164曲目
投稿遅くなり申し訳ありません。
独りよがりな演奏からの脱却。
陽太はちゃんと、仲間と共に……。
音楽をする『大切さ』を学んだ。
静かな本堂に鈴虫の鳴き声と乾いたアコギの音が共演する。
なんだか気持ち的にバラードチックなものを弾きたいと感じ口笛を吹き始めると、DからGへと進みAへとコード進行を転換させ、そのままBmからGにAといき最後にDへと戻るように、何気なくゆったり弾いてみながら本堂の天井を見て外に映る深夜の景色を見渡す。
そこには、見えるけど見えないものが、俺の双眸に映し出されている。
追い恋い焦がれ、手を伸ばし足を動かし、憧れいだく軌道の道に続く先が……。
『ワアアアアアアア~~~~~~~っ!』
聞こえる、並みの様な拍手とともに世界が割れる様な歓声が聞こえる。
それは確実にステージに立ち己の武器を持って挑んでいる俺たちに、俺とケンとアッキーとソウに、太陽の象徴となるソルズロックバンド【Sol Down Rockers】に向けられた大いなる拍手喝采と狂喜乱舞するほどに高められた歓声だ。
俺たちの新たなる可能性の秘めている太陽の演奏が、Soundが、Grooveが、エンターテイナーの枠組みから逸脱された最高のLiveを魅せながらお客さんたちを熱狂の渦へと巻きこんで歓喜に満ち溢れさせていたのだ。
「あははははっ、ああ、そっかぁ……そうなんだな~っ」
ケンがいきなりクスクスと笑う声が背後から聞こえてきた。
まるで俺の考えている意図を読み取ったかのような笑いに、俺は没頭気味になっていたアコギの弾き黙りから我に返って後ろを振り返り見ると、雲から隠れていた月が世界を照らし瑠璃色の彩りに塗られたケンが上半身を起き上がらせては俺の方を見て、いつもの爽やかな雰囲気を出しながらニコニコ笑っていやがる。
俺はアコギを持ち立ち上がると、元いた自分の布団の方へと歩いて戻り、近くにまた自分のアコギをあまりの枕にギターネックを犯せてからソッと仰向け状態にしてからケンの方を見る。
まったく、人が珍しく真剣で熱い話をしているというのにと、カッとして眉を寄せた俺はケンを睨みつけてやった。
「おいケン、なにがおかしいんだ? 俺は真剣に話してるし本気で……」
「ああ、ううん、違うって。僕が笑っちゃったのはそこじゃなくて。小さい頃からずっと1人でシンガーソングライターとして活動していたから、何でもかんでも1人でやらなきゃって躍起になってたと思うんだ。でも陽ちゃん、さっきからコンテストのことやバンドの話をする度にずっと『俺たち』って言ってるじゃない」
ケンがそう言うとなぜかアッキーもソウも小さく笑う。
俺に意見を述べるケンはなんだか見当違いなことを言い出した。
なんだソレ、どういうことだし、俺にはさっぱり意味も意図もわからない。
「ああっ? なに、だからソレがいったいなんだってんだよ?」
「だって、歌でも楽器でもなんだって『俺が』すごいとか可能性があるとかじゃなくて、バンドの『俺たちが』すごいとか潜在能力を持ってるところを見せつけてやりたいってずっと言ってるんだよ。自分で話をしててまったく気づいてないから、笑っちゃったんだ」
するとケンはまた笑い出してしまい口元を手で覆い隠している。
……………………え?
ケンはいったいなにを言ってるんだ、正気にでも戻ったか?
どうやら俺の話を聞いてる中に変化を気づいたケンはそうニコニコしているが、当の本人である俺にはまだ、全然なにが言いたいのかまったく見当も付かない。
そんなの当たり前じゃねえか、俺がソロで音楽活動をしてるわけではない。
4人いるんだから、『俺』じゃなく『俺たち』で間違いないじゃないか。
1人じゃなく4人でバンドを組んでいるから、俺たちのすごいとこを魅せる。
それのいったいどこが変だというのだ、と俺は頭の中になんども疑問が沸く。
そこでフと、俺の脳裏にとある格言で著名なセリフの一つを、思い浮かべる。
世界的有名な格言"One For All All For One"という素晴らしい意志が世界にはあるが、まさに今の俺たちがソレであり続けなければならない決意であり、日本とか世界とか銀河とかもう理も道理もあったもんじゃないほどに、燦々と輝き放つ太陽の象徴で照らしてやらなきゃならないんだ。
バンドマンと言うのは世間一般的にはどうでもいい能力だろう。
シンガーソングライターというのは世界一般的にはちっぽけな存在だろう。
でもそんな、1人が誰かのために歌うのが、下らないことなんだろうか?
よく周りから頭ごなしに言われる普通に生きろという平凡な言葉の数々。
会社員や公務員になるために勉強していい大学出て社会に貢献しろってセリフ。
俺にとってはどれもこれもが薄っぺらく偽善者が口にするに過ぎない言葉だ。
だがそんな中で、言葉という手段を通してあの子に、大一葉稔に言われたっけ。
病室という狭く脆い、飛びたくてもばたけない監獄の鳥かごにいたあの子に。
『もっと、誰かに相談したりして、音楽活動とかするといいんじゃないかな』
そう言われたっけ、とても自然に思ったことを伝えられた。
あのときの『誰か』ってのがまさに、コイツらのことなんじゃないかな……。
今度は、俺たちがこの世界で膝をかかえ泣いてる『誰か』に、歌を届けるんだ。
ははっ、ソルズロックンローラーのクセに綺麗ごとを吐いてるバカだな、と
苦笑する俺はケンの言う『俺たち』という本当の意味を考え天井を見上げた。
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