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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
23/271

22曲目

過去編その3

 あれ、俺、もしかしてあのまま死んだのか?

 体が思うように動かずにただ茫然とするだけだ。

 頭の奥に痺れがあるのを感じながら、俺は周囲を見渡した。


 そこは病室だった。

 俺はなぜかわからないが点滴を打たれており、横になっていた。

 隣には包帯を巻いた盲目の少女がおり、黙ったまま天井を見つめている。

 きっと俺と同じ、真っ白で雪のように彩られた世界の中にいるのだろう。


「お、おい君……えーっとその、大丈夫、なのか?」

「あっ」


 声をかけると、その世界から抜け出して俺を見つめた。

 包帯越しからだが、俺にはなぜか、嬉しそうな目を幻視する。

 彼女の声色はとても嬉しそうで思わず俺はドキッとしてしまう。

 その途端、包帯からゆっくりとまた涙が流れ頬を伝っている。


 俺はそれを見て驚愕し、狼狽えてしまう。


「おいおい、いきなり泣くなってば、俺なんか君にしちまったか?」

「あ、うん。わかってるよ。ありがとう……」


 盲目で深淵から抜け出した真っ白い世界にいただろうがどうしたんだろう。


「きっと、疲れてたんだよ。だって君、けっこう寝てたんだよ?」

「けっこう?」

「うん。お母さんから聞いたんだけど、1日まるまる寝てたんだって」

「嘘マジかよ。そっか……そりゃ。けっこう寝てたんだな、俺」


 俺は頭をポリポリと掻いた。

 いやーまいったな、という感じで。

 というか1日も寝てたら"ずっと"にならないか?

 いやまあ、俺としては別にそこはどうでもいいんだが。


「さっきまでね? きっと君のお父さんとお母さんだと思うんだけど、この病室に来てたんだよ? そのとき君はまだ寝てたんだけど……お父さんもお母さんも、ものすごく君のことを心配してたんだよ? "毎日少ない飯しか出せずにごめんな……っ!"ってお父さん、君にずっとそう呟いてたよ」

「うっそだろ? あのバカ親父がか!?」


 俺は自分の親父のことはよく知りたくもないのに知っている。

 昔から不愛想で手はすぐに出すし、罵詈雑言は日常茶飯事だ。

 お袋はそんな親父とは正反対で、優しく気心(きごころ)しれてるから良いのに。

 なんでそんな親父とお袋がくっ付いたのか、俺は未だに不思議でならない。

 まぁ、その2人が結婚してなかったら、俺はこの世に生まれていないんだが。


「ふふっ、こらっ。自分のお父さんのことをそういうのはよくないんだよ?」

「あー、そうだよな。悪い悪い」


 俺は隣で横になっている盲目の少女にそう言われ、思わず謝ってしまう。

 よくはわからないんだが、彼女を前にするとなんか、心から素直にさせられる。

 もしかしたら彼女は、そういった魔力めいた力を持ち合わせているのかもな。


「なぁ、君のその目……治らないのか?」


 その言葉を訊いた彼女は俯き、困り果てた感情を出す表情をする。

 しまった、もしかしたら聞いちゃいけない質問だっただろうか?


「ううん、実はね? もう私の目は見えるようになってるんだ」

「……えっ? そ、そうなのか? よかったじゃねえか」

「うん。だけどね……私は見えることを恐れているんだ」


 彼女はそうとだけ言い、また押し黙ってしまう。

 目が見える人生を送る俺には、その辛さはやはりわからない。

 もしかしたら俺が考えているよりも深刻なことなのかもしれない。

 俺はなんて答えてやればいいのか、どう汲んでやればいいのか、心が読めない。


「……そっか。大変、なんだな」


 情けない。

 そんな言葉しか浮かばない自分が、情けない。

 歌を歌い歌詞を必死に書いている癖に、情けない。

 大変だなんてわかり切ってるのに、それしか出せない自分が、情けない。


「うん、そうだよね。病院に救急車で私と一緒に君が運ばれてからの昨日は……私のお母さんもお父さんも一緒に来てくれたんだけど、帰っちゃいました。私の家、喫茶店で楽器スタジオ? っていうのもしていててね。仕事が忙しいからだって」

「仕事っ!? なんだそれ、だって自分の子供がこんなふうになってるのに!」


 俺の中で怒りにも似た感情がひしひしと生み出される。

 上半身しか上げられない体の傍に右手拳を握りわなわなと震わせる。


「えへへ、それはしょうがないことかもしれないかな。私は生まれた時から病弱だし、目も見えないでずっと病院生活を続けていたから。もしかするとお父さんもお母さんも、心のどこかでは私にいなくなってほしいって願ってたんじゃないかな」

「そんなこと……そんなことあるわけねぇだろっ」


 俺が叫ぶに叫べない怒り辛みをあらわにしても、彼女ははにかむように笑う。


「ううん。いつもと同じで着替えと、君の持ってたアコースティックギターを持って来てくれただけでもありがたいよ。着替えだってちゃんとパジャマだってあるし、あとね? 君のギターの弦、お父さんが錆びついててよくないって言ってここで張替えもしてくれたんだよ」


 俺は自分の傍に置かれていたギターを見る。

 そこには手入れもされ弦も綺麗に張り替えられたギターがあった。

 ボディの汚れやネックの澱みは変わらないが、それ以外は新品同然だ。

 隣で寝ている名も知らぬ盲目少女はわざと笑顔を作った。

 だけど頼りない笑顔は、逆に悲哀と虚空を浮き立たせた。

 俺は底知れぬ怒りをなんとか消し、力無く、されど決意を込め向き直る。


「なあ、説明してもらえるかな。君がなんでそんなふうになったのか」

「えっ……でも、聞いてもあんましいいことじゃないけど、聞いてくれる?」

「もちろんだ。俺にとって、初めて立ち止まって聴いてくれた人だからよ」


 盲目の少女は頼りなく、けれど嬉しそうにはにかむ口元を見せた。

 そして隣で横になっている彼女は、包帯中の視線を天井に戻した。

 そんな仕草を、隣のベットにいる俺は、ただ黙って眺めていた……。




ご愛読まことにありがとうございます。

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