157曲目
旅館の部屋やら施設やらと寺の境内やら本堂を掃除し終わった後に、泊まっているお客さんの前に女将さんから許可を貰い俺がアコースティックギターとソウが自前のコンガを持って来ては、ケンとアッキーがアコースティック用の楽器が無かったため手拍子をしながらも4人がボーカルとして洋楽のコピーやら熱川陽太としてのオリジナルなどを歌ったりし中々の反響を頂いた。
時間も進んでバンド強化合宿の初日は夕方に突入していた。
場所は戻ってお寺の本堂にて、俺たちは食欲を満たそうと試みる。
俺は両手を合わせ一礼し、この世の全ての食材に向け感謝の言葉を出す。
「ありがたい夕飯、こころよく……いただきますっ!」
出て来たメシを見ては香りを嗅ぎ、俺は心底嬉しくなった。
俺の実家で出される夕飯よりも豪華に見えて思わず涙を流しそうになったが、コンテストで優勝すればバンドの名は日本中に知れ渡るし、ライブ活動をめちゃくちゃしていけばこれぐらいの夕飯を1週間に1回は食えるだろうと楽観的に考えてしまうもんだ。
腹が減っては戦はできぬ、ということわざが日本にはあるじゃないか。
例えそれがバンド練習とは言ってもライブと同じ真剣な戦と同等なんだ、と。
音楽に興味を示しロックを愛し太陽を尊敬する俺が言うと、3人も納得した。
旅館の方は他のお客さんが利用しているから無理だったが女将さんのご厚意で貰えたお裾分けと、お寺の食事だってんでてっきりメシ時でも精神修養のためとかなんとかで精進料理みたいな味気なく食欲を満たされなさそうなものが出て来るかと思っていたが、ちゃんと肉も魚もある。
夕飯の料理は普通に見えるがとても美味しそうだ。
暖かいご飯に味噌汁、肉じゃがに焼き鮭やらかぼちゃの煮つけとお茶。
心染みわたるほどに空腹に刺激される匂いに誘われ俺は箸を伸ばして口に運ぶ。
口に運び咀嚼し、お茶を運び喉へと通し、美味に酔いしれる。
「おお、美味い! なんだこりゃあ、すげー美味いじゃねえか。お袋さんの手作りって言ってたけどこれは格別に美味いぞ! いや~マジで、ソウ、お前んちの寺が菜食主義じゃなくて生臭主義でよかったぜ! ありがとうな、美味ぇぞおい!」
俺は夕飯の旨味を力強く食レポするが美味いのゲシュタルト崩壊しそうだ。
味噌汁を静かにすすっている正座のソウはそれを横目で見ては訊いていた。
そして味噌汁の入ったお椀をソッと食台に置く、なるほど、さすがだ……。
「生臭……か。ふむ、つまり肉食主義って言いたいのか?」
夕食の飲食物を食べては飲み食べては飲みを繰り返しながら褒め称える。
だがそれとは裏腹に目を開けてはキョトンとしているが、気にしない。
俺の傍若無人ぶりと豪食っぷりを申し訳なさそうな顔でケンが注意してくる。
「もう、陽ちゃん。そういうことを言うのは失礼だよぉ」
「むぐむぐっ……んぐっ、ふう~。まあ、いいじゃねえか。そのおかげで、こうして不自由なく美味くて腹に溜まるものが食えるんだからさ。ケンは少しよそよそしすぎなんじゃないのか? もうここはバンド強化合宿先で俺たちは同じバンドのメンバーなんだ。悩みごとなんかしたっていいことないぜ~?」
少し抑え気味に食べているケンとは違い、問答無用でガツガツ食べるアッキー。
言ってることは俺も大いに賛成だが俺もアッキーもズバズバ言うもんだな。
俺とアッキーが飯を豪快に食っている中、そのことにソウが受け答えする。
「はっはっは、まあまあそんなに気にすることはないさ。気楽にしてくれ、ケン。それにウチの寺は別に殺生しているというわけじゃないが。よく住職やお寺の人間は菜食主義と思われがちだが、仏教の戒律には肉食を禁じるような規定はないんだ。それにウチの寺はだいたいが葬式とお経が中心だし、そこまで頑なにこだわるような時代でもないしな……それに、ロックを演奏するロックンローラーは野菜じゃなく肉を食わねばならんのだろう? なあ、陽ちゃんや」
ソウはわずかに笑みを零しながら俺の方に話を振ってきた。
コイツの口からロックンローラーという単語が出るとは、成長しているな。
俺は口の中にかき込んだご飯と味噌汁の具を咀嚼し、飲み込み、親指を立てる。
「おお、ソウはよくわかってるな! そうだ、ロックを愛し、更なる高みへ目指すソルズロックンローラーはやはり肉を食うべきだ! 昭和はよくわからんが、これこそ平成のロックシーンの常識であり曲がらないルールな!」
今時の日本人らしく曖昧な笑みと考えを俺なりに愛想よく答えておく。
「えっ? そうなの。そんなロックシーンがあるんだ~?」
ケンは素直にうなずいてはご飯を箸で取っては小さい口で食べる。
相手が爽やかイケメンの親友があっけらかんに出すスマイルも0円っ!
まったく疑う余地も気配も見せないケンはいつまでも純粋だろうなぁ……。
「難しい話は置いておいて、とにかく肉と飯が食えればなんでもいいって。……んぐっ。あ~美味い。こっちは彼女との連絡もしなければ女の子たちとの接しまで断ってるってのに、そこで肉も食えないんじゃ発狂して暴れてしまうかもしれねぇからな。ま、これもバンドでリベンジするためにガマンしなきゃなんねえけどなっ!」
ガツガツと口にメシを頬張った後のアッキーは満足そうに言う。
女っ気と食い気だけは一人前でベースは達人前のクセによく言うぜ。
「はっは~っ! なーに言ってんだ、この色情狂の底なしナルシストめ! 顔と見た目がいい分さらにその効力をフルで発揮してんじゃねえぞ。こうなったら、ファッ〇ンメシ大盛でおかわりを要求する!」
メンバーの良さもちゃんと口に出して、団結力を高める。
俺はバンドルールを守り本当にコイツのいいとこを口に出し褒め称える。
そのままアッキーに照れ隠しとも思える背中叩きをされたが、なんでだ?
ひぐらしと鈴虫のハーモニーが共演し鳴り響く即席のコンサート。
お寺の本堂と言う和と仏教の空気と雰囲気で満たされた大部屋場所。
4人の漢たちが輪になり囲み、夕飯を楽しむ声が響き愉快な光景となっていた。
ご愛読まことにありがとうございます!




