191曲目
音楽の上手さに男も女も関係ない。
己の熱意と決意の強さで比例する。
ロックを愛しロックに愛されている同士で同じ目標に進む強敵。
バンドの底上げ強化をモットーにし1つ屋根の下で合宿しているとは言っても、俺たちは別のバンドであり、近いうちにバンド名を世に売り出せる機会を与えてくれるバンドコンテストで対バンをする者たちだ。
さすがに知り合いとはいえ【二時世代音芸部】の連中と、一緒に練習したりアイデアを出し合ったりってわけにもいかない。
俺がそう提案すると反論を出してくるのはもはやテンプレ。
「まあいいじゃん、お互い知らない仲じゃないんだし固いこと抜きでいこうぜ? それにそんな昔ながらなことにこだわらなくても、みんなで一緒に和気あいあいであり真剣に演れば活気も出てくるじゃん」
ヘラヘラと笑い気味にアッキーがそう言うと賛同するヤツもいる。
度々同じバンドを組んでる者同士で意見を出し合いながら切磋琢磨し合おうなどと言う解決法も出されたが、やっぱりそれじゃ納得もいかなければケジメが付けない気がして、それだけはナシにした。
もちろん俺だって音楽以外のことだったら【二時世代音芸部】のヤツらと一緒にいれれば文句はないが、本気で取り組みたいロックに対してバンドの部外者が近くにいればそれだけでも妨げになりかねないと言うと、それに賛同してきたのは意外にも結理だった。
「うん。あたしもその方がいいと思うわ。陽太たちだってオリジナルを完成させたいって気持ちもあるだろうし、それはあたしらも同じで、自分たちの曲をしっかり練り上げてライブで全力に出せる形にさせなきゃなんないし」
アッキーと同じく性格に難アリなクセに意外にキッチリしてる。
俺も珍しく結理と同意見となり女子軽音部の部長に提案を出した。
「よし、じゃあお互いのバンド練習の時間は、キッチリ時間で分けようぜ」
そういうことに意見は落ち着いた。
そんで、今は女子たちがバンドの練習をしているわけだ。
その間、俺たちは前みたく自由気ままにしっかりとした音を出して、ライブ演奏さながらの練習をすることができない。
だが、だからと言って、ただ女子の演奏を聴いているだけでサボっているわけにもいかないわけで、音を出して練習できないというフラストレーションが溜まる中で仕方ないから作詞作曲やらオリジナル曲の手直しをしたり、外に出て走り込みをしたり座禅を組んだりということになる。
先ほどアッキーとソウを筆頭に長い距離をノンストップで走ったり、公園の遊具を使って人目も気にせずに筋トレをやったりし、また寺まで戻る距離を走って帰って来ては浴場で身を清め終わったばかりだ。
しかしそこで気を許してはいけない。
ということで、今は精神修養の座禅中だ。
座禅を組んでるときでも女子達の演奏が耳に届く。
「はぁ~、こんな状況じゃ座禅に集中できないぞ」
目を閉じて集中力を高めるアッキーがふてたくなる気持ちもすごくわかる。
実際に今の俺だって同じ気持ちを味わっており、なにかと煩わしいものだ。
座禅に集中している中でも、少しだけ、音の聞こえる方へと耳を傾ける。
稔たちが分け隔てなく思いきり歌と楽器で演奏してるのが聞こえてくる。
相変わらず全てがいい音で奏でられている、クソ―、楽しそうに演奏してる!
このゴキゲンな音を聞くと心が熱されこっちまで体がウズウズしてきやがる。
しかし、稔の歌とギターをこうして心地よく聴いてるのも悪くないな。
稔の口から発せられる天使のように柔らかく芯の強い歌声をBGMにできるだなんて、ずいぶんと歓喜に満たされる贅沢な環境じゃないか。
俺の了承なしにまたさらに上手くなりやがって、ちくしょう!
できれば薄汚れて血生臭いロックなんかじゃなく、迷える俺のために優しい子守歌でも歌って欲しいもんだが。
もしそう本気で頼み込めばワンチャンやってくれそうだけどな……。
ま、ああ見えても稔も意思を曲げない子だからな、いいことだ。
「それにしても……」
座禅を組み目を閉じながらも色々と視えてくることがある。
稔の歌とギターセンスが抜群的にずば抜けているのはソロのシンガーソングライター時代からわかりきっていたことだが、【二時世代音芸部】の連中も動揺に、楽器の腕がまたさらに上がってないか?
まともに女子軽音部の連中が奏でる演奏をこの耳で聴くのは鐘撞大祭以来なわけだが、あのときも上手かったクセにそれすら見違えるほどに音もセンスもよくなっているみたいだ。
才能があるのに努力とか、チートを越えてやがるぞ。
俺は思わず唇を噛みしめて微かな焦燥感を感じてしまう。
「へえ、女の子たちもけっこう……いや、かなりやるじゃねえの」
奏でる音が良い、そう思ってたのは俺だけじゃなかったようだ。
隣で座禅を組んで集中しているアッキーも、目を半眼にしたまま、後方で稔たちの自由でバンドコミュニケーションをバッチリ会話ができている演奏に耳を傾けていた。
やはり連中のさらに進化を遂げた演奏に心から感心しているみたいだ。
「俺よりも上手いベースなんてそんじょそこらにはいないって踏んでたけど、結理ちゃんのベースプレイにあの音作りとリズムビート、なかなかいいじゃんか」
これは驚いた、アッキーが他人を褒めるなんて早々無いことだ。
大事な彼女と同様にカッコいいと抜かす自分と自分の自由を刻むベースの音が一番で、それ以外はなんの興味も示さないキザい男だからな。
だが、その自信満々で自意識過剰なアッキーが素直に褒めるぐらいに、きっと今ごろ楽しそうに演奏している結理の手から音を奏でてもらえているベースはプロ近くまで上達していた。
クソー、前に聴いたときよりも、数段上手くなっていやがる。
強敵の強さが上がって嬉しいのか悔しいのか、まるで意味が分からんぞ!
音楽歴だけこの中では一番長い俺は、なぜか子供の駄々っ子みたくなった。
ご愛読まことにありがとうございます!




