196曲目
お調子者だけどいざという時は熱くカッコよさを魅せる暁幸。
無表情かつ感情に流されないが友を大事にする懐の広い宗介。
似ても似つかない2人の友情は、一冊のラノベ小説だった……。
ケンの調子があまりよくない、俺はなんとなくそう思えた。
天気もあいにくの雨だし今日のところは静かに寝かせてやりたいと言うと、彼の身を心配した奏音の説得も相まって女子の練習も休みにしてくれた。
俺も女子の心意気に感謝し、2か3回くらい頭を下げた。
練習をしなきゃロックのてっぺんに追いつけない【Sol Down Rockers】も、練習をしなくても高実績と経験の積み重ねで物を言える【二時世代音芸部】も残りわずかな期間で更なるスキルアップを試みなきゃならないのに、貴重な練習時間を休みにしてくれたことは"ありがてぇ"としか言いようが無い。
「もう陽太ってば、そんなに気にすることないわよ。練習も大事だけど休みも必要だものね。じゃあちょうどいいから、私たちはちょっと街の方に行って息抜きしてくるわ。それまでは陽太、アンタちゃんと病人を労わってあげなさいよね?」
「お、そりゃいいね~。んじゃ、俺も付き合わせてもらおっと」
そう気が利くことと余計なお世話なことを言って、女子のみんなでなにやら甘いスイーツでも食べて気分転換してくると本堂から出て街へ出かけて行った。
なぜか結理の提案と女子たちの意気投合の輪に入っては調子いいことを言うアッキーも一緒について行ってしまったので、自由気ままでお調子者な彼がいなくなっては、自論がひっちゃかめっちゃかでやかましくても"Time Place Occasion"を割かし常識的に心得てる俺とケンにソウ以外はいないお寺の中は恐ろしいほど静かになった。
それこそ外で降り注ぐ雨がうるさく聴こえるくらい静穏と時間が過ぎ去る。
「あはは、バンドコンテストではお互いに対バンする同士なのに和気あいあいと行っちゃったね~。それにしてもみんな、甘いスイーツを食べに行くって言ってたけどなに食べに行ったのかな?」
体調不良のはずのケンは体こそ横にしてもぜんぜん寝ていない。
むしろ、えらく調子がよさそうで練習してても問題ないとまで思えた。
顔色もさっきまでとは変わりどこか晴れ晴れしてるようにも見えるしな。
「ああ、なんか最近女に流行なケーキショップができたらしいから、アッキーとともにそこに行ってくるんだってさ。つーかずいぶん顔色も体調もよさそうだな? もしや地獄のバンド強化合宿の辛さが身に染みて仮病でも使ったのか?」
「違うよ~、もう。だから大丈夫だって言ったじゃないか」
俺の言葉になぜか頬を膨らませては返答する。
その膨らんだ頬を引っ叩いて喝でも入れてやろうか?
やれやれ……ま、冗談はさて置いてだ。
アッキーと稔たちとは付いて行かず寺に残ったソウは、あれからずっと難しそうな分厚い本の束を近くに置いては静かに本を読んでいる。
束ねられ積まれた本はさまざまで、住職が読みそうな本やら旅館経営のビジネス本に、園長としての学べる本だとか、意外にも堅物な感じが漂うソウからは考えられないライトノベルなどもちらほらと見受けられた。
ああ、そう言えば前にソウ自身から話を聞かされたっけな。
それはアッキーこと暁幸とソウこと宗介の奇妙な友情の昔話だ。
なんでもソウ……いや、"宗倖寺"と"宗福の里"という寺と旅館の息子こと穐月宗介は、無口で無表情なのもその頃から変わらず他のクラスはもちろん、同じクラスの同級生とも極力関わろうとせずに教室に来てはただ黙って勉強してたり、机に突っ伏して寝ているなどしかしていなかった。
そこで俺の双子の兄――熱川暁幸が当時よく読んでいたというライトノベルから派生し、ゲームやアニメまで地位を高めて世間一般的に認められたという"とある作品"を読んでみろよと言い、彼に貸してやったとのことだ。
作品名はたしか、『Materialize Live On』と言ったような気がした。
ジャンル的には世間一般的に存在する恋愛シミュレーションゲームを題材にして凝縮し作り上げたという作品らしいが、少年少女の恋愛劇に不可思議要素を絡めた現代恋愛ものの小説だったらしく、物語が最初から最後まですべてに感動に特化しており"本気で泣ける小説"として支持率が高いとかどうとかいうものらしい。
そしてこれこそが恐ろしくて嘘だろと思えたことなんだが――ミスター能面(最近は表情豊かになったが)こと宗介が借りて読ませてもらった作品が見事に激ハマりしてしまい、最後まで読んではレビュー通りにマジ泣きし感動してしまったらしく、読み終わった次の日には教室にて消極的でまったく発言もしなかった彼自身から暁幸に『すまぬ暁幸。不躾で申し訳ないが、他にこのような作品は持っていないか!?』と積極的に接し互いに話し合うようになった。
それからは暁幸も当時はけっこう色んなアニメやら小説やらを読んだりしていたらしく、宗介に貸しては感想を聞いたり聞かされたりし弁当も一緒に食っては最近流行のゲームやアニメなどを互いに情報収集したり、学校帰りにゲームセンターやカラオケに行ったりするまでの仲になって、最終的には音楽的なセッションをするまでの親友になったとのことだ。
……………………。
ええっ、いやいやいやいや、なんだソレ?
俺は聞かされたときは正直口を開けてポカーンとしたぞ。
まず、過程のインパクトが強すぎて結果が信じられない。
初めて昔のことを訊かされた俺はそう思えたのだから仕方がない。
依然として嘘だって思えるほどだし、だって考えてみて欲しい。
接点も無ければ趣味もわからず、噛み合うはずのない2人。
最初の話に出す内容としてアニメやゲームにライトノベル。
元々興味も薄かった娯楽にハマって意気投合し……熱い友情が結ばれた。
まったく、ネジのぶっ飛んだ嘘みたいなホントの話である。
摩訶不思議な友情で親友になったソウは、今なお寡黙な様子で本を読んでいた。
ご愛読誠にありがとうございます!




