229曲目
※諸事情により投稿できず、昨日投稿するはずだった話です。
ああ、俺は今日と言う日を決して忘れられないだろう。
それは、無名の俺たちが伝説を築き上げる瞬間だから……。
驚異的なほどに素晴らしく、史上最高の景色だ。
ホール命一杯に集まった観客と目の前まで押し寄せる人の波。
鳴り止まないロックンロールのBGMと割れんばかりの歓声。
ライブをする数時間も前に自分のバンドメンバーと、今日この素晴らしいライブに祝福と爆音を届けてくれるバンドと対バンをする強者との顔合わせとともに音響にライブセッティングの紙を渡した通りの演出を醸し出してくれている雰囲気。
待ちに待ったライブステージの上にて最高峰の機材に囲まれ、スポットライトに照らされた最大限に実力を発揮できる舞台。
俺は今、キラキラとしたステージとギラギラに魂を燃やして盛り上がっているホールの観客の姿を合わせた光景を、下手の防音カーテンから覗いてた。
バンドの名を売り出せる絶好のチャンス到来となる。
自身に気合いを入れて、さあ、いよいよコンテスト本番だ。
今日ここで自分の出せる全力と限界の先にあるなにかを突破し全てを出し切らなければ、今まで仲間とともにやって来たことが全て無駄に終わり無意味と化し、2度の失敗で受けた苦渋を味わうだけになってしまう。
俺は下を向けた自分の視線をもう1度ライブ会場へと移す。
そこには自分の思い描いていた通りの憧憬が広がっていた。
ライブを見に来た客もいい感じにあったまって盛り上がっており、拍手喝采の嵐と口笛をし演者の登場を急かしたり右手をグーで上げたり人差し指を天に向かって上げたりと、今この瞬間を生きて生のロックな爆音ライブを聴かせてくれと言わんばかりの顔つきで溢れ返っていた。
俺は防音カーテンを少しだけズラし奥の方を見てみる。
ホールの奥にはPAさんが仕事する音響スペースがあり、その隣にある審査員席には俺でも知ってる音楽業界の大御所も居れば、やはり今を生きロック界を天川熱斗率いる熱気と躍動を生み出すロックバンド【Starlight:Platinum】のように人気を出そうとするアマチュア人気ニトロロックバンド【New:Energie:Ours】の笹上一成さんもいる。
その中には、俺のことも音楽性そのものもバカにし金が実らず実に下らないシンガーソングライターだと侮辱し続けた社長の姿は無く、それだけで俺のいた事務所の力量が音楽界では無意味に近いんだなと今ごろになって悟った。
修道服をベースにし自分たちの個性を全面的に出されカッコ可愛いライブ衣装に身を包んだ稔たち【二時世代音芸部】も、ちゃんとライブステージの方を見て俺たちの登場を今か今かと待っているが、稔はまるで防音カーテン越しにいる俺を見
据えて見てるかのような瞳を向けていた。
見る限り察するに、お膳立ては揃ってるってわけだ。
ライブ会場の方から真後ろにいる最高の仲間の方へと視線を移し、両目を軽くつぶって無駄な力の入った体を脱力するために息をありったけ吐き切り、鼻から静かにライブハウス全体から流れる空気も吸って軽く息を出し、両目を開けて笑顔を出す3人に言う。
「よし! 行くぞ、俺たちの音を奏でる舞台へ!」
俺がガッツポーズ交じりで言い張る。
「うん、行こう陽ちゃん!」
ケンが笑顔で答えてうなずく。
「おう、まかせとけ!」
アッキーが自信満々な笑みで髪をかき上げ答える。
「リズムは俺とアッキーに任せて、ケンは自分の音を信じてギターを弾け。陽ちゃんは、陽ちゃん自身の【DREAM SKY】と、俺たちの【Hard Air Drive】を歌い弾いてくれ!」
ソウがリーダーみたいに仕切っては元気づける。
そのお陰で俺も2人も思わずうなずき納得する。
おいおい、バンドのリーダーは俺だってのに……とも思ったが、こんな素晴らしく最高峰の大舞台にて自分たちのバンド名が世に広まるかそうでないかという大博打なんだし、この際みみっちいことは言いっこなしだろ。
前に出した4つの拳を合わせ、そして、俺たちは走り出す。
時間は運命にだけ従うように刻々と刻まれもう残りわずかになった最高の夏を、全力で身も心も感情そのものも熱く燃やし尽くすように、全力でライブステージに突っ走る。
瞬間、ホール内に更なる活気と歓声が響き渡る。
目の前まで押し寄せた客も、ライブ会場の中スペースにもみくちゃにされてる客も、奥の方で静かに見ている客と審査員席にいるお偉いさんや笹上さんまで、ここにいるすべての人が心躍り沸いている。
俺たちの奏でる熱くて楽しくてカッコいいSoundに熱狂している。
俺の背中からビシビシと伝わるスポットライトの光、周りのギターやベースアンプとソウの正確無比で表裏を完璧に叩くドラムセットから伝わる音の数々、俺の上手にサイドギターで弾くケンと下手でリズムとビートを弾くアッキーの鼓動が手に取るようにわかる。
歌が演奏メインとなった箇所にて俺はコロガシに足を乗せて、会場を見渡す。
もっとマイクに歌え、もっと楽器を弾いて叩け、もっと熱く滾らせろ、と。
ステージ上から見えるホールからヤジのようにほめ言葉を投げかけてくる。
そこにドヘタクソとバカにする輩もおらず、全ての人が熱狂の波にのまれた。
どうだ、これが俺たちソルズロックバンドSol Down Rockersの奏でるSoundであり、ロックのベースになる熱い魂の連鎖だぜ!
まだまだこれからペースもテンションも上げて、最初から最後までクライマックスフェイズに突入させてやっから、みんなしっかりついて来いよな!
俺たちのリズムとビートを聴いて、俺の、俺のロックな歌を心で聴けェ!
正確無比とビートの中に独創的なサウンドを奏でて、歌に入ろうとした。
最大限に力を発揮し、全力で観客が喜ぶ佳境に入り盛り上げようとした。
そのときだった。
――世界がぐにゃりとし、反転し出す。
ご愛読まことにありがとうございます!




