200曲目
熱くても、楽しい雰囲気を出していると仲間は寄ってくる。
自分も混ざりたいと念じ、楽器を取り出して演陣を組んで演奏する。
2つのリズムとビートを刻む楽器が楽しそうに混じり合い、音を紡ぐ。
目の前で音も人も楽しんでいるのを見てると、思わず心が揺り動かされる。
「えへへ、じゃあ僕も混ざろ~っと!」
その欲求に答えるのが一歩出し遅れてしまう。
俺の隣に座っては音を聴いていたケンまでが、その場から立ちあがっては壁に立てかけてあった自分のギターを持ってきてそのまま2人のセッションに混ざりに行った。
ギターが入ると、混ざり合っては楽しい音がやはり、もともとメルヘンチックでファンタジー感溢れていたのが一気にメロディアスでイマジネーションを想わせてしまう表情に早変わりする。
「ちぇっ。なんでいみんな、すこぶる楽しそうに弾いてやがる」
俺は未だにあぐらをかいたままセッションの風景を呆然と眺める。
みんなまるで波打ち際で戯れるみたいに、音と遊んでやがる。
音が最高に輝かしく自分のことを知ってくれる彼女みたいだ。
「おいお前ら、楽しいセッションだってのになんて腑抜けてたどたどしい音を出してやがるんだ。そんなんじゃあ人の心を動かせれるわけねーぞ。リズムもビートもアレンジも出来てる中で、俺はもっと熱くて楽しくてカッコいいを彷彿とさせる激しい音のが好みなんだぞ」
若干悔しくなった俺が愚痴を零すようにヤジを飛ばす。
しかしセッションをしてる3人はそんなのどこ吹く風って感じだ。
俺が躍起になってるとケンがこちらに視線を送っては諭してくる。
「もう陽ちゃんってば~。そんなこと言って斜に構えてなくていいじゃない。そういうのはこの際抜きにして、陽ちゃんもおいでよ」
「そうだぜ、セッションするならするで早く来い。今のお前見てると寂しがり屋のクセに、素直になれずに強がりでなかなか仲間に入れず心を開けてない転校生みたいだぞ? お前そんなキャラじゃねえんだから止めとけよな」
ケンに続いてアッキーがそう言い換えて俺のやる気を出してくる。
3人ともセッションに混ざらない俺を見てはニヤニヤしてくる、止めろし。
「おい、なんだその例えは?」
俺は思わずそのありがたい挑発に乗ってしまう。
でもまあ、けっこう的を射た表現なのかもしれないな。
楽しく弾くか……そうだな、こんな寂しい夜にはこんなのもいいな。
俺も近くに仰向けの状態で置いてあったテレキャスターを引き寄せるとその場に立ち上がって、3人のもとへと近づきギターアンプにシールドをぶっ刺しすぐに慣れた音を作ってはストラップを肩に通して下ろし、静かだけどどこか心の温まる旋律に身を委ねる。
その瞬間、すぐに優しいグルーブが俺を包み込んでは招待してくれた。
本堂の中には独特で静かな空間は、今だけ気を利かせて存在しなかった。
今あるのは、太陽の象徴である陽没の熱演者たちが演陣を組み、音を奏でる。
リズム隊でバンドの縁の下の力持ちであるドラムとベースのリズムにビート。
歌を支えて力強くバンドの華を咲かすギターのアルペジオとコードストローク。
それらの歯車が上手く噛み合ったとき、ケンはフと外の夜空を見上げる。
「あ、月が出てきたね」
外の景色を見てから空を見上げて、ケンが呆けた声を上げた。
こんな暗い世界に一点の光となるモノの名を聞きつられて空を見上げると、夜空を覆った真っ黒い雲の隙間から、手で覆いたくなるほどに眩しいぐらいに美しく輝いた月が顔を覗かせていた。
いつのまにか、ヒドイ豪雨も弱くなり小降りになっていた。
雨の多さを視て雨音を聞くに、もうそろそろ雨は止みそうだ。
きっと夏の夜空に似合う月と星のパレードが開くことだろう
その意図をまるで読んでいたかのように3人とも俺の顔を見て笑う。
アッキーとのリズム合わせを感覚的にしてたソウが、外を見上げつぶやく。
「おぉ……ははっ、実に素晴らしいな。不思議なことに、陽ちゃんが俺たちのセッションに混ざりギターを弾き出した途端に雨が上がるとは。まるで世界そのものが、陽ちゃんの存在を認めたみたいじゃないか」
ソウのヤツ、中々乙なことを言ってくれやがる。
そうだ、俺という存在がいないと世界そのものが困るからな。
俺はカッティングとチョーキングを弾いてから拳を上に上げる。
「当たり前だ! なぜかって? 俺こそが太陽だからだ!」
セッションに大切なリズムとグルーヴ感だけは失わずにツインギター、ベース、ドラムそれぞれのテクニックとアレンジ表現をしながら、ロックな演奏でこのクソッタレな世界すべてをギラギラに照らしてやるという意志を込めてギターの弦1本1本に熱を捧げて弾き倒す。
でも、これは孤高な狼を気取ってた俺には到底成し遂げれなかった。
深淵の闇で覆われた真っ暗な世界なんて大嫌いだし、憂鬱にさせる雨なんて湿ったものも大嫌いなんだからこそ、俺はもっと熱でカラッと太陽の光で晴れた清々しい青空が好きだと願うから1人では決してたどり着けないって経験をしたから、こうして3人の力を借りてバンドとしてロックなグルーヴを奏でられるんだ。
理論上無理とか才能が無いから無理とか、そんなの関係ない。
夜空に覆われて太陽が沈んだってんなら、俺が、俺たちが音楽を奏でてやる。
太陽自身を実体化させるほどの音楽で、ガソリンを投入してやればいいだけだ。
太陽の真っ赤な世界を思い描きながら、風に歌詞を乗せて歌う。
真夏の真っ青な青空を思い描きながら、ギターを弾いて音を合わせる。
未来の真っ白な無限大を書き綴り出し、最高のセッションをする。
周りの音に耳を傾けると、なんだか心の奥からポッと火が灯る感覚がする。
熱い、熱い、熱い、心が躍り血が滾り、アドレナリンが沸騰し活性化していく。
まだ終わらせたくはない時間だから、もっと、もっと先へ、もっと高みへ……。
「――あれえ?」
そのとき、音の太陽が照らす陽の光を燦々と浴びた、向日葵の声が聞こえた。
それは何度も聴き慣れてるけど、日に日に進化し続ける歌姫の声だったんだ。
ご愛読まことにありがとうございます!




