となっては最高の歌を唄いギターを弾く子となった稔も盲目で苦しんでいたし、そんで今度は親友であるケンがそんなヘンな病気にかかるなんて……。


 それじゃまるで、俺が不幸を司る死神みたいじゃないか。

 世界中のすべてを照らせる太陽を目指しているはずなのに、死神のような存在だなと考える俺が先ほどまでケンと奏音から聞かされていたことを鮮明に思い出す。


 場所はライブハウスの会場から近い喫茶店の中だった。

 白神郷(しらがごう)の中でも中々の人気店なのか店内には人が多く店員があちらこちらで注文を聞いたり食べ物と飲み物が乗ったトレイを運んでいる中で、俺と2人が窓際にあるテーブルと椅子へと向かい座っては、すぐに寄って来た店員に注文を終わらせてから本題に入った。


球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう)――通称SBMA。緩徐進行性の下位運動ニュートロン病って言って、体中の筋肉が萎縮したり振戦っていう体の部位による震え。筋肉の痙攣(けいれん)や咳でむせる呼吸機能低下とかね。簡単に言うと、体中の筋肉が萎縮して細胞が死滅し体の自由が利かなくなって……最悪の場合、死ぬっていう病気なんだ」


 ケンは小難しい説明を怖がることなくにこやかに言った。

 そして店員が俺たちの頼んだ注文通りの品を持って来て口頭で伝えてから、動けずにいる俺の代わりにケンと奏音が3人分の軽食とコーヒーを手に取ってテーブル上に置く。


 はっ……今コイツ、俺になんて言ったんだ?

 体の自由が利かなくなって、最悪死ぬかもしれない病気だ?

 説明されてもなんだかわからないが、そんなこと簡単になんて言って欲しくないし、俺はただ長ったらしくて意味不明な病気は嘘だって言ってほしいだけだ。


「今の医療では原因不明で、治療法がまったくないらしいんです」


 奏音が流れる涙を手で拭いながら説明の補足をする。

 さっきから俺の求めているモノじゃなく、聞きたくない話ばかりだ。

 だがそうだとしても、イヤでも、俺はソレを聞かなければならない。


 そして、自分の中に落とし込んで認めなければならない。

 こんなに和やかなムードに見える光景でも、ひどく澱んで見えてしまう。

 俺は呆然としながらも注文したサンドイッチを食べたりコーヒーを啜ったりしながら彼らと対峙し、同じようにコーヒーを啜るケンが病気の説明をしてくれる中、カフェオレを飲んだり女の子が好きそうなイチゴショートケーキを食べる奏音と一緒に静観しながら大事な話を聞くことに徹した。


 この世を創造してくれた神様ってのは、残酷なことをしてくれるよな。

 淡々とした感じに説明するケンの話を静かに聞く俺は、そう思えてしまった。




ご愛読まことにありがとうございます!

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