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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Third:Track To Chain To Feather To Sun To Chasers
225/271

224曲目

投稿遅くなり申し訳ありません。


リアルでこういう事態ありました…。

結構、精神的なダメージがありますね。

 原因も軽い熱中症でコケて捻挫したってだけを知った後。

 ケンはまだもう1度ちゃんとした検査をするらしく診察待ちだと言うので、待たせるのも悪いとケンに諭されて、その言葉に甘えて稔と奏音と一緒に帰宅した。


「演奏するのに支障が無いらしいし、よかったよね」

「ああ、そうだな」


 俺と稔はケンのことを話しながら歩道を歩いている。

 しかし……。


「………………」


 たった1人は病院を出てから浮かない顔だ。

 大したことではないのに死の瀬戸際に直面したかのように呼びつけたことを責め、よっぽど気まずいのだろう、稔の隣に歩いている奏音はずっとしょげて黙っており、その姿はまるでこの世の終わりとでも彷彿とさせる見た目を表していた。


「奏音ちゃん、大丈夫?」

「あ、はい。すみません」


 奏音は謝る。

 その姿に見かねた稔が心配するが、どこか上の空な感じだ。

 いつもの奏音の態度じゃなく仮初めの気がするよそよそしさだ。

 暗い姿を見せてるとこちらまで暗くなりそうで、辛いな……。


「暗い顔なんか出してないで、心機一転で元気を出せよ奏音。まあそんなに気にするな。俺たちに誤爆で呼びつけたことだってもう怒っちゃいないって」


 俺はなるべく優しく、それでいて明るく言う。

 すると奏音は魂が宿ったかのように体をビクンと震わす。


「えっ? あ、その……はい、えっと、すみません……」


 奏音はまた謝る。

 間違いなく、どこかおかしい。


「だから俺も稔も全然気にしちゃいないって言うのに一々謝るなって。それにケンも大したケガじゃなかったんだし、軽い熱中症なら少し休めば良くなるんだからよかったじゃないか」

「あ、はい、そうですよね。無事だったんだし、ほんとよかったです」


 だが、やっぱり奏音は日影に入ったように浮かない表情だ。

 稔も無言で俺の方を見て心配する感情を出しながら目配せする。

 たしかに穏和で健気な稔がメンバーの調子がよくないのを心配するのは至極当たり前だし、なにより奏音は気弱なとこは目立つが真面目で几帳面だから、大きい小さい関係なしに自分で侵したミスによって俺と稔に心配をかけたことが許せないんだろう。

 まったく、兄妹揃って真面目で几帳面すぎるんだよな。


「奏音ちゃん、家に着いたよ?」


 ケンの軽い異常を見てからずっと上の空の奏音は、自分の家に着いたのにも気づいていないようで、俺か稔が声をかけてやらねばならなかった。

 稔が気持ちを察して奏音に向けて優しく諭すように口にする。


「あ……はい、稔さん。すみません」


 奏音は稔の方を振り向いて丁寧なお辞儀をする。


「今から財布を持ってケンのアホンダラをわざわざ迎えに行くんだろ? 稔も付き添いで行ってくれるらしいけど、男手は無しで本当に大丈夫か?」


 病院から健二の家まで歩道を歩きながら聞いた話では、稔はこのまま奏音とともにもう1度病院に出向きに行っては健二を迎えに行ってまた戻り、そのまま健二と奏音の上流階級(アッパークラス)さながらな家にお邪魔してはコレクションとなってるギターを借りて練習していくとのことだ。

 今思えば稔の実家である【エテジラソーレ】やら南桐と柳園寺のコネで音質のいいとこで練習と音楽性のコツを教えてもらえるとか、日向家の豪邸となる部屋の中でスタジオさながらな練習もできる場所もあるやらで、けっこう【二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)】のメンバーって実力もチート染みてるけど練習場所もチート並みだよなと考えてしまう。


「あ、はい、大丈夫です。そこまで手を煩わせるわけにもいけませんし。あの、お二人とも、ほんとにすみませんでした」


 俺と稔を交互に見てはまた謝る。

 あまりにも真面目すぎて、さすがに苦笑してしまった。

 稔は奏音に寄り添ってなだめるようにし、俺は励まそうとする。


「わかったわかった、だからもう謝るのはいいって。お前が兄さんのことを心配していることは充分に俺も稔もわかってるから。それより、明日の練習はちゃんと頼むぞってケンに言っておいてくれよ。咳したり手が震えたりして調子が悪いとか捻挫した足が痛いからってサボるんじゃないぞってな」


「はい、しっかり伝えときます」

「よし、んじゃ稔、後は頼むぞ?」

「うん、任せといて。ありがとね」


 稔に感謝されて思わず心も踊りそうになる。

 だがイメージを崩すわけにはいかずにグッと耐え、帰ることを伝える。

 するとそこでまた知り合い同士なのにご丁寧に頭を下げる奏音に、俺は苦笑を浮かべながら手を振ってきびすを返し、稔に貸していたロードレーサーのサドルにまたがり乗ってペダルに足を付けて道路を走り出そうとしたときだった。


