223曲目
リアル事情で俺のストレスがマッハなんだが……。
ケガをしても足をひねっても、必ずバンドコンテストに出るという覚悟。
珍しく、呑気で爽やかなケンが実に頼もしいことを口にし言ってくれる。
バンドの強化合宿を経てメンバー全員は肉体と精神が成長したのは知っていたが、元々なんにつけても自信の持てないケンが、こんなふうに強くて曲がらない意志を見せるのは珍しい。
今のケンには、この先どんな悲劇な現実が待ち受けていようとも、決して諦めずに絶対にステージを仲間とともに成功させようという決意が感じられた。
それだけ、今度のバンドコンテストに全て賭けてるってことだろう。
3度目となる挑戦だからこそ、もう後には引けないと背水の陣をひく。
そんな強気に攻めようとする意志の込められたケンの姿が妙に眩しく思えて、まるで彼の後ろには後光が差してるようにも見えてしまい、俺はケンを見つめる目をすがめた。
「あれ、陽ちゃん。どしたの?」
先ほどから黙りこくった俺に疑問を抱いたケンが問う。
隣に座る稔も、ケンの傍で心配する奏音も俺の方を見る。
「ああ、いやなんか、お前がさ……」
光に包まれて思わず眩しく見えて……だなんて、改まったことを言うのが急に恥ずかしい気がして言えなかった。
想いを吹っ切るように首を振り、再度ケンの顔を見据える。
その見方はいつもと変わらない、親友に向ける目だったはずだ。
「まあいい。お前はお前だ、そこはなんにも変わらないことだ。足をひねっても動けるんだったら、明日の最後の追い込みをかけるスタジオ練習の方は大丈夫だな。勘弁だぜ? 時間を調整してスタジオだってもう予約とってあるんだからな」
「あはは、ごめんね。ケホッ……うん、それは大丈夫。僕も問題ないよ」
ケンは嬉しそうに笑い、それでいて力強く首を縦に振る。
たまに咳き込んだり手が震えたりする症状も見受けられるが、体調に問題は無いと誰でもない健二自身が言ってるんだし、親友は黙ってその言葉を信じるだけだ。
「よっしゃ! そんじゃ頼むぞ! 成長し続け、ついに太陽の象徴となる音を作り上げた俺たちの実力を見せつけて、絶対にコイツらを演奏し倒して初出場初優勝を決めてやるんだからな!」
稔と奏音へと交互に、ズバッと指を突きつけてやる。
「もう、まだそんなこと言ってる~。負ける気は無いのに」
稔は俺の叩きつけた挑戦状を軽々と躱しては可愛くブー垂れる。
ちくしょう、そのぎゅっと抱きしめたいくらいあどけない仕草が難敵だ。
スタイルはあどけなさなんて微塵も無いのに性格がこうとは、恐ろしい。
「な、なんか私たち、アニメやゲームで出る敵の悪者みたいですね?」
「ああ、まったくその通りだ。悪は滅び、正義は勝つ! ジャスティスッ!」
俺が正義のヒーローの如くカッコつけてるポーズをその場で取る。
それを見たケンは苦笑いし、稔は笑顔のまま咎め、奏音は落ち込む。
ここまでわかりやすい感情表現ってのも珍しいと、そんな心境にさせられる。
「あぁ、なんかひどいです……陽太さんがそんなこと言うだなんて、思っていませんでしたもの。すごく、傷つきました……」
そう呟く奏音を見てから稔に優しく、それでいてきつく叱られた。
俺も一応、謝罪の言葉を彼女に告げてなんとかその場は収まった。
一時はどうなるかと思ったが、何事も無くて良しと言わざるをえない。
とにかくケンのケガがたいしたことなくてよかった。
性格もどこか気弱で体も元々弱いせいか咳き込んだり手の震えが出たり、しかも滑舌がおかしくなったりするのもあったりするが体に影響が無さそうだし無事でなによりだ。
夏休みに入る直前に惹かれるようにメンバーが集まりバンドを組めたあの日から、共に過ごし同じ釜の飯を食い日々の修行とセッションの苦楽を共存した俺たちの誰か1人でも抜けたら、太陽の象徴であるソルズロックバンド【Sol Down Rockers】じゃなくなっちまうんだからな。
今度のバンドコンテストで優勝するのは、熱川陽太としてじゃない。
新たな人生の門出となる、【Sol Down Rockers】で優勝するんだ。
自信は確信へと変化したから、確実に前へ動く。
不意にそう考えると、不思議と昔のことを思い出す。
誰の力を借りるでもなくひたすら自分の力で上り詰めるんだって決めつけて、当時はロッカーとしてじゃなくシンガーソングライターとして活躍したいと考えていたので、小高い山の上にある鐘撞学園の学生路となる傾斜は上り下りする最初は緩やかだが郷に降り立つまでの距離の長い表門坂と、学生道に入った直後から傾斜がきつく距離の短い裏門坂を走り込みして体力と身体を鍛えたりもした。
なけなしの小遣いでスタジオに入り浸ったり、スタジオ練習をし終わったら家に帰らずそのまま駅前まで向かってノンストップで何時間も路上ライブしては、未来行く末なんて考えもせずガムシャラで一生懸命に"Gibson"メーカーのアコギ1本をこの身で掲げて弾き語りをしていた。
作詞作曲をしては試し改変、また同じことの繰り返し終わる日々を過ごした。
そんなことで成し遂げられる事も、叶えられる夢もちっぽけなもんだった。
利用されるだけ利用されて、使い物にならなければすぐにポイの音楽界の現実。
だけど……。
もうあの頃の俺には戻りたくない、気持ちを曲げずに支える仲間が、稔がいる。
コイツらに本当の意味で出会えたから、音楽って素晴らしいものだって気づいた。
そこから、真っ暗でつまらなくなってた音楽の可能性に光が灯されたんだと思う。
鐘撞学園から誕生しパンク・ロックの新たな可能性を築いた【時世代音芸部】の曲と意思を継ぎ、あのときの雪辱を晴らしバンドコンテストのライブに置いて必ず目の前に立ちはだかり最大のライバルとなる【二時世代音芸部】にも出会え、バンドコンテストで審査員として参加し俺たちをドヘタクソと罵った笹上さんが所属するニトロロックバンド【New:Energie:Ours】とも出会え、ロック史に伝説を刻み続けて今だにライブ活動とアーティスト育成活躍をしている天川熱斗率いるロックバンド【Starlight:Platinum】だっているんだ。
負けられない、そして必ず太陽の音でもって世界中を照らしてやるんだ。
だからこそ、もう1度だけ、俺自身の心の中にて強く抱き言の葉にしよう。
コンテストは【Sol Down Rockers】で優勝するんだ、と。
ご愛読まことにありがとうございます!




