209曲目
夏だと言うのに肌寒い夜空と外の中、音楽を語る2人。
そこで俺が成すべき道が見つけれただけで興奮が冷め止まない。
きっとこの考えは音楽だけじゃない気がする。
それこそ他のことにも精通している考え方じゃないだろうか。
ただ「やれ」って言われてやりたくもない成す事や仕事をしているのはやってるんじゃなくやらされているだけだが、もし自分の中に生まれた『衝動』があったときには"きっかけ"となるなにかがあるからこそ生まれ、そこから行動が始まり"結果"となるための道のりとなる過程をするのが人間の摂理だ。
キョトンとする顔から稔は平静を取り戻し、思い出すように言う。
「でも、ホントのこと言うとすごいよね、熱川君って」
「おいなんだ唐突に? あ、もしかして俺のすごさと存在のデカさにやっと気づいてくれたのか? でもすごいってなんのことだ? 沢山あって意味がわからんぞ」
俺はそう言いながら脳裏に自分のすごさを想像する。
ケンカではアッキー以外には誰にも負けたことが無い(というより自分からはケンカを売らず、売られたらタダで買う)、小学校の頃になにかで腹が立っていたので夜中に学校に侵入して『熱血』のパチキと『愛情』と叫んで放つ拳で窓ガラスを割ったことに、中学生の頃はゲームセンターにキーを差しっ放しで置かれてたバイクを勝手に拝借しては数十メートル走って警察にメチャクチャ怒られたこと、ベットで寝てるのに必ず床に落ちては夢遊病みたいにゴロゴロと転がって寝てる(健二からの説明)などなど、数え切れないほどに人生を謳歌して漢気あふれる俺のすごさのどれに稔は惹かれたのだろうか?
半分おふざけで考えてる俺の顔を、稔は真剣な表情と瞳で見据える。
「きっと今の熱川君、昔やんちゃしてたことを思い出してるだろうけど違うからね? ほら、バンドのこと。小学生のときからずっとシンガーソングライターとして活動しててさ、音楽事務所に入ってアーティストになれたのに社長さんや先輩のいびりとお金儲けのためだけに利用されたことでイヤになっちゃたじゃない?」
百発百中と言える図星を突かれ俺は力無くうなづく、本当にアレは辛かった。
音楽事務所を出てシンガーソングライターとして活動を辞めたのは中学生だったし、病室で【DREAM SKY】を弾き語りしてからの影響で女子軽音部に所属してた稔に八つ当たりしたことも覚えている。
「でもさ、健二君と一緒にまた音楽活動を再開してさ。私それ聞いたときすっごく嬉しかったんだ。それに本当にバンド作っちゃって、夏休みに入る前に結成してまだ出来たばっかりのバンドなのに、合宿してるのを見たらもうすっごく絆が紡がれて団結してるじゃない?」
稔は素直にバンドの活動と団結力を褒めてくれる。
一瞬だけ得意げになったが、ソレは俺の力だけじゃない。
だけど好きな子にアピールできると踏んで、また得意げになる。
「まあな。そんなの当たり前だ、リーダーに人徳と実力があるからな」
俺は力強く「俺の実力だ!」と胸張って答える。
しかしそれも別に俺だけの力じゃないってのは自分自身ちゃんと理解しているので、好きな女の子の前では半分おどけて、半分真面目に言うのを聞いて、稔はまた可愛らしくクスクスと笑った。
「えへへ……でもほんとすごいよ、熱川君たちのバンド。ソルズロックをロック史に刻んで伝説を作り出す【Sol Down Rockers】って名前だっけ? 0から始めてわからないことだらけなのに必死に練習して経験を積み上げてたから影響もすごかったんよ。実際に【二時世代音芸部】の私たちもね、熱川君たち【Sol Down Rockers】のバンド見て、けっこう気合いと熱意をもらったんだよ」
嬉しそうに微笑む稔が衝撃の事実のような本意を切り出す。
最高の大舞台に出る最大のライバルの闘志に火を付けてしまったのか。
感動を与えた達成感半分と罪悪感半分が押し寄せて名状しがたい感じだ。
「うっそマジかよ!? おい稔、別にやる気を出さなくていいぞ。バンドコンテストで優勝する確率が少なくなっちまうし、敵に気合いを入れさせてもしょうがないじゃないか。ちくしょう、雨すらもギターを弾いて歌を紡いで演奏する存在を感知して晴れる影響力のある俺が憎いぞ」
相手に塩を送った俺は思わず顔を手で覆って首を振る。
そんな姿を見るや否や稔がシュンとした感じで反論する。
「えええっ!? もー、そんなヒドイこと言わないでよ~。途中からだったけど、一緒に頑張って合宿した仲なのに……そんな仕打ちはあんまりだと思いま~す」
「本気でやるロックに馴れ合いなんて御免被るぜ」
「もーっ!」
稔が思わず頬が膨れる。
もーってなんだ、その神乳から甘ったるいミルクでも絞って出すのか!?
そんな馬鹿げた思考は一気に投げ捨てるが、こうして何気なく笑ったり拗ねたり怒ったり悩んだり、そんな沢山の表情を出しては一緒に歩いている稔をこの目で見ているだけで、俺はフと力み続けている力と心の意志が抜けて満足してしまいそうになることがよくある。
たしかに心地よい感覚で身を預けたいが、それじゃダメだ。
こんなところで満足して終わらせるだなんて冗談じゃない。
俺の目指し切るゴールはまだまだずっと遥か彼方にあるんだ。
負けられないとか、やり続けなきゃとか、そんな気持ちなんかじゃない。
もっと人生において大事な感情を内に秘めて、成し遂げなきゃならない。
そんな目には見えないけど心で見えるものが、俺に熱を灯して駆り立てる。
先へと、未来の向こう側へと、境界線上の未知なる上へ行かなきゃならない。
それでも、鐘撞大祭のライブを大成功に納めた歌姫は微笑む。
俺に見せる笑顔がまるで聖母のような優しさを持って接するみたいに、暖かい。
今の稔が星や月すらも引いてしまう、最強の明るさが迸ってるように見えた。
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