235曲目
本命のライブ本番の前に言われる重い空気の現状。
陽太の頭の中で回る喝采と、熱は、どう巡り回るのか?
ここ最近起こる親友の異様な行動を突き詰めたい。
そう考えた俺は少し粗削りだが、行動へと移した。
「悪いな、もうコンテスト本番前なのに」
「いえ、それは大丈夫ですけど……」
どうしても納得いかない俺は、話を聞こうと奏音を呼び出した。
ホール内ではPAさんや他の関係者でごった返しているし、稔たちの前で聞くような話でも無さそうなのでその場所から移動し、会場に入る扉のすぐ近くで真相を隠し不穏な仕草をする彼女から聞くことにした。
動揺する気持ちのままじゃ、ライブに集中できそうにないからな。
ケンももちろんアッキーたちだってこのコンテストには全力を注いでいるんだし、俺だって3度目の正直となるライブには骨身を削ってまで入れ込んで来たんだから、絶対に足かせになるような不穏分子は取り除かなければならない。
「あの、陽太さん。私になんの用でしょうか?」
奏音は胸元に右手の甲に左手を隠すポーズを取り曇り顔で困惑する。
突然有無を言わず引っ張って来られて、奏音は戸惑っているようだ。
いや、それともほかに気がかりなことがなにかあるのか。
コンテストのライブは成功できるかどうかにメンバーとのバンドコミュニケーションがちゃんと取れるか、緊張でギターがトチらないかパフォーマンスが上手くできるか、そして実の兄が唐突に倒れたことへの不安なのかと、色々と不満はあるだろうが十中八九アレが原因だろう。
ここは1度山を張って様子見するのが妥当だと、考察する俺が口を開く。
「ああ、実はケンのことなんだが……」
一番に思い浮かんだのはやはり、ここ最近なケンの異様な接し方だ。
あんだけ体に異常を見受けられなにもないとこで転ぶのはおかしい。
俺だってそこまでバカじゃねえし、それで分からないならアホの極みだ。
「あっ……その」
奏音の表情がサッとさらに曇り困り果てる。
どうやら張った山は当たりを引いたようだけどケンの名前を出しただけなのに、ちょっと過剰な反応を示しすぎじゃないのか?
だが発想を逆転させると、そうなるまでに深刻な悩みともあり得る。
「あの、お兄ちゃんのなにを……?」
「そうか。お前の態度的にやっぱり、ケンになにかあったのか?」
考察がドンピシャでつい問い詰めるような口調になってしまった。
詰め寄る俺に僅かに頬を赤らめる奏音はおろおろして、目を泳がせている。
やっぱり、元々目が見えなかった稔と同様にケンにもなにか……。
「い、いえ、別にお兄ちゃんはなにも悪いとこは……」
「おい、奏音。なにも無いわけ……」
真実をはぐらかそうとする奏音に思わずさらに詰め寄る形になる。
薄々気づいている俺の態度に奏音は、困ったように俯いて固まっている。
これ以上無理やり聞き出すのは良心が痛むが、今はそれどころじゃない。
大事な親友が苦しんでいるのに何もないとかあるはずがないのだから。
「なあ、お前は昔から隠し事は苦手なんだから見りゃ一発でわかるんだ。なにか隠していることがあるなら言ってくれ。少しでも話せば気持ちも楽になるだろうし、相談にも乗ってやるぜ? ……それとも、ケンの事で言えないもんなのか?」
「えっ!? あの、そ、それは……」
ここまで切り出しても未だに口を割らず目を泳がせる奏音。
ただただ本番を迎える時間が刻々と刻み続けていくのみだった。
「ありがとう奏音、もういいよ。それは僕から話すから」
どうやって説得すればいいか考えてるとき、聞き慣れた声が届く。
聞き間違えるはずがない、俺にとってかけがえのない仲間だからだ。
「ケン……」
唐突に掛けられた声に振り返ると、いつの間にかそこにケンがいた。
ライブホールから意味ありげに出た俺たちの後を追って来たのか……。
ともかく、今の俺たちの話をそこで静かに聞いていたらしく、原因を知られたケンの顔にはまるで踏ん切りをつけて、頑張って目指していたなにかを諦めたように清々しい顔色を覗かせていた。
「ケンから話すってことはアレか。やっぱりなにか俺に隠してることがあるんじゃねえか。だとしたら水臭いじゃねえか、俺たち腹を割って話せる親友だろ。気兼ねに悩みごととかあるんだったら相談してくれよな?」
「うん……ありがとう。ゴメンね、今まで黙っててさ。もしコレを話したら、きっと陽ちゃんと距離を置いちゃうような気がしてたから。だけど、やっぱり陽ちゃんには話しておくよ。親友、だもんね」
ケンは決心を固めたように声に出して俺の目を見る。
「あ、お兄ちゃん、ダメ……陽太さんに言ったら」
動揺し慌てる奏音に、ケンは彼女の頭に優しく手でなで首を振った。
なんだよ、俺に言ったらなんなんだよ? 激怒して暴れたりすんのか。
もの凄く気になるんだが、いったいケンになにがあるって言うんだ?
真実を伝えるのをもったいつけるように大事な時間が過ぎる。
緊張しながら重大なことを言おうとするケンの言葉をただ待つ。
最終的にケンは、いつもと変わらない爽やかな微笑を浮かべて俺を見る。
「陽ちゃん、黙っててほんとにゴメン。実は僕――病気なんだ」
1言1言、想いを噛みしめるように言い、俺は一瞬だけ戸惑いを見せる。
それでも日常的な会話となんら変わらない声色で、健二は静かに佇んでいた。
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