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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
207/271

206曲目

同じ道を歩み、趣味も合い、好みの子と夜のデート。

いくら硬派な奴でもワックワクのドッキドキだよね。

 夜の塵に覆われたまま物音1つも発さずに景色と調和されている静まりかえっている路地の道に、俺たちの足音だけが高く音を出して固いアスファルトの上を歩いて行く。


 まるでおとぎ話の世界に入り込んだ空間の中みたいだ。

 こんなに広い世界なはずなのに、俺と稔の2人だけしかいない。

 それ以外の生き物も建物も静寂に包まれて眠っているようだった。


 寺の山門から出た俺たちが地面の歩道に進む歩みを刻む、カツカツという音だけが、この世のすべてを包み込んでいる音だ。

 そのぐらい、今夜は清々しいほどに綺麗で空気が美味しく静かだった。


「はぁ~、やっぱ外は蒸し暑いね。せっかくシャワー浴びたのに、これだとまた汗かいちゃうよ。ベタベタするからあんまりよくないんだけどな~」


 稔は俺の隣を歩きながらも不満を口にする。

 どうやら胸の大きい人には共通の悩みがあるようで肩こりはすごいし服や下着のサイズが合わないために好きな服などが着れなくて困るし、走るとき胸が揺れて痛かったり太って見えたり、セクシーに見えてしまうという悩みがあるとか。割かし顔を見て話している俺も当てはまってしまうのだが、常に胸元を注目されたり今の季節である夏だと汗で蒸れて辛いということもあるらしい。

 俺も相づちを打つようにうんうんと頷くが、心の中では謝罪する。


 それに今夜も熱帯夜なんだろう。

 ジメジメしてねっとりとした熱気と湿気が肌にまとわりついてくるようで不快だし、長い時間ノンストップで走り込みをした後にこうして外を歩いて着てる服が肌に付着していても、それすら今の俺にはほとんど気にしない。


 病院で体を抱き寄せキスという事態を起こして以来2から3メートルは離れるのと体に触れないという約束は今でも成立してはあるが、今はその距離が1メートルぐらいになっているし手を伸ばせば稔の手が届くぐらいになっている。

 コンビニに行くのに2人きりで歩道を並んで歩くのに、手をつなぐのは恋人同士でも無いから悔しいがよしとしても、2から3メートルの距離で歩いているのはどう見ても不条理で不自然だ。


 俺は極力稔のことを意識せずに歩いていると、彼女が不意に口にする。


「あーあ、もうバンドの合宿も終わりなんだぁ。なんかあっという間に終わったって感じだったなぁ~……さっきのセッションでもそうだったけど、楽しいことってすぐに終わっちゃうんだね」


 隣を歩く稔は、感慨深(かんがいぶか)げに真上に広がる夜空を仰いだ。

 俺たちはまだもう少し宗倖寺(そうこうじ)の本堂にて寝泊まり練習をしていく予定だが、稔たち【二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)】のバンド強化合宿は、明後日までで終わりだ。

 そのことが残念そうにつぶやく稔はどこか儚げに見える。


 色鮮やかで絵画にも思える夜空の下で、御伽をしながら話をする男女。

 こういうときってアッキーなら『俺と一緒にいれなくなるのが淋しいかい?』とか言うだろうし、ケンに至っては同じ様に儚げで爽やかな笑いで済ませるだろうしソウだと多分小難しい理論を並べた会話になるだろうし、心細そうな女の子にかける言葉をよく知らない俺はとりあえずバンドコンテストに向けてる練習成果を聞いてみることにした。


「ま、合宿は終わってもちゃんと経験値を積めたんだしいいんじゃねえか? あのセッションでなんか掴めるモンもきっとあっただろうし、バンドコンテストに()る曲は上手く仕上がったのか?」

「えへへ、そうだね。うん、曲の方もなんとかね。今できるだけのことは出し切れてやれたかな。合宿が終わっても本番まではもうちょっと時間があるから、後は何回かみんなで確認するように合わせてながらも細かい詰めをこれからやって、本番で全力を出し切るだけだよ」


 彼女は夜空を見上げてた顔をこちらに向けてポツポツと呟くように言う。

 それは控えめに言ってるが、曲の仕上がりに手応えを感じているのがわかる。

 バンドマンとしての感覚が進化し研ぎ澄まされたのも実感できてるようだ。


「へ~そうか。そりゃよかったぜ。やっぱり稔たちが、バンドコンテストに出場して立ち塞がる最大のライバルになりそうだな。それが再確認できただけでも良しとするぜ」


 俺は嬉しそうに言い返すが、それもそのはずだろう。

 稔たちよりいい演奏をしなければ初出場初優勝はあり得ない。

 それこそ夢のまた夢で閉ざされ、儚く夏の季節が終わってしまう。


「私たちの方はこんな感じだけど、熱川君たちの方はどう? 順調かな?」


 当然のように俺たちの状況を知りたがる稔の言葉、柔らかい声色だ。

 別に言えないリスクも無いんだし、答えてやるのもやぶさかじゃない。


「ああ、こっちは後は歌詞の詰めと歌メロ決めだけかな」


 実際に合宿に入る前にちょくちょくメンバー同士で顔合わせをし歌詞やらコード進行やらを作詞作曲ノートに書き綴り、地獄のバンド強化合宿を通してバンドオリジナルの曲とコードでのメロディーライン自体は歓声の域まで達しているのだが、肝心の歌詞と歌メロがまだ完成していない。

 それこそ今まではスタジオで入って演奏したり本堂でセッションをしてるときも適当に思いついた歌詞を荒々しくがなったりシャウトしていただけのまがい物で、そこには観客や世界中の人々に伝えるメッセージらしき物は何もなかった。


 まさにバンドの楽曲としては致命的な致命傷となりえる事態だ。

 隣で初々しい感じで話を聞く稔の顔色を潰さないため、ソレは胸にしまう。

 きっと俺の中にあるもう1人の俺がそうしたい欲求に駆られたのかもしれない。


 静寂の世界に甲高い足音が二重に重なる中、俺と稔はコンビニに続く道を歩く。

 稔はただただ知り合いとともに歩いている気分だろうが、俺としては結婚を見事に達成し結婚式場から続くレッドカーペットを歩いてそのまま外にあるヴァージンロードをともに歩いている気分だったが、それも言わずに心の内に秘めていることは内緒だった……。




ご愛読まことにありがとうございます!

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