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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
204/271

203曲目

 楽しい気持ちでロックな音楽を仲間と一緒に演奏。

 スポーツとかにある【ゾーン】と同じ現象になりますよね。

 2つのバンドが奏でる満足すぎるセッションは終了した。

 住職さんや女将さんも演奏を褒めてから自室へと行っちまうし、旅館で宿泊してる客も拍手をしてから感想を述べてから部屋に戻っていくのを見ていると、楽しめる時間というのは祭りの後の静けさのように思えてしまう。


「あ~、気持ちよく歌えたし、セッションも楽しかった~っ!」


 踊りながら歌ったりしてた稔が興奮冷めやらぬ思いを口にする。

 宗福(そうふく)の里の混浴用露天風呂から上がってきたばっかりだってのに、稔はまたすっかり汗だくになっており、大きな双丘の間から覗く汗や艶めかしい表情を見るとどうも熱く滾った興奮がまた沸き上がってきそうだ。

 いかんいかん、冷静になれ。


 俺はテレキャスターに付けたストラップを垂れ下げたまま周りを見る。

 日常なら異常だがバンドマンにとっては割と普通の光景で彩られてた。


 そう、どうやら汗だくなのは稔だけじゃないようだ。

 セッションに飛び入り参加した二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)の連中みんなだ。

 風呂から出て着替えたばかりの服は、かいた汗でみな肌に張り付いている。


 どいつもこいつも、太陽の陽を浴びて燦々と輝き放つ、向日葵みたいな顔だ。

 最高に楽しめて太陽みたく熱いセッションを奏でたおかげで、上気して汗の玉を浮かべた顔はどれもこれも、10万ボルトで輝く電気玉みたいに光ってやがるし、なにより音と音の噛み合いと歌と歌の共鳴がここまでバッチリと決まったことにも底知れぬ達成感に酔いしれていた。


「ああ、やっぱ二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)の演奏は上手いって思い知らされたぜ……こりゃあもっと練習に練習を重ねないとな。あ、先に言っておくが、こういうのは今日だけだからな。今日だけ、いや、今だけは休戦協定を築いているだけだ。俺たちは同じ目標を抱く敵同士なんだってことを忘れるんじゃねえぞ?」


 俺は最大のライバルとなる女たちにそう指を差して宣言する。

 今までお互いに分け隔てなく楽器と歌を通して音を合わせていたというのに、どういう理由なのかは俺自身も知らないが、なんとなく自分たちの技術も経験も上の稔たちへと強がりたくなって俺はそう言った。

 なんで突拍子も無くガキみたいに強がったのか、自身で意図を探す。


 稔たちの楽器と歌の力量(レベル)も経験も上だから?

 たしかにそんな理由も俺の脳裏に浮かんだけど、少し違う。

 それだったら他の理由を探す出すと"バンドコンテストで初出場初優勝を実現させたいからだろうか"とか、ソロ活動ばかりしてた俺がバンド演奏で初となる"鐘撞大祭(しょうどうだいさい)での男子軽音部のライブ"と【Sol(ソル) Down(ダウン) Rockers(ロッカーズ)】として自分の立ち上げたバンド活動を始め夢の第一歩となるはずだった【LIVE(ライブ):ALIVE(アライブ):SOUND(サウンド)696】の初ライブ、その2つの後悔する体験を拭うためだとか、それとも俺のことをただの金稼ぎの材料としか考えてなかった事務所のヤツらを見返すためだとか、色々と浮かんだがどうも違う気がする。


 もしかすると、だ。

 俺はまたどこかで膝を抱えて、寒空の下で冷たい風にさらされている。

 それこそ人生に絶望して命の灯を消そうとする者を助けたいのかもしれない。

 だからこそ世界中に俺の歌を、ギターを、太陽の象徴がいる存在を知らせたい。


(ロックで、悲しみ苦しんでいる人々に、笑顔と夢を……)


 俺は不意に頭の中でそう考えが浮かぶけど口にはしない。

 今の自分では、できることが少ないし、実力も経験も少ない。

 幸い周りには上手くなる秘訣があるんだから、1つずつ拾ってこう。


 …………ま、夢に続く目標こそまだ先だが、今は目の前のことだ。

 どれだけ親しみがよく、大好きな稔がいても俺たちは対バンする敵同士。

 そう意思を固め言ったつもりだが、心外なことに、誰も真に受けてない顔だ。


「あら、そうなんですか? ん~そう言われましても、こんなに楽しいセッションを合わせれたら、もう敵だなんて思えないですよ。なんて言うんですかねこういうのって……あ、音楽的の運命共同体みたいな感じですかね?」


 南桐がそんな的外れなことを抜かす。

 音楽的の運命共同体って、運命は捻じ曲げるもんだろ?