「あ、陽太さん!」


 重心を乗せペダルを漕ぎ走り出そうとすぐ、また呼び止められた。

 一瞬にしてブレーキをかけ走り出すのを止め、稔たちの方を振り向く。


「なんだ、どうした?」

「奏音ちゃん?」


 隣で安心させようと試みてる稔も彼女の方を見て様子をうかがってる。

 俺もいきなり呼び止められたので何か用があると踏み、同じく様子を見る。


「えっと、その……あの……」


 先ほどからそうだが、奏音の様子がおかしい。

 あれだけ健二の症状は大丈夫だとか心配するなと話し合ったのにまだなにか言いたそうだが、これは言っていいのか悪いのか決められず呼び止めたのに言おうかどうか迷ってるみたいだ。


「奏ちゃん、ほんとに大丈夫?」


 稔がそう聞くが奏音はコクコクと小さく首を振ってうなずく。

 いや、今の奏音はどう見ても大丈夫には見えないんだが……。


「まだなにか心配事でもあるのか? あるなら言えよ?」

「ああ、いえ、その、あの、えっと……今日は、本当にすみませんでした」


 奏音はもう1度、深々と頭を下げた。

 もどかしいし煩わしい、呼び止めてまでまだ謝るか。

 稔もきっと同じ気持ちだろうが苦笑を通り越して心配になるぞ。

 日向兄妹は生真面目で几帳面なのに、心配させることは一丁前だな。

 心理学を勉強していない俺でも、奏音はなんか不自然なのがわかるぞ。


「おいおい、何度も言わせるな。気にするなって言ってるだろうが」


 声を掛けられた俺は乗ったロードレーサーから降りて日向家の豪邸である外観の壁に向かうと、自転車の右側を壁側にして立て掛けてから引き返して、しょんぼりうなだれて踏ん切りの吐かない奏音の頭を、手の平を出して置いては命一杯の力を込めて掻き回してやった。

 あっという間に、奏音の頭は綺麗な髪からカッコーの巣みたいになった。

 なるほど、これが東京での番組にある劇的ビフォーアフターってヤツか。


「え、ええ!? はうう……そんな、陽太さんひどいです……」


 俺が悪ふざけでやったことに稔がムッとし俺の方を見る。

 だがすぐにその不機嫌さが消え、それどころか安心し出した。

 なぜなら、絶望の淵に立たされた人を元気付ける顔つきの彼がいたから。


(……そっか。また熱川君は、太陽みたく明るい言葉で助けるんだね)


 無言で見守る稔は心の中であのときのことを思い出しながら微笑む。

 今の彼に任せてみよう、稔は咎めることを止めて静かに見ることにした。


 その間に泣きそうになりながら、変になった髪を撫でつける奏音。

 一生懸命に手ぐしで直す奏音を見てると思わず笑いが込み上げてくる。


「ハッハ! なんだ、今のは少しロックっぽくて自由に飛び立てそうだったぞ、やっぱどんな見た目でも似合うじゃねえか。さすがは音楽界の天才少女、俺らにできないことを素知らぬ素振りでやってのけるもんだぜ」

「あーっ! ダメです。その呼び方やめてくださいってば~!」


 今まで静かだった奏音が唐突に大きな声を出す。

 そうだ、今の言葉と元気さがあるからこそ奏音なんだ。


「そうだ、その調子だ。いいセンスじゃねえか、奏音! 今のように感情に逆らわずに腹から声を出せば不思議と力が湧き出るだろ? いつも不安で不平不満を体に抑え込んでは溜めて、背中を丸めて暗くなってるから力が入らないんだ」

「あ……は、はい! そうですよね」


 奏音は、言われた通り背筋を伸ばして胸を張り少し上に視線を向ける。

 すると自然に笑顔が浮かんで、暗くて沈んだ雰囲気がぶっ飛んだように感じる。


「ほらな? 自然と力が湧き出て来ただろう?」

「はい、ほんとですね。陽太さんすごいですよ!」


 いつまでも謝り続けてたのに、今は奏音が燦々と笑う。

 やれやれ、やっといつもの奏音になったようで何よりだ。


「よし、笑顔を出せば元気が出るんだから。初々しく笑え。さ、稔と一緒に病院、戻るんだろ? ほんとに2人だけで大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ。稔さんも付き添いで来てくれますし、それに私は、もう子供じゃないんですから。心配しなくても大丈夫です」


 奏音が笑顔で答えると稔も静かに、それでいて嬉しそうにする。

 おいおい、さっきまではまるで泣きじゃくる子供みたいに駄々をこねていたというのに、元気を取り戻した奏音はすっかり大人ぶって言う。

 まあ、健気な女の子が大人ぶるのもまた一興ってことなんだな。

 んっ? 子供みたいだった……か。

 そういえば、今さっきみたいにしょんぼりして落ち込んでいる奏音を、前にもどこかで見たこともあれば元気づけたような気がする。

 頭の中にモヤがかかって全然思い出せないが、なんだったか。

 俺が脳裏に浮かぶモヤの記憶に唸って考えているときだった。


「それじゃ陽太さん、どうもありがとうございました」

「ありがとね、熱川君。んじゃ私たちは病院に行くね?」

「んっ? お、おう。じゃあな。車に気を付けて行けよな」


 稔と奏音の言葉を聞き入れた俺へと手を振りきびすを返すと、道を歩く。

 俺は歯切りの悪い感覚のまま脳裏に浮かぶ昔の記憶を探しながら、病院へと進む彼女たちの背中が見えなくなるまで見ていたのだが、それがいつだったのかは結局思い出せないまま、見えなくなった2人の背中が進んだ道からきびすを返しロードレーサーにまたがり乗ってペダルを踏んで漕ぎ出し別れた。





ご愛読まことにありがとうございます!

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