220曲目
地獄めいた合宿を機に、成長を遂げた男女。
この先バンド生活にどう繰り広げられるか?
※訂正
曲名から曲目に変更しました。
世界のロック史に大革命を巻き起こすソルズロックの楽曲が世に生み出た。
歌詞も出来て、曲調も噛み合い、初となるオリジナルのタイトルも出来た。
しかし、これはまだ俺だけの考えを述べただけにすぎず、完成形じゃない。
自分1人の一存で決める訳にはいかない、これは仲間と演奏する大事な曲だ。
俺はこの歌詞にこの曲名ありと思える、熱くて最高の曲名だと思えるが……。
そんな風にどことなく心配をしていたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
「なんだソレ、最高じゃねえか。いいねぇ。まさにロックな感じで」
「うん、本当にそうだね。まさに僕たちのバンド名に相応しいねぇ」
ケンのいい捉え方をした言葉に全員でニヤッと笑い合った。
今この瞬間に生まれ出でた、爆薬と起爆装置と化した全員の胸の奥底にこの熱くて楽しくてカッコいい初オリジナル曲というニトロもびっくりな爆弾があって、それを早く実力とともに大いに爆発させたい。
そんな血が滾り、心が躍り、熱くて熱くてたまらない感じがあった。
ブレーキじゃ全然止められず、時間経過で破裂しそうな感覚もある。
熱く、速く、そんな急かす気持ちがアドレナリン上昇効果を生み出してしまう。
俺が曲の歌詞とタイトルに満足しているとケンがなにやら嬉しそうに近づく。
まるでマジシャンがアッと驚くマジックショーを行う雰囲気を彷彿とさせた。
「僕たちのバンドにとって初となるオリジナルの歌詞もタイトルも決まったことだし……ねぇねぇ、陽ちゃん、実はね、バンドコンテストのライブに向けて意見を出し合ってね。演奏を良いモノにするんだってやる気を出すためにこんなのも作ってみたんだ」
ケンがそう言うとアッキーもソウもなにやら意味深な感じで笑う。
なんだ? もしかしてコイツらもなんか秘密な練習とかしてたのか?
そう考えているとケンは「ちょっといい?」と俺に断りを入れてから持ってた作詞作曲ノートを取ってパラパラとページをめくり、一番後ろの【見返し】と呼ばれる少し固いページのとこまで開くと、そこには赤色と黄色と白色と黒色で描かれた【Sol Down Rockers】を3つの単語として重ねて略したロゴが描かれていた。
嘘だろ、俺のノートなのに全然気が付かなかったぞ、と俺は素直にそう感じた。
見た瞬間に一発でお気に入りになっちまう、それほどカッコいいロゴ。
それが俺たちのバンド名で書かれたロゴだと、数秒の時間が必要だった。
嬉しさのあまりに手が震え、口の中にある歯がガチガチと鳴り出す始末だ。
焦りを無くすために目を閉じ深呼吸をしてから、もう1度目を開け尋ねる。
「なぁケン。それにアッキーにソウ。こ、これは一体?」
俺が尋ねると同時にアッキーが手を顎に当て関心深くロゴをマジマジ見る。
「ほぉ、やっぱ同じく考えた身にしてはアレだが、やっぱカッコいいじゃねえか」
「でしょ、アッキー。アイデアを出してくれたんだから自信もっていいんだよ。僕たちは1人じゃなく仲間とともに演奏するバンドなんだから、バンドのロゴがあったほうがいいかなって。陽ちゃんに歌詞を考えて貰ってる間、僕とソウとアッキーの3人でデザインを考えてみたんだ」
「よく見てくれ、ロゴの周りに4つの物がある。ロゴの後ろで熱く燃え滾る太陽、太陽の傍で自由を尊重して羽ばたく両翼、そしてロゴの周りに絡みつく鎖があるだろう? そう。これは陽ちゃんが太陽、俺が鎖、そして1つずつの羽にアッキーとケンをイメージしたんだ。太陽と両翼と鎖というまったく噛み合わない関係でも、それぞれが意思を持てるモノが集まって"Sol Down Rockers"が生まれるんだ」
言われた瞬間に、大いに納得してしまう。
それどころか3人の意外な才能に正直驚いた。
これはまさしく最高にカッコいいバンドロゴじゃねえか。
しかもご丁寧にライブ衣装も考えてくれていたのだ。