 俺が南桐に呆然と、それでいてどこか遠い目を向けてやる。


「そうですよ。例え陽太さんのバンドと私たちのバンドとして、メンバーこそは男性と女性でバラバラではあるんですけど……私たち、もう仲間みたいなものです。だからそんな風に言わないでくださいよ」


 奏音がにこやかに笑っては夢物語みたいなことを言う。

 気弱で素直なクセに意外とメルヘンチックでファンタジー思考だな。

 内心悪くはないと思えたがどこか恥ずかしくなり、俺はブンブンと手を振る。


「は、はあっ!? ち、ちげーっし、そんなんじゃねーし! おいコラ、奏音と南桐コノヤロー! 勝手に仲良しグループに入れるんじゃねえよ。俺たちとお前らは最終日に待ちかまえるバンドコンテストで対バンするんだぞ。敵に塩を送るのは忍びねえが、もっと危機感と焦燥感を持てよな。そっちが仲良しだとか仲間だとかどう思っていようが本番では手加減なんてせず、最初からクライマックスばりの音と歌をもって全力で叩きのめしに行くからな! ……もうあんな腑抜けて後悔する演奏をする気はねえから、そっちも絶対に手を抜くんじゃねえぞ」


 思わず早口になるが最後ら辺は落ち着きを取り戻しちゃんと言えた。

 勝利宣言と対バンする意思を受けて呼応するように結理が俺を見据える。

 腰に手を当てて威圧的な、でもどこか認めたような雰囲気で口にする。


「へぇ~、言うようになったじゃない。新たなジャンルの『ソルズロック』ってのと、兄貴と姉貴が在籍してた【時世代音芸部(じせだいおとげいぶ)】から受け継いだ『パンクロック』との対決ってことね。ま、あんだけ上手くなったんだから、本気で潰し甲斐があるわよ~。よし……陽太、望むところよ。コテンパンにぶちのめしてやるから、もっと腕を上げてきなさいよね?」


 もっと腕を磨け、この言葉がイヤにひっかかるが同時に元気づく。

 何度も思えることだが自分自身に限界が無いと教えてくれるからだ。

 だったら返す言葉としてはこれが妥当だろうな、と思ったことを口にする。


「上等だっ! 叩き潰す、か。パンクな感じが出ていい言葉だ、感動的で素晴らしいが、そんなの無意味だってのを教えてる。コンテストのライブステージでな! それがイヤなら全力を出して、やれるもんならやってみやがれ! それでも、俺たちがお前達にストレート勝ちして、バンドコンテストの優勝を手にするぜ!」


 絶対に負けない、夏休みに入ってから何度となく決意した意思で伝える。

 俺とケンとアッキーとソウ、太陽の象徴となる最高の4人で絶対に勝つんだ。

 そしてサイコーと最強である異名の元に、このメンバーこそがロック史に名を残し伝説を築き上げた【Starlight(スターライト):Platinum(プラチナ)】と【時世代音芸部(じせだいおとげいぶ)】のすべてを塗り替えて、世界中に太陽の演奏を知らしめてやるぜ!


 そのために、今の時間で俺にできることがあるはずだ。

 音楽は散々コイツラと()れたし、作詞作曲も試してた。

 外はもう雨模様が無くなり静かな月の光が世界を照らしている。


 そうだ、全力で走り込みを、しよう。

 ロッカーは不健康で体力も無くていいと思えたが、やはり違う。

 男なら底なしの体力を持てばそれだけでスタミナ現象が遅くなるし、さっきまであんなに長い時間セッションをし続けていたのにまだまだ()れるほどの体力があり余っているし、なにより体を絞ればアッキーみたいな細マッチョの体系にもなれれば稔にモテるかもしれない。


「あれっ? 陽ちゃん、なにしてるの?」


 みんなと同じく汗だくになって畳にへたり込んでるケンが訊く。

 その言葉に本堂の中で疲れ果てては座ったり柱にもたれかかっているみんなの視線が一気に集まるしこには、タオルを真っ赤な髪を覆い被せるようし位置は眉毛の上から眉尻は隠す程度にベーシックに巻いてから固く結び、本堂の扉前から外へ出て行こうとする俺が背中越しでみんなに告げる。


「バンドマンは魂と体力が命だから、走り込み! んじゃ、行って来る」


 そう不躾気味(ぶしつけぎみ)に告げてから一気に駆け出す。大地を蹴り、踵を返すことなく、ただ真っ直ぐ前だけを見つめて月を追いかけるように疾走する。

 お寺の外陣(げじん)の方へと疲れ果ててるみんなが近づき外を眺めると、猛ダッシュで参道を駆け抜けて宗倖寺(そうこうじ)の山門を先にある道路へと一直線に向かっていく陽太の姿があった。


 そんな突拍子で一直線に突き進む行動をするメンバーを見てケンたちは苦笑いし、奏音たちは笑みを零す口元を隠しながら見てはその中で、部長である結理が稔の腕に肘でつつく。


「ねえ稔、まーたバカみたいに体力作りに行っちゃったけど、アンタどう思う?」


 結理ちゃんの顔はどこかおちょくるような顔でニヤニヤしてる。雰囲気からしてどことなく、熱川君にあれ以来からずっと告白され続けてる私になにか言いたげな感じだった。

 きっと頭で考えるより先に動き出す熱川君が起こす行動がいつも通りでバカだなって思ってるんだろうけど、心のどこかでは楽器も歌も成長していることが嬉しくて、だけど素直になれないから照れ隠しのつもりで言ったのだろう。


「んっ? 元気でいいんじゃないかな~。熱川君らしいもん」


 瞬間、期待してた返答とは違って面白くなさそうな顔をされちゃった。

 だけど、私は別に心配すること無いし、むしろ嬉しいなって思えるんだ。


「だって、走りに行ったときに見えた熱川君の顔、すっごくキラキラしてたから」


 もうすでに彼の姿が見えなくなった参道を見ながら、私は楽しそうに言えた。

 なにも心配することない。だって万物の中で太陽ってのは全てを照らして、大きく背中に生えた翼で羽ばたかせられる希望を与えてくれるから。そんな太陽にだって陽太君の歌とギターは認めてもらってるんだもん。

 この素晴らしい世界の景色を見る勇気と夢をくれた、英雄のことを想って……。




 ご愛読まことにありがとうございます!

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