163曲目
無難に安全に、当たり障りなくするか。
危険な地帯に踏み込んで挑戦するか。
陽太の中で困惑と疑問が混ざり合う。
やはりオリジナルよりコピーで無難に出場しよう、か。
俺は仰向けのまま頭の後ろに手を置いたまま、顔を見上げる。
世界がすべて反転しては暗転している景色を絵の具で彩っている。
「なあ、俺はものすごーーーーくっ、疑問に思えるんだけどよ~。お前らさ、そんなに上手く演奏できるようになってきてるのに、なにいきなり守りに入っているわけ? おい、俺たちは別にチャンピオンでもジョーカーでもない。周りからドン引きされるほどにヘタなド素人から夢と希望を胸に秘めて立ち向かう、熱意と決意を抱いたチャレンジャーじゃないのかよ? 今の俺たちは0ですらねえんだぞ。守るものも失うものもだって、なにもねえじゃねえか」
地位も名声も権力も、実力もない、ないない尽くしだ。
そうだ、俺たちはなにも持っていない。
まったく真っ白なゼロ、いやマイナスからのスタートなんだ。
守るものも、失うものも、こんなちっぽけの手にはなにもないんだぜ。
だったらどうするんだよ、答えは簡単じゃねえか。
ただ真っすぐ前を向け、下も後ろも見ずに、未来を見据えろ。
できるって、やれるって心の中に熱を帯びてやり切ればいいだけだ。
「おう、そんなの決まってんだろ。もちろん、オリジナルを演奏りたいって言う俺だってコンテストは勝つつもりだし、見事に優勝してやるって意思もあるんだぜ。でもよっ、ただバンドでライブして勝つだけじゃ俺はぜんぜん納得いかない。勝負事も勝てばなんでもいいってわけじゃねえんだ」
そう丹田から熱を感じ喉を通して、思いを口にする。
そんなときに、俺は鮮明で走馬灯のように思い出す。
その正体は紛れもなく、この前の初めてのライブだった。
きっとみんなも気づいているはずだ。
あんなに惨めで虚しく醜態をさらしたステージだったんだ。
忘れるはずもなく、心に楔として撃ち込まれて辛いはずだ。
「絶対に忘れられるわけがねえ。この前の俺たち"Sol Down Rockers"にとって初となるライブ、演奏もまったく気持ちよくないし噛み合わず、観客からも呆れられ暴言を吐かれたことを俺は心底悔しかったんだ。それこそバンドマンとして、1人のシンガーソングライターとして失敗したって以上に、せっかく来てくれた客がしらけれてやがったのが悔しくて許せねぇ」
そうだ、俺たちのライブはあんなはずじゃなかった。
俺はあんなクソッタレでファッ〇ンなライブがやりたくって、この太陽のように熱いロックを創り出して活動していくソルズロックバンド【Sol Down Rockers】を組んで一生懸命生きながら演舞をしてるわけじゃないんだ。
俺は練習と就寝場所となっている本堂の天井へと、ソッと視線を映し戻す。
そこには本堂の天井しか俺の視界に映し出されていないが、あのときと同じように、腐敗し深淵に包まれた世界を燦々と光り輝いてカッコよく見下ろしているソイツの存在をしっかり感じている。
いるんだ、確実にソコで俺たちを見てくれてるんだ、だから――
「嘘だって思われたら仕方ねえけど。俺にはハッキリと未来が、俺たちの行くべきとこを導いてくれてる軌道が見えてるんだぜ。あんなことでへこたれないし、俺たちの実力も決意もこんなもんじゃないし、終われるわけがない。俺たちには努力でも才能でも覚醒できて、無限の可能性を心のどっかにしまってるだけで、もっともっとすごくて人々を歓喜に満ち溢れさせることができる」
そう言い切ってから手を伸ばし、グッと握って、空を切る。
だけどなにか熱くて、ギラギラしたなにかを掴んだ気がした。
「だからこそ、俺はすごく悔しい。このまんまじゃ死ぬに死にきれないし絶対に終われない。まだ俺たちのステージにカーテンコールをするのは早いんだ。俺たちはまだ、こんなとこじゃ終わりたくない。太陽の音を奏でられる肆音は、ソルズロックのロールはまだまだ鳴り止まねえんだぜ!」
俺はそう言うとなぜか体を起こし布団の上にあぐらをかいては、すぐ近くに置かせてもらったアコースティックギターのネックを左手で取ってからすぐに弾き語りの態勢へと切り替えて、オープンコードを弾き浮かぶ歌詞を思い描き口に出す。
夢も希望も口だけに終わらせないと強く願いながら、弾いて唄う。
決意と言う覚悟、熱意、友情、勝利、未来、世界、規則、罪と罰に柵と闇……。
浮かび上がるロック調の歌詞をただただコード進行へとなぞるように当てる。
別に歌の上手さとかギターの力量とか関係なく、ただ弾き唄うだけ。
静かに弾き語りしても、そんな荒削りとがなる演奏り方は変わらない。
だけど俺がバンドを始める前と今では、段違いになにかが変わっていたのだ。
そんな視線を一身に受ける感覚があるからこそ、俺は根っから力強く言える。
「俺たちの本当に引き出せる実力を、あのあくびをしたり知り合いとぺちゃくちゃ喋ってライブからかけ離れていた連中に、いや、日本中にも世界中にも銀河中の連中に、俺は絶対に俺たちの進化し続ける演奏で思い知らせてやりてえんだ。俺たちはもっとすごくて、熱くて楽しくてカッコよくて、無限の可能性と未知なる潜在能力を持っているんだってよ」
布団の上で横になっては、頼もしくて背中を預けれる仲間は、静かに視て聴く。
それでもきっと、見た目だけじゃなく内面も知れた仲間の気持ちは心で伝わる。
以心伝心とはまさにこのことなんだろうな、となんとなく思ってしまう。
俺自身も1度そう心から想いを乗せ考えると、自然と体の芯が燃えてくる。
もちろんコレに対して根拠も証拠もありゃしないし、俺の言葉も薄っぺらい。
だけど、今でも俺には本当に、今も目の前にハッキリ映し出され見えるんだ。
幻聴でも幻覚だとしても、それが実体となって映り出された。
絶対に無理だと現実ではありえないと言われている光景の色が塗り潰された。
努力して頑張った先に待っている俺たちの最高潮となるステージの姿が……。
ご愛読まことにありがとうございます!




