201曲目
投稿遅くなり申し訳ありません。
天使。
心を奪われている俺にはそうとしか言えない柔らかい声色。
それでいてどこか芯の強いよく通る声質でボーカル映えする声だ。
「ちょ、アンタらこんな時間になにしてんの?」
セッションの心地よい音を切らすことなく声のする方へと俺は振り返る。
やはりいた、露天風呂に入ってた【二時世代音芸部】の女子たちだ。
稔たちは本堂に入った直後、目を疑う感じを出してこの光景を見てる。
温泉自炊旅館として白神郷では人気のある”宗福の里”の混浴露天風呂を貸し切り状態の湯船を浸かって、身心の疲れが取れていざ戻って来てみると、風呂を待ってたはずのイケメン時々むさい野郎共が揃ってゴキゲンな演奏していたというのは、奇妙でありふれること無い絵面だったのかもしれない。
帰ってきた女性陣はみんな揃いも揃ってキョトンとしている。
ゴキゲンでバッチグーなセッションをしてることに面を喰らって動けない女子を尻目に、俺とケンがカッティングとリフを交互に弾いてからストロークとアルペジオに戻したり、アッキーが指弾きとスラップで演奏すればソウがツーバスとダブルストロークにゴーストノートをリズム隊で入れたりし、言葉ではなく音でもってセッション中にバンドコミュニケーションを取りながら【Sol Down Rockers】特有となる太陽の音で表現し合う。
しかも面白いことに努力以外は皆無だと思われた俺の隠された能力(?)によって静かな春雨のように降っている雨の音と、本堂の外に設置されている節を残して切った太い竹筒が支点でうまく支えてあり、斜めにそいだ一端に筧などから落とした添水がたまると水の重みでそこが下がり、水をこぼすと反転して他端が石や金属板を叩いて音を出す"鹿威し"までもが熱気に満たされたセッションの音と見事に調和するのだ。
おおすげぇ、これが自然とロックの音楽革命なのか!?
「みんなでセッションしてるの? わぁ、楽しそうだな~」
稔があっけらかんな感じで天然気味に問う。
俺たちは、その問いを言葉は不要と感じ取り演奏で応える。
とは言っても同じバンドマンなら、答えなくとも一目瞭然だろう。
「嘘……マジでアンタたち、かなり楽器も歌も上達したんじゃないの?」
まるで放心状態のような息を漏らす感じに結理が感心する。
セッションでの音がAmのコード進行だったため、Amのロックコードからチョーキングとペンタトニックの2音ピッキングを上昇し、そのままハイポジションでルートAでのペンタトニック展開スケールでの3音ピッキングをしながらも、俺は素直な気持ちを持って驚きを隠せないでいた。
……………………はっ?
なんだろう、ものすごく胡散臭い。
ケンやアッキーにソウの腕前向上を褒めるなら納得がいく。
あの結理が、犬猿の仲な俺に対して素直に誉め言葉を使うなんて珍しい。
天の邪鬼の心も感情も動かせるぐらい、俺らはノリに乗り演れてるんだろう。
嬉しいことに女子たちも体でリズムを取り、ノリに乗ってるし楽しそうだ。
「陽太さんたち、音と一緒で楽しそうに演奏してますね」
無意識にこの状況を視て音を聴いた奏音は感想を漏らす。
満足し切れない俺たちを視てなにかを思いついたという感じで奏音が走り出す。
そして、トコトコと愉快な足取りで戻ってきた奏音は、ギターを抱えていた。
ソレを見て俺は一瞬で悟る、それこそ住職や仏みたいな速さで。
いや、もしかしたら感想を漏らしたときにはもう理解してたのかもしれない。
「はぁ……えっと、失礼します」
奏音はそう他人行儀な態度で俺たちの音が奏でるセッションの輪に入った。
失礼するとかしないとか、音楽を演る者同士でそんなのは小さいことなんだ。
世間一般的にはどうでもよくても音を紡いで道を切り開く音楽は、錆びついて腐り切った人生にも何度だって火を灯してくれるロックってのは熱くて自由で、それこそ国境も地位も関係なしに世界中の誰だって受け入れるからな。
「陽太さん、同じギターパートとしてすみません」
小さく俺に声を掛けて、奏音が太陽の象徴となる俺らの音に混ざってくる。
だけど奏音は兄に似てすぐに謝罪するクセがあるが、それすらも笑えてしまう。
こんなに楽しい気持ちになれるモンを演れるってのに、性格は変わらないな。
「いいって、ガンガン弾いて楽しもうぜ。このクソッタレな音楽をみんなでよ!」
「あっ……は、はいっ!」
俺の言葉を聞き入れて奏音は顔に喜色を浮かべ自分のプレイを演る。
彼女はさり気なく演っていても、圧巻なるギター音に、みんな度肝を抜かれた。
さすが音楽界の若き天才少女と思わせる実力を目の当たりしても、悔しくない。
それどころか、とてつもなく嬉しかった。
音楽に限界が無く、それこそ努力の積み重ねで必ず限界突破できるんだ、と。
身近にいて可愛らしく、それでいて最高峰の演者がいては対抗心が燃えるぜ。
「おお、なんだそりゃ!? 奏音ちゃんのギター、メチャクチャ上手いな!」
「ふむ、これはなんとも面妖なことだ。1年生でこんな上手い子がいるとは……」
アッキーたちが素直に奏音の実力に驚いては褒めている。
ああ、すげえもんだ、奏音はやっぱり音楽界の天才少女だ。
とても、俺と同じ楽器を弾いて演奏しているとは到底思えない。
だがしかし、俺は今こうして演ってるセッションの中で新たな発見ができた。
それが例え俺たちのコンテスト優勝という夢が遠ざかるような行為としてもだ。
オドオドし弱弱しくても、音楽のときだけ本当の自分に巡り合える軌跡。
引っ込み思案で気弱な彼女が、殻を破り、鳥かごの外へと飛び立ったんだ。
だって、このとき実りある音を出して、喜色満面だったから……。
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