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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
2/271

1曲目

 外に掛かったバンド名を確認してから、楽屋の扉を開けると"ガチャッ"と無機質な音が響き部屋の中に入る。


「おお、陽太じゃんか! 嬉しいぜ、よく今日のライブに来てくれたな!」


 楽屋の扉を開けてから中に入ると、奇妙奇天烈を通り越した奇抜なライブ衣装から過ごしやすいTシャツに着替えた先輩が、後輩である俺を満面の笑顔で出迎えてくれた。


「ういっす。田所先輩、今日は誘ってくれてどーもっす」


 俺は挨拶も軽々と、それでいて少なく喋る。

 あんまり長々と喋ると思わずボロが出てしまう恐れがある。

 田所先輩との会話も言葉少なにそう言うに心の中でとどめておく。

 たまに余計な一言多いことを言って失敗するのが多いからな、俺は。


 田所先輩は今日のライブを自己採点しているが、その言葉も頭に入ってこない。

 あとはまぁ、もう二言三言くらいお愛想を偽りながら言って、それで早々に【THE:ONHAND】の楽屋ををあとにしよう。

 うん、それで一応後輩としての義理は果たせたことになるだろう。


「はぁ? なに言ってんだ。俺とお前の仲じゃねえか……もしかしてバンドメンバーじゃないのに楽屋に入っちゃってビビってんのか? 気にすんなよ、それより遠慮しないで早くこっち来い! おい、みんな!」

「えっ!? いや、俺……えーっと」


 当たり障りのなく適当にライブの感想を言ってさっさと帰ろうと作戦を練っていたのに、田所先輩は先輩風を吹かして楽屋の奥に引っ張られてしまった。先輩後輩の間柄で親し気に俺の肩を抱き、バンド控え室でそれぞれスマホを弄ったり携帯ゲームをやったりタバコをふかしたり楽器に触れてフレーズを弾いたりとそれぞれがライブ後の休憩してる他のバンドメンバーへと気さくに声をかける。

 他のバンドメンバーの視線が一気に俺に注がれる、すっげぇ居た堪れない。


「こいつ、俺の昔からの後輩で数少ない音楽話で盛り上がれる後輩なんだよ。熱川陽太(にえかわようた)って変わった苗字と名前を持つ奴でな、頭は悪くて運動神経はある根っからのスポーツ系男子なんだけどな? これがまたすっげぇ面白い奴なんだぜっ!」


 気前よくバンドメンバーたちに俺の説明をする田所先輩は、先ほどのライブが好調だと判断しずいぶんとご機嫌な様子で、中学を卒業してから全然会わずに久しぶりに今日のライブで会った俺を紹介してくれる。

 変わった苗字と名前で悪かったな、あと頭が悪いもよけいだ。


「陽太のやつ、小学生の頃から元々一人で音楽活動していたんだけどな? そん時路上ライブとかでオリジナルを荒削りな歌い方でアコギ一本で歌ってた時にとある事務所に声かけられてさ。そこで等々俺の後輩がデビューか、って思ってたんだけどそこの社長がこいつの歌い方とギターセンスに難癖ばっか吐けて終いには音楽の才能が無いって言われちまったんだよ」


 そうペラペラと知られたくない過去を包み隠さず言う田所先輩。

 それを肴にしてへぇ~と言ったり人の気も知れずに笑うメンバーたち。

 ……ああ、だから楽屋にきたくなかったんだこんちくしょう。


「んで、今までこの見た目と顔つきでメンバーも集まらないで音楽活動してたんだけど限界を感じたらしくてな。しばらく大好きな音楽からも疎遠気味になってたんだが、今度知り合いと共にバンドを組むってんで、バンドを組んだことがないから俺らのバンドを見て勉強に来たんだとさ」

「……どうも、よろしくっす」


 小さな親切=余計なお世話な紹介をされた俺は仕方がなく、バンドメンバーの方に軽く頭を下げた。

 見た目に反してみんな気さくでフレンドリーな連中なのか、それとも田所先輩の『音楽好きな後輩』とか『バンドを組む』という音楽ワードに惹かれたせいか、割と好意的な空気が楽屋内に漂っており俺もそれが目に見えてわかる。

 そのおかげでバンドメンバーの人らは俺の肩や頭をバンバン叩いて接してくる。


 おい、やめろよな。

 よけいに帰りにくくなって時間の無駄を強いられるだろう。

 外面は普通に接し腹の中でイライラを募らせていると田所先輩が言葉を挟む。


「ちょっと待て、ちょっと待てってお前ら! 叩くの一回止めろ……そういやお前さ、今日は俺に相談があるって言ってたじゃねえか。ならこのあと時間はあるんだろ? お前がバンドのことや音楽のことで悩んでいるのを俺が親身になって聞いてやるから、ちょっとライブハウスの前で待ってろよ」

「え……っ、いやあの、俺はもう」


 確かにさっきまでは田所先輩に相談したいことはあった。

 けれど正直言って、もうそんなつもりはなくなっていた。

 あんなつまらない客引きや演奏にパフォーマンスを見せられて萎えた。

 だけどこの空気じゃ素直にそうとも言えずに、俺は口を紡ぎ黙り込む。


「馬っ鹿、遠慮すんじゃねえって! 俺とお前の仲だろ? 話しようぜぇっ!」


 バンバンと力任せに俺の背中を叩き笑顔で答える田所先輩。


 ちょ、おい痛いって、自身の力量考えてくれよ。

 田所先輩って、こんなその場の空気に浮かれて調子に乗るタイプだったか?

 少なくとも人の知られたくない過去を暴露して笑いの種にする人では無かった。


「今日は俺、すこぶる気分が良くて思わず鼻歌を歌いたくなっちまうんだよね~。んっん~、実に最高だ。今夜のステージでのパフォーマンスも楽曲も歌も演奏も、何から何まで最高の出来だったんだからなっ! だから陽太、この世で一番楽しくて最高にカッコいい生き様……『バンド』ってのがどういうものなのか、じっくりと俺が教えてやっからよ!」


 田所先輩は興奮気味と喜々して声を張り上げる。

 俺は音楽活動していた頃、ほとんど路上ライブだった。

 すれ違う人々はゴミでも見るような目で見て通り過ぎるのが日常茶飯事だった。

 だから俺にはわからないがこれがライブハウスでバンドメンバーと共にライブをし、声を掛けたりネットとかのSNSとかで拡散し集めた客たちと一体となり、達成感と高揚感に包まれたライブステージでの余韻というやつなのかもしれない。


 田所先輩が困っている後輩へと、まったくの厚意で言ってくれてるのはわかる。

 バンドがなんたるか、音楽の最高潮とはなんなのか、教えたい気持ちも伝わる。

 けれど、田所先輩が興奮すればするほど、反対にこっちは冷めていく感覚がする。

 目の前で大いに笑い声を張り上げる田所先輩がはるか遠くに見えてしまう。


「そっすか。じゃあまぁ……だったらちょっとだけ……っ」


 釘を刺された俺は曖昧な返事を返し軽く頭を下げる。

 というか、なんか一々断ってから良いじゃねえかの無限ループに入るのがもの凄くめんどくさくなって、結局俺は田所先輩の言う通りにすることに疑心暗鬼ながらも決め込んだ。

 理由は、彼と話せばなにか俺にとって得れるモノもあるかもしれないから。




ご愛読まことにありがとうございます!

これからもよろしくお願い致します。

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