189曲目
俺はソロとバンドのオリジナル作詞作曲ノートをパラパラめくる。
1枚1枚ページをめくって内容を確認すると、違和感を覚えた。
見れば今日だけのことじゃない。
のんびり屋のクセにお節介なケンは、俺の既存であるソロオリジナルにも歌詞の追加やコード進行の中にオンコードや転調なども書き綴られている。
またページをめくって大本命であるバンドのオリジナルは、合宿中にて練習のたびにそのメモは増えていったんだろう、客観的に聴いてた感想に反省点やアイデアと参考曲などが、几帳面で綺麗な字で丹念に書き込まれている。
これを見てると、まるで1つの辞典みたいだ。
天才学者が興味的に書き綴ったのを見て笑いが出る。
「ははっ、おいおいすげえな。ケンってほんとに真面目で几帳面だな」
「あはは、僕なんて真面目で几帳面なぐらいしか取り柄も目立つとこもないからね。だけど僕なんかよりも陽ちゃんの方がすごいよ。演奏してるのは【DREAM (ドリーム) SKY】だけだけど、こんなにたくさんのオリジナルを創造して手掛けてるんだから。それに比べると僕のは指摘とアイデアを載せるだけしか出来ないから……」
褒められて恥ずかしいのか頬を染めてる。
だけどどこか卑下するように苦笑して見せる。
「あ? おいおいなに言ってるんだ。俺はケンのことをほんとに褒めてるんだぞ? ザッと見たけど、俺が気づいてなかったとこや納得しちまうようなアイデアが盛りだくさんで書かれてるんだ。それにケンは学園の宿題や授業だってなんだって誰よりも真面目に取り組んでるんだ。そんだけ真面目で几帳面にできるのは普通じゃなく、1つの才能だぞ。だからそんな謙遜せずに、もっと自分に自信を持てよな」
フッと肩の荷が下りたように表情が和らぐ。
「うん、ありがと。あはは、なんか不思議だな~。陽ちゃんにそう言ってもらえると自信出るよ。褒められてるのに謙虚でいるのがバカだなって思えるんだもん」
「ああ、いくらでも自信持て。お前は最高にイカしたサイドギターで、どんなヤツよりも音楽の女神様に愛されて、俺にとって最強の右腕なんだからな。ソルズロックを世間に、世界に突き付けて音と歌を轟かせる予定の俺のお墨付きなんだから、安心しろ!」
俺自身の特性である熱気と意思の曲がらない決意に満ちた誉め言葉に照れたようにうなづくと、ケンは水面に浮いたように大きな花を咲かせる睡蓮みたく幻想的な雰囲気に微笑むと、恋人と過ごす時間みたく愛おしそうに、手元にあるオリジナル作詞作曲用ノートへと目を落とした。
「ありがとう、陽ちゃん。陽ちゃんがシンガーソングライターとして、活動してるのに感化されて、音楽を始めたきっかけになってから心の底から思えるんだ。今僕ね、バンドで演奏してるのも合宿の特訓も、全部がすごく楽しくて面白いんだよ。ほんと、毎日がすごく幸せに満ちて充実してる。こんなに毎日が充実して楽しめるなんて人生で初めてだよ」
「そっか。そりゃ奇遇だな。俺もそう思ってたところだ。1人でずっと音楽と向き合って、オリジナルを作詞作曲してたときも楽しかったけど、そんなの比じゃねえ。めちゃくちゃ楽しいぜ」
俺が太陽みたく熱熱と笑うと、ケンも月みたく清淑に笑った。
偽りの仮面から覗かせる仮初めの笑顔じゃなく、本当にその笑顔は輝いている。
「今まで僕、なにをやってもそれなりだったし、体育とかだと平均以下とかだったじゃない? 秀才の人みたく文武両道とはいかずに、勉強もスポーツもたいして興味も無ければできるわけじゃないし、陽ちゃんが言うように真面目で几帳面なのが取り柄なだけでさ」
「ああ、そうだったよな……」
俺も思わずケンの問いを訊いて納得する。
ケンは、スポーツは昔からもともと苦手で興味も薄い部類だったし、勉強もがり勉君みたいに真面目には取り組んでいるのだが、努力に反して成績やテストの点数が特にいいわけじゃない。
それこそクラスでは上の下か中の上ぐらいで、俺よりは優れてるにすぎない。
逆に言えばそれだけで、あんまり目立つポジションじゃない。
女からも人気はあっても影が薄いし、踏ん切りもつかないとこが多々ある。
そう考えると俺とケンってまるで太陽と影みたいだなと思う。
「陽ちゃんが歌手になりたいって一途に思い続けながら、路上ライブで知らない人たちの前でシンガーソングライターとしてオリジナルのみ弾き語りをしてさ。その姿がどのアーティストよりもカッコよかったから結理ちゃんや稔ちゃんも音楽にのめり込んだじゃない? それで僕も最初こそ陽ちゃんに教えてもらいながらギターを始めてみたけど、これだって未だに上手く演れるってわけじゃないしね」
また自分を検挙気味に否定する言葉を風にのせて伝える。
でもそれは少し違う箇所があり、俺はその言葉に付け加える。
「けど、ケンは本気の俺に負けないぐらい必死にギターを練習してたじゃないか」
「あはは、練習はしてるけどギターと歌に関しては陽ちゃんには負けるよ」
相変わらず呑気なケンは謙遜して言うが、別に卑下することはない。
たしかにブランクはあっても長年ずっとシンガーソングライターとしてオリジナルを作詞作曲したり路上ライブをしてた俺には実力が劣るだろうが、それは俺がギターと歌で弾き語りという気軽にできる形式以外なにも演ってこなかったからだ。
ベースもドラムもキーボードも、俺はできやしない。
それに比べるとケンは、勉強も家の手伝いなんかもやりながら、大量の時間をパソコンでライブ映像を見て研究したり耳コピや見コピを挑戦したりギターの練習に関するあらゆることに割いてきたことを、親友としてバンドを組んでいる俺は口には出さないがちゃんと知っている。
だと言うのに自慢することなく謙遜するなんて、まさしく努力バカと言える。
泥臭い努力をする俺以上の、そう思えてしまい自分自身もまだまだだなと思う。
ご愛読まことにありがとうございます!




