204曲目
夢を叶える、その為には……。
変わらない目標を貫き通す事。
タオルを頭に巻いて意気揚々と俺は道なりに沿って走る。
いつもに比べて闇の密度が濃い夜、雨模様と化していた雰囲気はすっかり晴れたが瑠璃色の星々と月の色と水色の夜気が入り混じった空間の中で通り過ぎる木々が霧に濡れて広がっており、うつらうつらと光を放つ家の電灯と田舎と都会が混合した街灯りの外灯で彩った道の両幅が幻想的な霜と空気でかすんでいた。
バンドの強化合宿として最初に走り込みをしたときは10分足らずでバテていた体力もすっかり鍛え上げられて、今では陸上やマラソンなどを得意とするスポーツマン並みに走ることができ、なによりセッション中にギター&ボーカルとして演奏しても汗や疲労感はあっても体力が衰えないことが一番よく感じられた。
深淵とも思える黒い空に銀紙でも張ったように明るい光で照らす月に、何かの凶兆のようにひときわぎらぎら光る星々に彩られ、2つの自然で作り上げられた聖光によって思春期の少女のようなみずみずしい感じのする郷の道を1時間ほど走り込みをしてから、ようやく俺たちが寝泊まりし稔たちも合宿する宗倖寺へと戻って来た。
息が荒く肺に空気が入る度に冷たい感じがしても、ぜんぜん疲れが無い。
バンドの合宿なのに修行の慣れって怖いな、と思わず苦笑してしまう。
山門に入ると、静寂とともに音が舞い込んでくる。
気の早い秋の虫たちが、耳に劈きうるさいぐらいに鳴いている。
熱気と達成感に満ちて心の中で未だに鳴り止まないセッションの興奮からか寝付けないと感じて走り込みをした俺は、寺の中には入らずなんとなく境内の外を歩き回って、まだお前らの番は早いだろと思える秋の虫が鳴り出す音に耳を傾け済ませている。夏と秋の虫という二重奏は元気よく気ままに歌い楽しんでいるようだ。
いや、よく考えれば虫たちの気が早いわけではないかもしれない。
俺たちが音楽とロック、稔たちはパンク・ロックの追及で俺たちがソルズ・ロックの革命に明け暮れてセッションや練習をしているうちに、時間は確実に秒針を動かし刻々と過ぎているのだ。
ああ、そうだ。気づけば夏の8月ももう残りあとわずか。
最終目標のバンドコンテストまで時間も残り少なくなってしまっている。
ロック史に名を刻み伝説の革命を起こす狼煙を上げるはずだった【LAS696】にて【Sol Down Rockers】としてリベンジを果たす約束をし、【New:Energie:Ours】の笹上さんが待ちかまえ対バン希望を望んでいる未来ももう目と鼻の先にある。
ということは、もうじき本当にこのギラギラな夏も終わるのだ。
まだ終わって欲しくない。そう思っても無に帰すんだろうな。
どんなに楽しくて面白い祭りでも、終わることは絶対にあるんだから。
だけど、ここで学んだことや楽しい思い出が消えるわけじゃない。
いつまでも、どんなときでも心の中で生き続け、自分の糧にできるんだ。
だからこそ、俺の好きな夏が終わろうとしても寂しいなんてことはない。
そういうことを考えるのはガラはないのだが、合宿とバンドを通して経験値を積み上げた今の俺はなんとなく、感傷的で心情的になっているのかもしれない。
世界そのものがお休みモードと化した夜と相まってまるで山中のように静寂が深いお寺を見ながら歩を進め、そのまま新年を開けさせ【除夜の鐘】要因となり梵鐘と呼ばれる釣鐘が吊る下がれた鐘楼まで行くとその外側の座れる箇所へと腰掛けて、そのままボーっと夜空を見上げようとしたときだった。
瞬間、今まで楽しそうに鳴いて唄う虫たちの大合唱がピタリと止んだ。
夏と秋の虫たちが歌う鳴き声が止まり、夜の帳と静寂が舞い込む。
不意に疑問で思うが、少し離れた先から気配を感じて隣を見てみる。
「えへへ、見ーつけた。やっぱり熱川君だった」
見間違えるわけが無い。
可愛らしいアホ毛でポニーテールにしてる薄い茶色の色素で彩られたセミロング、透き通るように綺麗な肌で切れ長でありハーフということで蒼い瞳をしており、性格も仕草も天真爛漫で天然気味のクセして”どたぷん”と柔らかいゼリーでも詰まってるのかと思わせるほどの爆乳にムチムチな体つきをしていて、誘ってるんじゃないかと思わせる白いキャミソールとホットパンツに身を包んだ女の子。
天使なんて言葉で例えてもいいのか? と思わせる俺の片思いの子だ。
「走り込みお疲れ様。はいコレ」
そう言ってその子は俺に500mlのミネラルウォーターを手渡す。
俺が鐘楼の外陣みたいなとこに座って、稔が俺の下へと近づいてから見上げるようにミネラルウォーター入りのペットボトルを手渡してくれているんだが、彼女の艶めかしくもありそれでいて手を突っ込んでみたい欲望に駆り立たれる極上の胸の谷間が視界に飛び込んできてしまい、邪念と性欲を振り払うように首をメチャクチャ荒々しく振っていると反対に彼女はキョトンハテナといった表情を出す。
差し出されたペットボトルを「サンキュ」と短く答えてから受け取り、視線を外すかのように右斜め上にある瑠璃色と暗闇で満ちた夜空を見上げながら飲む。
そこには未だ変わらずいる、月と星々で満ちた夜空が世界に満ち溢れていた。
様々な色のペンキで塗り潰した綺麗に彩られた夜空が、俺の視界を照らしてた。
ご愛読まことにありがとうございます!




