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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
19/271

18曲目

 場所は廊下から変わり、俺たちが通うクラスに戻った。

 俺はそのまま帰ろうとしたが話を聞くと言い流された感じだ。

 窓際の席に座ってそこに稔、結理、ケンと座っていた。

 教室内にはまだ帰宅していない生徒とかもちらほらといる。


「えっ? それじゃあ、髪も服装もお咎めなしだったの?」


 ケンはそう驚く。

 牧野先生に呼ばされ職員室で巻き起こったやりとりをざっと話すと、俺の周りに座って話を聞いていた三人は拍子抜けしたような顔色を浮かばせていた。

 俺は確かに太陽みたいな存在感で見られるのは好きだ。

 しかし俺が求めている目はこういった感情のこもった目じゃない。

 やっぱり太陽みたいな男になるってのは、至難の技なんだろうな……。


「おいおいみんな、もしかしてそんなに俺が悔し涙を浮かべながら髪を黒く染めていたり、ましてやバリカンで髪を断髪している哀しい背中を見せる姿を見たかったのか? そうだとしたらなんて友達甲斐のないヤツらだ。……俺はものすごーく哀しいぞ、稔。お前だけは俺の気持ちを汲んでくれると思ったのに」

「ええっ!? そ、そういうわけじゃないんだけど……ねぇ?」

「んっ? まぁ、稔は優しいからね。ああ、私は見たかったけどね」


 結理は唇を尖らせてまたもやブーイングだ。

 こいつはいつも自分らしく面白いものに忠実だ。

 考えは別に嫌いじゃないが、意図が俺の髪となると話は別だ。


「ああ、稔は天使で女神で天照大神だからな。ケンも俺の心の友なんだしそうは考えてないだろ。だが結理、おめぇはダメだ! お前な、こういうときは嘘でもいいから心配したとか言えや! ……それにいくら先生だって、無理やり意思を曲げない俺の頭を黒く染め直させたり、バリカンで丸坊主にさせたりするわけにはいかないだろうからな。俺は最初から考えも髪の色も服装も変えるつもりはないし、本当に校則上ダメってことになるんだったら、さっさと学園を退学するだけだし」

「天照って、ちょっと恥ずかし……って、えっ? 退学?」

「はー、もう本当に呆れてなにも言えないわよ。たかが髪の色やら服装ぐらいで退学だって。あんたそんなことやってみなさいな、おじさんは怒るだろうしおばさんが泣いちゃうわよ?」

「結理。そうは言っても、俺の鋼の意地と夢と希望を覚悟した決意のせいで、真っ当な仕事をしている牧野先生に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。あんなに話し込んでもどっちも折れはしない。でもいざとなったら俺が苦渋の決断をして折れなきゃ、牧野先生が気の毒じゃねーか」


 俺の断固たる決意を物語ると結理は先生みたいにため息をはく。

 女ってのはなぜこうもため息が多いのか、いや、それは流石に差別だな。

 しかし俺は今日という日が訪れてからほとんどため息ばっかはかれるんだが?


「あのね、なんであんたはそういったとこではちゃんと考えられるのよ? だいたいそう思うのなら、丸坊主にするのがイヤなのは見てわかるし、さっさと髪を黒く染めればいいだけの話なんじゃないの? あんたバカ?」


 おい、人を人差し指で差しながらバカってなんだバカって。

 俺にはちゃんと"熱川陽太"って名前があるんだからそう呼べよ。

 結理は、未だに俺がしょんぼりと物悲し気な背中を見せながら髪を真っ黒く染める姿を、どうしても見たくて見たくてたまらないらしい。

 もしコイツが見知らぬ人間だったら、問答無用でグーパンしてるとこだ。

 結理のふざけたご託を睨んだ視線で黙殺し、そのまま俺は稔の姿を盗み見た。

 さっきから職員室でのできごとを説明している最中もチラチラと視界に映り俺がものすごく気になっているのは、今日も稔がギターケースに入ったエレキギターを学校に持って来ていることだ。

 稔は見た目も性格も可愛くて天照だからエレキギターを構えて演奏するのはそれはそれで似合っているのだが、やはり俺としては踏ん切りができずにもモヤモヤと悩ませてしまう。

 こう聞くのはあんましよくないと思うが、ここは大きく踏み出すべきだ。


「なあ、稔。まだお前は、女子軽音部を辞めないのか?」

「ふえ? う、うん。私は辞める気はないんだけど……どうして?」

「どうしてもこうしてもあるか。男はロックやパンクといったジャンルで立ち向かうのはいいが、健気で可憐な女の子はロックなんか演奏するべきでも歌うべきでもないんだ。いいか、普通のロックでも苦難の多い道で先がまったく見えない未来そのものなんだ。身に降りかかる危険でいっぱいあるんだ。俺だって俺自身のロック、ソルズロックだって、身を焦がして消えちまう恐れもあるんだぞ?」

「ええ、そ、そうなの? 熱川君、消えちゃうの? 危ないよ~っ!」


 稔はぽや~んとして、しかも可愛らしいボケもおまけ付きだ。

 ああ、もうものすごく可愛いんだが、なんなんだこの生き物は愛でたい!

 これだから俺にとって心配してしまう要素が満載で、目が離せられない。

 確かに俺は稔もこうして音楽を好きになってくれたのは、すごくうれしい。

 けれどやっぱロックとかの曲を弾いたり歌うのは、なんか悶々としてしまう。


「そうだよな。稔は結構箱入り娘だった頃もあるし、なによりもとから天然でぽわぽわしているとこがあるから知らないだろうが実はそうなんだ。かく言う俺なんかも昨日、ああいや、とてもここでは言えないような目にあうところだったんだぞ? こうしてなんともなく帰れたのが奇跡に近いんだ」


 そうだよなあ? と隣に座って話を聞くケンに同意を求める。

 ケンはいつも通り爽快で偽りのない笑顔のまま受け答えをする。


「あはは、でもああいうことは、普通に生活してて滅多にないことだと思うよ」


 ケンは俺の隣で、苦笑しながら意図を汲み取れきれずにそう言った。

 ちくしょう、俺とお前との友情はそんなに薄っぺらくはないだろう?

 俺が少しだけ忌々しい感じの視線を投げかけると、俺にウインクをする。

 ああ、こいつ、説明するのが面倒だからってそのまま俺にパスしやがった!


「ええっ? なになに、ねねねっ陽太。いったいなにがあったのよ?」


 あ…………やばい、コイツが動き出した。

 ほうら、大きい主が面白そうなネタに食い付いて連れたじゃねーか。

 馬鹿っぽく阿保みたいな面白いことにはとてつもない野次馬根性の旺盛な結理は、自分の楽しみを満たしてくれると察したのか目をキラキラと輝かせている。

 しまった、コイツが同じ席を囲んで話を聞いているのを忘れてた。

 もしかしたら俺自身がコイツの存在を忘れようとしていたかもしれん。


 美味そうな食べ物を発見した動物みたいに喜ぶ結理を見て、俺は諦めづいた。

 諦めづいたというのは別に決意熱意どうこうじゃなく、弁解するのが、だ。




ご愛読まことにありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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