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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
20/271

19曲目

 教室内で自分の席に座っている俺は狼狽する。

 あのとき淫売めいたとこで起こったできごとを喋るか、否か。

 俺は今、昔から訳ありでも仲が良い三人の前で選択を迫られている。


 いやいや、これはさすがに勘弁願いたいんだよな。

 訊かれても、健気で心清らかな稔の前じゃ答えられないじゃないか。

 椅子から立ち上がり机から身を乗り出す結理の隣で、稔が心配そうにしている。

 その瞳が見れたことは"あのとき"すごくうれしかったが、今は少し心が痛む。


「ねぇ熱川君。……昨日、なにか危ないことでもあったの? 正直に言ってよ」


 俺は稔の声色と心配する目が合わさり、思わず心が後ずさる。

 正直に言わないと俺自身しなきゃいけないが、ここは心を鬼にしてくしかない。


「ああいや、こういうことは稔みたいに清純な女の子がわからなくてもいいことなんだ。俺が危険な目にあったことも、そんなのは、稔が知らなくては……いいことなんだ。だって稔は、今までもずっとずっと、苦しんで辛かったんだから。もうそんなことを知る必要は無い。だから稔はいつまでもそのままの優しくて可愛い稔でいてくれ」

「えー、なにそれ? そんな隠しごとから遠ざけるようにごまかす言い方で言われたらよけい気になっちゃうよ! 熱川君も言ってたじゃない、そういった煩わしいこともごまかす汚いやり方もしたくはないって。なのに私にはそうごまかすんだねっ! 悪いことをするのはダメだよ」


 囲むように引っ付けた机の中、俺の目の前に座っている稔が、拗ねたように上目づかいでジッと睨むが俺にとっては地上に舞い降りた天使のようにしか見えない。

 その頬を膨らませて怒っている表情は実にすばらしく可愛すぎたのだが、子猫のように睨むその目が赤くなっていることに俺は気づいた。


「あっ……おい稔、悪いけどちょっと目見せてみろ」


 異変に気付いた俺は目の前に座る稔の顔を覗き込む。

 俺は稔の身を心配しての行為だったし、別にやましいこともない。


「わ……っ! や、やっ!?」


 すると稔がものすごく驚いて仰け反る。

 彼女の咄嗟の行動を見て思わず"あ、しまった……"と心の中で呟く。

 なぜ稔がこうも驚いて仰け反っているのか、それは俺自身よく知ってた。

 だけどやっぱり俺にとっての天照大神である稔のことを心配してのことだ。


 仕方がない、俺は自分自身にそう慰めるように結論づいた。


「ちょっと、陽太! あんた。稔に……近・づ・き・す・ぎ・なのよ!」

「ぐえっ!?」


 後ろから、襟元を力一杯ぐいっと反対方向へと引っ張られた。

 ちょま、おいまて、首が締まる。

 俺はここで死ぬのか、そんな冗談混じりなことも言えやしない。

 結理のヤツ、確かに俺が悪いけどここまですることなのかよ!?


「うぐっ、ぐ、苦しい! お、おい結理、俺の、く、首が締まってる!」


 俺が苦しみもがくと、結理はめんどくさそうに締めたYシャツを解放した。

 普通はちゃんとネクタイをするべきなんだが、俺はそういったのもしたくない。

 だからそれ無しのYシャツを着こんでいるのだが、よくコイツ首を締めれたな。


「ぜえぜえ……おま、お前よ。俺をこの場で締め殺す気だったのか?」

「バッカ! これは私じゃなくて、稔に近づいたアンタが悪いんでしょうが。確かに稔の患ってた持病を治したのはアンタかもしれないけど、治療によって稔の目が見えたときに超至近距離まで近づいたアンタに怖がっちゃったんだから。普通なら近づくのも話すのも禁止なのに、稔の優しさによってせめて半径から2から3メートル以内に近づいて体を触ったりするのは禁止って決めたでしょ。どうしてそう決まりを決めたのにアンタはすぐ忘れるのよ?」

「あ…………え、いや、俺は別に決まりごとを忘れていたわけじゃないぞ。言い難いが、俺にとっては人生でもっとも絶頂できた最高の瞬間でありもっとも後悔しちまった最悪の結果の入り混じった……そういったことなんだから忘れるわけがないだろ」


 結理にそう言われ、俺はひどく焦り狼狽えてしまう。

 そう、もしタイムマシンだとか未来的道具が傍にあって過去に戻ることがある機会があるのなら即それに乗り込み、もう一度人生をやり直せるのなら、俺は間違いなくあのときのあの場所に指定してすっ飛んで戻り少しだけおかしく進んだ(ルート)を変えていくだろう。

 俺のオリジナルで変化をした彼女の結末であったのに、後悔した日々の連続。

 人にとって一番大事なことを成し遂げたのに、懺悔する末路でもあった。

 でも、俺は心のどこかでそれはそれで、よかったんだと願う自分もいる。


 そう、俺は稔の傍に2から3メートルは近づけず体も触れない。

 もちろん体を触るというのは変な意味ではなく肩や手とかそういうのだ。

 あの日以来を境に稔は、ちょっとした男性恐怖症を発病してしまったのだ。

 元々とある病気を持っていた稔が奇跡的に治ってからすぐのことだ。

 それはそんなにひどいものじゃないが、男が急に稔へと近づくと過剰にビックリしてしまい、しかもそれが俺ともなるとまさかの拒絶反応まで見せてしまうのだ。


 まぁ、それは仕方がないとは言えないが、かなりショッキングではある。

 実際俺だって自分でもやっちまったなとは思うが、何度も思う、仕方がない。

 稔の男性恐怖症と新たな原因を作ったのが、他でもないこの俺なのだから……。




ご愛読まことにありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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