213曲目
コンビニは白神郷だけじゃなく、全国的に独特的な入店音であり『大盛況』という店名で知られる"ちゃるららららーん、るーらららどぅーん"と入店直後に店内から流れるテンションの上がるファ〇リー〇―トである。きれいに並べられた棚の中には生活用品や食品に飲み物、それに雑誌なども並べられているが別に生活用品と雑誌には要は無かったので稔とともに食品と飲み物のある棚のレーンに向かい欲しいものを買うとしよう。
俺は水と塩おにぎりだけにし会計を済まし外に出て、その場で食し袋を捨てる。
水は稔と歩きながらでも飲めるので残しておき彼女の会計終わりを待つ。
吹く夜風は冷たさも感じるがどこか清々しさも感じさせ気持ちがよかった。
だけど、未だに信じ難くても間違いない出来事が起きたモノだ。
意味合いは違えど『好き』という単語が何度も脳裏に溢れ返る。
違うと思いながらも動揺しつつ、コンビニに寄った稔も買い物を済ませた。
寺から出る前は喉が渇いたと言っていたのに、稔はなぜかアイスを買った。
夏の夜とはいっても冷えるのによくアイスを買うもんだな、と俺は思った。
「なあ、稔。喉乾いたーとか言いながらイチゴミルクを買ったのはいい。だけどそんなの食うと、よけいに喉が渇くんじゃないのか? あれか、女子の特権である『スイーツは別腹』ってヤツか?」
「うん、そだよー。だって、せっかくだし食べたかったんだもん」
そう言いながら稔はアイスキャンディーをペロペロしてゆっくり食す。
なるほど、脳の刺激で胃にスイーツのスペースができると聞いたが、それか。
飲み物とともに大好きなアイスを手に入れた稔は、またゴキゲンに戻っていた。
さっきの『好き』からの気まずく居たたまれない雰囲気のことも、スイーツの味と存在のデカさが影響となったのか、たちまち忘れてしまったらしい。
女ってすごいな。
話は違うかもしれないが、ただでさえ存在感があるのに男よりも言動力も行動力もはつらつとしてるし、夫婦とかの喧嘩もすさまじいのにホイップとかアイスとかのスイーツとかを目にして食せばすぐ幸福感と祝福さに包まれて、忘れるか許してくれるんだから懐がデカいのかもしれない。
俺は、脳内変換で『好き』って言われたのでまだドキドキしてるってのに。
彼女のアイスを食べる姿に見惚れて黙ってるとよけいドキドキしてしまうな。
よし、ここは一手打って出てみるべきか。
尻ごみになっててもなにも変わらないし、男は何事も度胸だ。
俺はこの静寂と異様な雰囲気を打破するために、言葉を風に乗せ口に出す。
「あのさ、稔……聞いてほしいんだけどさ」
「むいっ? んっ……なぁに?」
稔は美味しそうに咥えてたアイスキャンディーを取る。
そして俺の方を向いて話を聞く態勢になってくれる。
黙って買い物をしている間中、俺はずっと考えていた。
それはもちろん稔のこと、と言いたいがもう1つある。
「バンドのことなんだけどさ」
心の手札にある1つ目の本質的な気持ちを切り出した。
俺の初めて組めたバンド、Sol Down Rockersのことだ。
あんな風に熱中して没頭できることはソロ活動以外無かった。
もちろん同じ音楽だからと言われればそれまでだが、なんか違う。
ソロでシンガーソングライターで活動してた頃も自分には”なんでもできる”とか”絶対にやれる”って気持ちが心の淵にずっとあったし、例え路上ライブで誰からも家畜を見るかのような目で蔑まれても全然気にせずに出来ていたのも泥臭い努力をし続けれたのも、熱川陽太という1人の人間が出せる存在の大きさが影響してるんだって信じ続けてたからだ。
過信だとか思われてもそれを受け入れて努力し、1度は叶えたい夢を実現させプロのアーティストとしてシンガーソングライターで作詞作曲をしたり演奏したりとたくさんの経験をさせてもらったが、結局は汚い芸能界の裏側を見ただけで絶望の淵に落されて人生が終わっちまった。だから俺は不貞腐れ、大好きな音楽から疎遠気味になっちまったんだと思う。
だけど、バンドを組み始めて練習し続けてから、心境の変化があった。
アイツらが傍にいれば、今度こそなんでも出来て叶えられる力がある。
子供染みてダサい考えだけど、本気で思えるようになり音楽と向き合える。
感謝しても感謝し切れないほどの情熱と夢を、生きる希望を与えてくれたんだ。
「うん?」
キョトンとする稔はそう短く疑問気味に答えてからまたアイスをしゃぶる。
季節の気温の影響でもうアイスも溶け始め、彼女は美味しそうに食べきる。
コンビニの外にあるゴミ箱に捨て、こちらに意識を向けてから話を再開する。
「バンドのことも大事って言ってるがもちろん稔のことだってもの凄く大事なんだが、それはこの人生において一生、未来永劫で永久に曲がり変わることはないと断言するんだが、なんだけどその、えっと、あーなんだ……」
急にしどろもどろになり焦る。
俺こんなにボキャブラリー酷かったけか?
