226曲目
残業で投稿遅くなりました。
本当に申し訳ございません。
翌日、宣言通りケンは元気に練習にやって来た。
場所は近場で割かし割引させてくれる喫茶店兼楽器スタジオ【エテジラソーレ】を使いたかったが、やはりバンドコンテストに出場するバンドに他のライブで音合わせするバンドはもちろん……俺たちを待ち受ける最大のライバル【二時世代音芸部】が使用中として埋め尽くされていたので、白神郷の中でも人知れぬ隠れ家的なスタジオに集まり、本番を本気で立ち向かうための最終確認となる音合わせをすることとなった。
もはやバンドマンとして慣れた手つきで、俺とケンとアッキーはエレキギターとエレキベースに付けられたストラップを肩掛けしシールドに繋いではそれぞれのアンプで音作りをし、ソウはスタジオ内にあるドラムセットのセッティングをし終わったのを確認するように目配せをしてから、俺たちのオリジナルを演奏する。
これがバンドコンテスト前の最後のスタジオ練習になる。
2度目の音楽としての生き甲斐を持ちバンドに命を懸けている俺はもちろん、それに同調し一緒について来てくれたケンもみんなも、いつになく真剣な面持ちで演奏に集中し溢れるほどの気合いが入っていた。
独奏的で正確無比が重なり合ったアッキーとソウの奏でるリズムとビートも、いつになく生き生きとしては自分たちの色を全力で出し演れていることを、演奏する見た目はもちろんだが奏でる音そのものから伝わってくる。
ケンも元気に、それでいて楽しそうにギターを弾いている。
昔っから相変わらずたまにもたついてフレーズを間違えたりするが、それすらも取り込むようなアレンジをのんびりと弾ききったりするし、なにより足のケガの影響も無ければ咳や手の震えも無さそうだ。
俺の奏でる音も唄う歌声も、いつもよりゴキゲンで熱い表現を出している。
ロック調をベースにしたフレーズも、荒削りが個性の歌声も、マッチしてる。
確実に納得する演奏が終わり、音の余韻が残る中で俺たちはホッと息をつく。
「うむ……上出来だ。本番前になんとか仕上がったのではないか」
「ああ、今のは完璧に音がハマったな。これなら文句はないだろ?」
バンドのリズム隊の2人から太鼓判が押されるが、俺も同意見だった。
練習なのにまるでライブ本番さながらな演奏をしてたと言ってもいい。
苦渋を味わった俺たちが納得できる音と歌で重なり、文句ない出来だ。
これならイケる、そう自信で思っているのも確実のものとなる。
「おう! 俺のメインギターにケンのサイドギターで出す怒涛の爆音。それにアッキーのベースとソウのドラムで奏でる正確無比と最大限に発揮する独創的な思重音。熱くて輝かしい歌詞を唄う歌とコーラス。全部が上等の出来だ。これなら【二時世代音芸部】と真っ向から勝負できる!」
今思えばこれまで色んなことをしてきた。
昔から演っていた路上ライブはもちろんのこと、施設でのアコースティック生ライブに走り込みなどの肉体的な特訓から座禅などの精神修養の修行もしたし、アイデアを出し合っては足したり引いたりして創り出す仲間との作詞作曲と数え切れないほどの経験を体験させてもらえた。
夏休みに入る前に組んだバンドのメンバーとして、長きに渡る合宿を見事にやり切った後の最後となる練習になったが、試行錯誤を何度も繰り返しては懸案だったバンドの初オリジナル曲も、なんとか満足いく出来に仕上がった。
いや、それよりも思っていたよりもずっと良い物に仕上がった。
偏見的なアッキーも物静かなソウも、珍しく興奮しているぐらいだ。
初出場初優勝、素人同然のバンドで無理だと誰もが言った。
しかし、無理を押し通し叶える未来も、遠くない事実へと変わる。
そんな気持ちにさせられるほど、俺たちのオリジナルは緻密に完成した。
「正直、オレはここまで自分たちのオリジナルが仕上がるだなんて思ってもみなかったぜ。ケンがアイデアを出しては俺とソウが意見をし単語を出し合い、最終的に陽ちゃんが歌詞を書いて出来上がった『Hard Air Drive』は、もうプロと肩を並べられるほどの楽曲だって、オレ自身が認めたい。ははっ、合宿前からすると、作詞作曲も楽器の腕前もビックリするぐらいよくなったよな!」
また褒めるのをあまりしないアッキーからお褒めの言葉をもらう。
合宿をし終わって成長したのは、どうやら実力だけでは無いようだ。
「アッキー、あまり自分の実力を過信するのはよくないぞ。俺たちは合宿を通じて上手くもなりそれなりの心持ちも育った。だが、僅かな慢心であのような屈辱的なステージにするわけにはいかないのだ」
「うぐっ……わ、わかってるぜ。ソウ、いちいちツッコんじゃねー!」
「ははは、すまん。だが、このように確実な自信を持ってコンテストのライブに挑めるのも事実だ。これも陽ちゃんが頑張って『Hard Air Drive』の歌詞を書いたのももちろん、バンドロゴとライブ衣装、そして歌詞の単語などのアイデアを自発的に出してくれたケンのお陰だな」
「ああ、そうだぜ。あんがとな、陽ちゃん。そんでケン!」
リズム隊の2人が俺たちを褒め称え、アッキーが俺の背中をバンバン叩く。
ソウがケンの肩に軽く置いて感謝を述べると、彼も嬉しそうに頬を緩める。
「あはは~。いや~、そんなことないよ。これはみんなのお陰だよ」
謙虚に否定するケンだが、2人も俺も彼の努力は知っている。
バンドの強化合宿の最中も書いていた、俺の作詞作曲ノートだ。
俺も思いついた単語や天啓的に授かった歌詞などをよく書き綴っていたが、音楽性のクリエイティブなとこがあるケンが真面目な性格から几帳面にメモしていた問題点や注意点に歌詞や曲調のアイデアを大まかな元に当て、みんなで話し合ってどんどん改善しては改良を加えていったのだ。
お陰でこんなにロックでカッコいい楽曲として完成品になったのだ、もちろん俺たちも互いにアイデアを出し合い緻密に仕上げてたが、ケンの脳裏から溢れ出る歌詞にはそれだけ説得力と暖かみを感じる不思議な感覚を与えてもらえた。
「おいおい、そんなに謙遜するな。ほとんどお前の出した歌詞で作り上げたようなもんだぞ? しかし俺も驚かされたぜ。ケンはプレイヤーより、歌詞を書いたり曲を作ったりする方が才能を開花する可能性があるんじゃないか?」
親友の健二はギタープレイよりシンガーソングライターの異才がある。
それも俺がずっとし続ける作詞作曲が目じゃないほど、圧巻する能力だ。
悔しくないと言えば嘘だが、親友が持つ能力が開花されて嬉しく思える。
いつも俺の後ろに付いて来て、いつの間にか肩を並べ歩いてくれる親友。
そしていつしか、凡人で努力するしか能のない俺を引っ張っていくのか。
そう思うと、なんだか少しだけ、切なくて苦しくなっちまうな……。
作詞作曲という、音楽性としての先天的な異才がある。
そう心の中で感じ口に出した俺の言葉に同意して同じように喜んでくれるアッキーとソウがケンに近寄り、頭を撫でたり肩を軽く叩いては2人からサムズアップし褒められてることが急に恥ずかしくなったのか、目を細めたケンは頬を染めては子供のように照れていた。
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