186曲目
投稿遅くなり申し訳ありません。
恋愛にまったく興味がない。
前は仮にレズだったらとかの話になったとき、自分がレズだったら速攻で稔を押し倒してイチャコラしているよと爆弾発言をしてくれやがって、今しがたアッキーの熱烈アプローチで恋愛話になってるのにその毛が全然ないと言った感じの対応をする結理を俺は生暖かい目で眺めていた。
そこで稔も不思議そうにキョトン顔で尋ねる。
「あーそう言えば、私も女子軽音部のみんなもそうだと思うんだけど、結理ちゃんのそういう話って聞いたことないね。あの人にちょっと興味あるとか、この人カッコいいなあとか」
「そりゃ無いわよ。だってあたしそういうの興味ないし」
さも当然のように結理は恋愛皆無と斬り捨てる。
おいおいマジかよこいつ、女として超ヤベーじゃん。
きっと今の発言でイケると踏んだのだろう、アッキーが動く。
「あっれ~っ? へー、結理ちゃんそうなんだ? つまり今、彼氏はいないってことだよね。だったらオレと付き合おうよ? 同じベースを弾く者同士、仲良くなれそうだしさ。俺もその手の話には強いから安心してよ、ねっ?」
アッキーが何の前提もなしに告白しやがった。
しかもその告白した相手があの男っ気無しの結理にだ。
敵陣の包囲網に作戦無し単独で突っ込んでるようなもんだぞ。
コイツ、前に速攻でフラれたことをもう忘れたのか?
なんでも出来る鬼才持ちのクセにニワトリ並みの頭なのか?
恋は盲目と言っても限度を超えていないかと、そんな疑問が浮かぶ。
男に興味ないからの超スピード告白。
そんなあまりに唐突すぎることに、面を喰らった俺たちは思わず黙って結理の答えを固唾を呑んで見守ってしまう。
「アンタもしつこいわね。何度言われてもお断りだわ」
一刀両断。
やはりコイツは男耐性ある一刀両断女サムライだ。
不動、その言葉がここまで似合うのはそういない。
やはり、さすがの姉御肌系女子代表の結理は動じなかった。
告白に対して動じることなく、アッキーを2度もフッてしまった。
野球で例えるなら2回目のホームランを相手側に決められた。
サッカーで例えるなら2回もオウンゴールを決めてしまった。
実に今のアッキーを見ていると、そんな感じに見えてしまう。
「ガビーン……そ、そんな……」
軽々しい愛の告白は見事に撃沈された。
「アッキー、またフラれたな。ナンパ撃沈2度目だぞ」
かなりショックを受けているとこに追い打ちをかける俺。
聞き分けも性格もいい芽愛がこの摩訶不思議な状況を見たらいつものことだと笑って流すだろうが、これをもしアッキー親衛隊である女の取り巻きどもが見たら発狂してこの道路で血生臭い女の戦いが繰り広げられるに違いないぞ?
「な、なんでダメなんだ? オレってこんなにカッコいいのに、大事な彼女がいても同等に可愛がる自信があるのに。デザートは別腹だって言うんだから普通はどんな女の子でもOKを出すだろ? こんなにカッコいいんだぞ俺は! なのに……なんでダメなんだぁ」
いや、十中八九そういうところがダメなんだと思うな、俺は。
例え心の中でそう感じで思ったとしても、今はなにも言うまい。
今の渋った顔で悩んでいるアッキーはあまりにも惨めすぎて痛々しい。
コイツにとってはいい薬だろうが、仕方がない。
仮にも俺の双子の兄であり、ウチのバンドのベーシストだ。
今日だけはやさしくしてやろう、それが俺のできる善行だ。
「教えてくれこの世界の女神様よ。オレのどこがいけないというのだ、顔も性格も鬼才溢れるこのオレのどこがダメなんだ。オレには結理ちゃんを落とせることが出来ない理由を教えてくれええええええええええええッ!? なぜなんだあああああああああッ!?」
あまりにショックで郷内にある街のど真ん中で疑問を叫ぶ。
いやだから、そういう自意識過剰なとこを押さえろってことなんだろ。
きっと天から見下ろしている女神様も『プススー』とか言って笑ってるぞ。
しかしなにも言うまい。
今の俺はアッキーの味方であるのだからな。
そんな痛々しいアッキーの肩に手を伸ばしポンポンと軽く叩く。
「よしよし、悔しいよな。辛いよな女にフラれてな~。だけどその悔しいって気持ちも全部ひっくるめて音楽の、いや、ロックの肥やしにしような。ロックってのは怒りの感情から熱気に変換し、行動と実力向上の原動力になるんだぜ」
しかし昨日までとは空気も雰囲気も一変してしまったな。
俺たちの、肉体的にも精神的にもストイックかつトレーニング実戦を投入したソルズロックンロールを追求するためのバンド強化合宿は終わってしまったのか。
早朝の走り込みも精神修養の座禅をやり通し寺と旅館の掃除なども自発的に手伝っては止まってるお客さんの目の前でアコースティック生ライブをしたりするのも、俺たちが夏休み最終日に控えている夢の登竜門とも言えるバンドコンテストで見事な初出場初優勝を飾るためでもあり、さらにその先の未来でも俺たち【Sol Down Rockers】の活動をより良いモノにするためでもある。
だからこそ昔ながらのスポ根漫画なやり方で身心ともに鍛えてたと言うのに、華やかな女が同じ寺に同じ目的で合宿して来て、例えバンドコンテストでの最大のライバルだとしても、1つ屋根の下で音楽漬けの暮らしになってしまって調子を狂わされてしまったのだ。
まさにモノクロだった世界が一気にフルカラーになったと言うと、陳腐でありきたりな表現だと思うかもしれない。
けれど、実際の風景がまさにそのようだったと、俺自身思えることだ。
本当に、女は化けるモノであり魔物でもある、と。
ご愛読まことにありがとうございます!