そう思わせるほどに口ごもり、なんだかお茶を濁してしまう。
「ふふ……もう、なぁにそれ?」
俺としてははっきりと言おうとしていたはずなのに結果としてずいぶん回りくどい言い方だったからだろう、挙動不審の俺を見て稔はまたクスクスと笑った。
ええい、まどろっこしいぞ俺! はっきりしやがれってんだ。
そう自分に言い聞かせると奮い立たせ、内なる想いを形にする。
「俺、本当に稔のこと、約束を忘れてたわけじゃないからな」
しっかりと稔の目を見据えてもう1度念を押しておく。
もう1つの主意的な気持ちは、もちろん稔のことだった。
当たり前だ、稔のことを忘れてたなんて思われるのは心外だ。
世界中のどんな美人よりも愛してるのに忘れてた自分が憎いぞ。
「あー、まだそういうこと言ってるの? 本当に気にしてないのに」
稔は本当に約束を忘れてたことに懸念してないようだ。
絶大な親切心そう言ってくれてるだろうが、それだと気が済まない。
「いや、稔は優しいからな。気にしてなくても俺が気にするんだ」
努力しないと何も無い俺にとって生まれて初めてできた俺のファンであり、運命的な出会いから片思いの相手となった稔がどれだけ大きな存在か、これじゃいつまで経っても上手く伝えられそうにないじゃないか。
クソッ、なんとかしてソレを稔に心からわかってもらいたいのに。
最初こそ音楽を始めたのは、ただの興味心と人生の架け橋だ。
ゲームしたりアニメを見たりして夢も無かったところ、フラッと立ち寄ったCDショップで【Sum41】を知って音楽の良さを知り、ギターを初めてそれに繋がるように歌も演りだして、いつしか"太陽のシンガーソングライターになる!"ってきっかけとともに決めつけて続けてたのがそうだった。
だけど、今はどうだろうか、それがそうだと言えるのか?
人生に絶望していた子の世界を救った瞬間に、ソレを確信した。
だから今の俺はそのために、音楽とロックを愛し作詞作曲に演奏をやっているようなものなのかもしれないと言っても過言ではないのに……。
ああ、そうなのだが、だけど……。
瞬間、俺は自分の両頬を両手で叩き気合いを入れ直す。
そんな突拍子もない動きをしても、稔はビックリしなかった。
まるでそれをするのをお見通しだよ、と言ってるような気がした。
「稔のことは大好きだ。でも今は俺、頭の中がバンドのことでいっぱいなんだ」
何度目かになる告白、だけどいつもとは違う言い回しで言の葉にした。
シチュエーションもドラマチックも無いかもしれないが、抱く真実を伝える。
それこそが最善の方法であり、漢らしく言うべきだと思ったからだった。
俺の1ファンである大一葉稔のことと、【Sol Down Rockers】の未来性。
二者択一だなんてできずに両方を得たいという、理不尽な漢が俺であろう。
なんだそりゃ?
ご愛読まことにありがとうございます!




