202曲目
音楽、ロックの宴会こと宴奏
太陽の象徴になれる過程のセッションに奏音も飛び入り参加した。
瞬間、天才少女の上手さこそ変わらないが、心境的な変化がある。
音楽の腕前が上手い以上に、今の奏音は、とても生き生きしてる。
こんなふうに気ままで楽しそうな奏音は、久しぶりに見るかもしれない。
それだけでなんか、音楽で人の心を変えた実感がしてありがてぇんだ。
ケンも感化されて奏音のもとに近づき兄妹で顔合わせしフレーズを弾く。
腕前とか技術とかきっと差が出ているだろうが、そんなのどうでもよかった。
今はただ、こうして仲間と強敵とともに奏でる音が出せるだけ、幸福だから。
きっとソレは、セッションに飛び入り参加した奏音も同じ気持ちだろう。
まるで音楽そのものから生命の活性化となりて、心が躍り楽しそうに奏音が弾く最高峰かつ多彩なアイデアを盛りだくさんなギターは、やはり楽しそうに歌っているみたいだった。
音が嬉しそうに跳ねてはリズムとビートの大波にノリに乗ってる。
こんな薄暗くて和やかで年季の入ったお寺には不似合い熱く照らされてギラギラとキラキラの混じり合った音で、穏やかで疲れ切った辺りが心地よい音とリズムで満たされていく。
最高に輝いて楽しめる空間にいたら、誰だって奮い立たされちまうだろう。
「あー、いいないいなっ! あーん、私もドラム叩きたーい!」
そう駄々をこねて強請るオールバック長前髪、柳園寺にソウがドラムを譲った。
柳園寺はすぐにドラムセットの椅子に座って構えるが、さすがに同じパートで今まで楽し気に演奏していた楽器を取っていいのかと申し訳なさそうに聞いてみると、ソウはなに食わぬ顔で手を前に出して左右に振る。
「なに、気にすることはない。俺にはコイツらがあるからな」
そう言って、ソウはなんと、木魚と呼び鈴とバケツを上手く叩き始めた。
即席ドラムセットを作り出してソウの正確無比でアッキー同様に人の色気の出たリズムとビートを生み出しては刻むのだが、ロックには不釣り合いで不似合いなはずのその音らが、不思議と上手くはまってるどころか素朴感もあってかなり熱い演奏へと変貌する。
ああ、やっぱり今回もよかったよ、アイツは太陽のドラマーだからな。
「あらあら、なんかいいですね~。こういうセッションも素敵ですわ」
優しそうな雰囲気の中に若干の腹黒さがありそうな感じを出している。
そんなメガネ……いや、南桐も参加して唯一のキーボードが混ざってくる。
珍しく「明日は槍の雨でも降るんじゃねえの?」と思わせるように俺も含めたソルズロックバンド【Sol Down Rockers】の腕前を褒めた結理も、いつの間にか”RHCP”のFlea特有のスラップベースでリズムがブレずに弾きまくるアッキーと一緒になって自分のベースを持ち込んでは楽しそうに弾いていた。
芯は熱血さ、アレンジで軽快さと愉快さな音が流れ出し、暗い夜を吹っ飛ばす。
最悪のひと時を味わった俺が、今、最高のひと時をコイツらと奏で紡いでく。
「さあ、みんな! そんなにロックを演りてえんなら、満演全席の奏王晩餐と洒落込もうじゃねえか! 走るような速さで紡ぐぜ。俺たちの音を……だから夜空よ、世界よ、銀河よ! 俺の歌を、俺たちの演奏を聴けぇ!」
今一瞬で考えた意味不明な言葉をすぐにコイツらは理解してくれた。
俺が言い切った直後と同時にドラム以外のみんなが一斉に飛んで音を出す。
ぜんぜん願っても思ってもなかったことが、形になり音となった。
とうとうバンド強化合宿中の全員での盛大なセッションになってしまった。
みんなの奏でる音にテンポよく合わせて、稔が愉快に躍りながら歌い出す。
天真爛漫な感じに笑いながら、稔が外陣に座りながらギターを弾いて気ままな歌詞を風に乗せて歌ってる俺の隣に近づいて、同じように外陣に座り込み夜空を見上げながら名も無き歌を唄う。
「えっ……?」
無名の歌詞を口ずさむのを一瞬止めてしまうほどビックリする。
テレキャスターを弾きながらも今巻き起こっている出来事に目を疑う。
俺と稔の間にできた忌まわしくも守らなきゃならない規則。
2から3メートルなんてとうに越えてるし体も触れている。
だって、稔は親しげで無意識に、俺の体に寄り添っているのだ。
……………………は?
おい、これってもう距離はゼロだし体に触れてるよな?
ヤバい、そう思うとすぐに体も顔も火照ってしまう。
しかしそれも束の間で、一気に鳥肌と焦りがブワっと押し寄せる。
結理に視られたら絞め殺されて地面に埋めらされては、墓はアイスの棒で彩られる前に離れようかという俺の身の安全と恐怖症をもつ稔の意志を尊重して思ったが、その百合も今ではゴキゲンでベースを弾いてはカチッとハマるリズムとビートを弾いている。
それに、今は距離とか体に触れる触れないとかどうでもいい気がした。
どうでもいい理由? そんなの聞かなくたってわかることだ。
だって、俺にとって大事で大好きな稔が、こんなに楽しそうなんだから。
そんな歓喜に満ちて歌を唄う姿を視たら、俺だってメチャクチャ楽しい。
まるで稚拙な折り方で折った紙飛行機が、どこまでも遠く飛んでく気分だ。
残酷で絶望となる運命の未来が定まっていたとしても、ぶち壊せる気がした。
最高で心が揺り動かされて掲げられる熱気のサインが、胸の内にあるから……。
「ヤベェ……ヤバいヤバい。あ、ダメだ、シャウト失礼しまッス! いやっほぉーーーーーーーーうっ!! Sol Down Rockersと二時世代音芸部で奏でるセッション。マジでサイッコーーーーーーーーーッだっぜえええええええっ!!」
いつの間にかいたのだろう、演奏に没頭しててまったく気配を感じなかった。
心地の良いセッションの音に釣られて見に来たソウの親父さんとお袋さん、それに旅館で泊まってる白神郷や他の地域から来た人々が本堂の扉から見てたり、それこそ外陣の端っこに視に聴きに来ていた観客たちにそう理を入れてから腹の底から沸き上がる熱を言葉に乗せて出した。
俺が本堂の中にて歓喜の咆哮を上げると、みんな笑顔と音で答える。
あの寂しい路上で見て見ぬ振りじゃなく、ちゃんと【俺】を視てくれてる。
俺の姿を視て、俺の奏でるギターと歌う唄を聴いて、存在を知ってくれてる。
ありがてぇ、ありがてぇぜ。
ああ、今日はなんてゴキゲンでクソッタレにサイコーな夜なんだ。
願いを叶える神様とか流れ星があるかのように、瑠璃色の空を仰いだ。
セッションの音が区切りのいいとこになると溢れて割れんばかりの拍手喝采と口笛に指笛、それに歓声が一気に沸き上がってくるが、それでも俺たちの演奏は留まることを知らずに音を紡いでは紡ぎ返す螺旋の音を奏でていく。
そこで俺は心の中で強く、それでいて祈るように願った。
今この素晴らしい時間に幸福を込めて、少しで長く続きますように、と。
ご愛読まことにありがとうございます!




