17曲目
今にも噛み付きそうな結理の隣にいる天使の子なのが、大一葉稔。父親が日本人で母親が外人という、いわゆるハーフと呼ばれる人種であり、俺にとってはこの世に舞い降りてくれた最高の女神様である。
実家が喫茶店兼楽器スタジオという異質なとこに住んでおり、しかもケンと親戚であり、そんでもって音楽にも興味があるという三つのつながりからロックバカな俺とも幼馴染みみたいなものである。
しかし幼馴染みとなれたのは中学三年生の卒業式の頃であり、最近のことだ。
元々彼女はとある病気を抱えていたらしく、ほとんどが病院生活だったのだ。
ケンも結理も心配してお見舞いに行き看病したりと色々と助けられたらしい。
俺も稔とこうして分け隔てなく話ができるようになったのも"ある事情"があって知れ得れたからなんだが、それはそれで思い出すとこっちが恥ずかしくなるので、あんまり話に出しては欲しくない事実でもある。
他人の不幸をオカズにするだけで軽く三杯はイケる結理とは対照的に、先生に呼び出され説教させられていたことで心配そうな目と、困った表情でスカートの前で手を組み指を動かしそわそわしながら俺をジッと上目遣い気味に見つめる稔。
ああちくしょう、笑顔も超いいけど不安そうな顔もかわいいぜ。
さすがは俺の女神、まさに"稔たん・マジ・女神"で『M3』だぜ。
日本の女神様で"太陽"を具現化した"天照大神"が稔って言えばしっくりくる。
神様、よくぞこのような可愛い女の子と出会わせてくれて、ありがとう!
俺の断髪または染髪式を面白おかしく見物しに来たと言わんばかりの結理とは天と地ほどの差で違い、心の底から本気で俺の頭髪と服装を心配してわざわざここまで来てくれたんだろう。
いくら友達とはいえ結理のような性格ひねくれて口悪く乱暴な女と肩を並べていても、その聖母にも似た優しさと女神のような可愛さと、胸が自慢というグラビアアイドルなんか目じゃないほどの爆乳と安産型で形もいいお尻はまさに一点の曇りも無い神光そのものだ。
そんな稔も、ベースを弾く結理に誘われて女子軽音部に所属している。
パートはギターボーカル兼バンド曲のシンガーソングライターとのことだ。
元々訳ありな彼女ははじめこそ戸惑い慌ただしく焦っていたようだが、今は女子軽音部でのバンド活動をすこぶる楽しんでいるようだし、実際実家が喫茶店兼音楽スタジオなだけあるのか楽器を弾いたり作詞作曲をする腕も悪くはない。
作詞作曲をするときも大体結理と話して決めるか、電話越しに俺へと聞くかだ。
まあ、俺は稔の口から発せられる天使の歌声みたな声が耳元で聴けて僥倖だ。
だけど、実際女子軽音部の活動を見ている俺の方は未だに納得がいかない。
そりゃそうだ。
稔みたいな可愛い子がロックみたいな澱んで翳んで"No Future"精神で彩られたクソッタレな音楽を好き好んで演奏するべき人間じゃ決してないのだ。
いい意味では誰に対しても気軽に受け答えし優しく可愛らしい笑顔を振りまく、悪い意味では優しすぎて他人の誘いを全然断れないどこか内気な性格もロック向きじゃないと俺はいつも思う。
まあそれはともかくとして……。
過去にはいろいろな理由はあるのだが俺も含めてこの4人は、小学生の頃からもよく一緒に遊んでいた仲間でありそのころの俺はただただ一人でがむしゃらに路上ライブで弾き語りをし一人の力で夢を実現させようと息巻いていたため、最初こそ俺にはこの3人すらも傍にはいなくて寂しいひとりぼっちの狼を気取っていたんだ。
そこであの公園のベンチでひたすらアコギを片手にボールペンで考え付いた歌詞をひたすらノートにまとめていたとき、同じクラスだったケンが俺の姿を見て近寄って話をするようになった。
最初こそ俺は毛嫌いし一人を決め込んでいたが、ケンはそんなことどこ行く風みたいに平然と俺の傍でただ自分が作ったオリジナルを聴いてくれてた。それから月日が経ってケンから自分には親戚の女の子がいると聞いたあの日、衝撃の出会いをして知り得た幼馴染みが稔で、その一番の親友でありなんでも相談に乗ってくれてたのが結理だったというのが一番わかりやすい関係図だろうか。
その関係は基本的には、今でもまったく変わっていない構図なんだと俺は思う。
小さいガキだった頃はいろいろとあって、素直になれず照れ隠しをしてしまう思春期を迎えつてさらに拍車をかけたみたいにいろいろと増えありつつも、そのまま仲のいいくされ縁、という絶妙かつ居心地のいい具合で今に続いているわけだ。
「三人共、わざわざ職員室の前までご足労をかけてもらって悪いが、これといって面白いこともないぞ? 俺はさっさと帰って俺だけのオリジナルを作るのやギター練習をするのに忙しい身なのでな。じゃ、音楽を練習する感じの用事があるんでこれで……」
心底心配している2人と面白そうに眺めている1人を交互に見る。
その後俺はさっさと学校の廊下を歩き出し、校門へと向かう。
「あ、ちょ、ちょっと陽太! あんた待ちなさいよ~っ!」
背中から急停止の感覚が這い寄る感覚を受け、俺は歩みを止める。
別に止まる理由も無かったのだが、俺にだって義理を受けたら感謝はする。
3人に俺は待っててくれとは頼んだ覚えが無いが、こうして待ってくれたんだ。
そのことが心の奥底で引っ掛かり俺の好奇心を引き留める役割を果たしたのだ。
俺が廊下を悠々と歩くのを止めたのを確認し、3人は俺の背中を見る。
するとすぐ後ろからそれぞれの駆け足気味な足音を聞き、少しだけため息をつく。
はあやれやれ、家に帰って好きな音楽制作に取り掛かるのはまだお預けかもな……。
ご愛読まことにありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。