下はロックなジャンルと評してジーパンで統一した。
そしてこれこそがバンド衣装の真骨頂となる。素材としては一番揃いやすく質素に見えるのだが、俺とケンが黒でアッキーとソウが白のイメージとして半袖のTシャツに胸元周辺にそのバンドロゴが貼り付けられ、背中にはギラギラと輝く太陽のイラストが書かれその中心に『太陽』という服の色が黒には白文字で白には黒文字で書かれているシンプルで最高にイカしたライブ衣装だった。
俺は歌詞と曲調のことばっか考えていたが仲間もただ待っていただけじゃなく、こうして互いにどう俺たちのバンドが人々に影響を与えられるのかを考えてアイデアを出し合い、こうして形として成し遂げたことに深く感謝をするのと同時に、更なる団結力と絆が創造され紡がれたような気がした。
「なるほど! こいつをつけて身にまとってライブに出るってことか! 最高に熱くて楽しくてカッコいいオレたちのオリジナルで、最強に輝いたバンドロゴ入りのライブ衣装で派手にかませるなんて、超サイコーじゃねえか!」
「お前ら、マジでロックバカだけど、最高にイカしたメンバーだぜ! 歌詞のことばっか考えてたからロゴとか衣装なんて全然考えてなかったわ。グッジョブ! あーやべぇ! まだバンドコンテストのライブまで時間は少しあるのに、アドレナリンがドバドバ流れ出してテンション上がってきたァ! ひょー!」
あまりの喜びにその場に跳び上がってからすぐに本堂の壁に立てかけているアコギの元へと駆け寄り、ギターネックを右手で取ってはストラップを肩に掛けてオープンコードを弾いて『Hard Air Drive』のアコギバージョンにしてしまうが、同じく期待感と達成感に包まれた3人も俺の方へと駆け寄ってはカホンでリズムを取ってからビートを刻み、乾いた音と乾いた音が調和してすこぶる心地よかった。
ケンとアッキーもソウのお袋さんが経営する”宗福の里”でアコースティック生ライブを行った以来、譲り受けたジャンク品同然でリペア済みのアコースティックギターとアコースティックベースをストラップに肩掛けし引っ下げては俺と同じように出来たての『Hard Air Drive』のアコースティックバージョンに挑戦してセッションに突入する。
ここにいる4人は全員、屈託なき笑顔とともに弾いて叩いて、歌詞を紡ぎ歌う。
アコギで弾き語りをしながら、3人の顔を見て目配せし、思いにふける。
初となるオリジナルの完成とバンドのロゴやライブ衣装が出来たのもすごく嬉しいけど、なによりも気持ちが素直になっては手放しで嬉しいのは、嘘偽りが無く本当の意味で、この革命を引き起こすソルズロックバンドがちゃんとしたバンドになってきたってこと。
まだ互いのことをよく知らずスタジオでセッションし終わってから、神様から授けられた天啓によって決めたバンド名も散々ブー垂れていたアッキーやソウが、今では自分の事のように本気で取り組んで真剣に喜んでくれては太陽みたく輝かしい姿をこの目に視て……。
もう今の最高な気持ちで何て表現して言っていいか全然わからないけど、まるで大海原の航海で羅針盤無しでいたのにとある港町で人と人との大事さの尊い意味を知ってから、自分たちの抱いていた『自信』が『確信』に成り変わったような物を身心ともに感じた。
季節に合う太陽の陽差し、蝉と鈴虫の鳴き声に、風流の良い風とお寺と旅館。
自然と人の有難みに深々と感謝の念を出し、またこの夏を向かい入れよう。
そうして、俺たちの絆と団結力を育む地獄のバンド強化合宿が終わった。
今年も訪れたギラギラと輝く太陽の合う夏も、もう後わずかで終わりだった。
泣いても笑っても後悔をするしないという意志も意味が無く、夢を叶える叶えない関係なしに訪れてしまい、俺たちの最大限に引き出せるバンドの演奏となる最高の真夏も限られた時間の中で、終わりを告げる時間が刻々と刻み続けられている。
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ご愛読まことにありがとうございます!




