156曲目
本番での楽曲内容決め。
コピーかオリジナルか。
悩みどころですね……。
コピーのみで挑んで安泰を勝ち取ろう。
無難で攻め込めばリスクは無いからだ、と。
その気持ちは俺にだってわかる、わかるんだ、だけど…………。
ぜんぜんダメだ、俺はそんなんじゃ自分で認められないし腑に落ちない。
だからこそやっぱり、バンドとして新たな楽曲とジャンルを創り上げ、ロック史における伝説の1ページを刻みたいと願い焦がれる俺はそれじゃ納得がいかない。
構成や歌詞とコードの完成度が高すぎる借り物の曲をいくら上手くコピーし楽器ソロも歌もちゃんと演奏できたからって、なりすましの形を出し観客を喜ばせたからって、だからソレになんの意味が成しているって言うんだ。
俺は竹箒を左手で握り持ち、右拳をガッと上に掲げる。
「ああ、たしかにオリジナル曲をもう1度見直したりコンテストで演奏するのは大変だろう。わかる、わかるぜソレはよぉ。無難に演奏することを目標に掲げているんなら、別に他人が作詞作曲した完成度の高い曲だって構わないかもしれない。でも、コンテストは舞台じゃない、1つの大きな勝負なんだ。音楽は楽しめるし面白いものだが、ロックは勝負だぜ! そんな理想的で最高なステージで、他人のふんどしで相撲をとったり他人の車で爆走するみたいな情けない真似はイヤなんだよ」
それが俺の本心であり熱意の象徴そのものだ。
初代の意志を引き継いだ” 二時世代音芸部”を実力で下し、そして笹上さんたち” New:Energie:Ours”に面と面を向かって挑戦するための切符を手にするための最大級となる難関の試練だ。
だからこそ、絶対に俺たちにしかできないモノで挑みたいのだ。
「すまん。やっぱり俺は、俺たちらしさをふんだんに込めた俺たちの楽曲で勝負をしたい。だけどこれはソロの俺としての意見じゃなく、バンドの一員としての俺の意見なんだ。一任して決められない。だから聞くぜ、みんなはどう思うんだ?」
俺はそう強い意志を灯した言葉と視線をメンバーに向ける。
多分だが、それはみんな同じ気持ちでいるんだと思う。
だが、俺の質問のすぐ後には山道の言葉はどれも返ってこない。
いや、むしろ口を紡いで渋っている雰囲気がひしひしと伝わってくる。
なんだ……?
もしかしてみんなオリジナルを演奏りたくないのか?
俺がそんな疑問を心中で感じていると最初に口を開いたのはアッキーだ。
「だけど、この前はそれで見事に大失敗を飾ったからな」
その辛辣にも似る辛い言葉が俺の心にもグサッと突き刺さる。
かなりの精神的と肉体的にダメージがくるもんで、痛いぞ。
アッキーが、苦いものでも嚙み潰したような顔で確実に言った。
俺も含めみんなの頭に浮かび上がるのは、やはり前回のライブのことだ。
俺だってあのときうけた屈辱と醜態をさらしたことを忘れたわけじゃない。
「お前の言いたいことはわかるが、すまん陽ちゃん。俺はもう、あんな惨めで体たらくで、顔も背中も背きたくなるような酷いステージを演出するのはゴメンだぜ」
その絞り出した言葉には、しみじみとした悲嘆な実感がこもっている。
きっとソレは伝染しケンもソウも同じ気持ちであり、浮かない顔をする。
ああ、俺だってあんな屈辱的で辛いライブをするなんてもうゴメンだ。
「バンドとしての実戦経験がどこよりも少ない僕たちが、ステージを通して歌と楽器の演奏が未熟だったのもそうだけど、0から作り上げたあの曲自体あんまりお客さんたちにはウケてない感じじゃなかったかな? もしコンテストでもう1度そのセットリストで演奏るなら、その曲を相当練り直さないと」
ケンの言葉に賛同するようにソウが静かにうなづく。
どうやら静観コンビはなにか通ずるものがあったのだろう。
「うむ、たしかにな。あの曲を俺たち全員でアイデアを出しあって作り上げたときには時間も限られていたんだし、ライブをしなきゃならんという焦燥感に駆られて少し安易に考えすぎていたかもしれないな。これは客観的な考えだが、観客というのは俺たち演者とは違う、もう1つの聴覚を持っているのかもしれないな。次のコンテストは前のライブよりももっとずっとレベルが高いのだろう? それこそ今のままでは、まったく勝負にならないのではないか?」
……………………。
おいおい、なんとも的を射た言葉の応酬だろうか。
正確無比なリズム同様に的確に突く問いにおもわずたじろぐ。
ああ、事実それは俺だって感じている。
俺たちは時間が無いからって少し甘く考え過ぎていたんだ。
そんな俺たちが見せてしまった非は素直に認めよう。
だけど…………。
「もちろん俺だってあんなんで満足できるほどの出来が完成したって思ってるわけじゃない。もっともっと先に、ずっとずっと高いとこまで駆け上れるはずなんだ。だからこそ、この地獄のバンド強化合宿中に、もう1度本気と決意を刻み込んでバンドオリジナル曲を練り直そうぜ! そうすれば絶対に観客やライブ共演者も全員心を揺さぶられるいい曲になるはずだ! 俺には、絆と団結力を固めた俺たちの実路力で叶えられるって、確信があるんだ!」」
本当に確信があるからこそ俺は心底から沸き上がった言葉を放つ。
だけど、俺の熱心な主張に、メンバーのみんなはやはり渋い顔をする。
なぜそこまでしてみんなの隠された力を信じてやれないのか、不思議に感じる。
「うーん。でも、コンテストまで時間が無いからねぇ」
ケンが言う、コピーに賛成1人。
「陽ちゃん。そこまで優勝にこだわるのなら、音楽の先駆者が生み出したコピー曲を確実に時間をかけて仕上げた方が、完成度は高くなるし優勝の確率も上がるだろう。ライブは勝負事だと思うのなら勝ちにこだわった方がいいんじゃないのか?」
ソウも言う、コピーに賛成2人。
「同感だ。オレも陽ちゃんが手掛けた【DREAM SKY】やあのバンドオリジナル曲も今回ばっかりは封印した方がいいと思う。楽曲の良さは悪くないとしても、とにかく、オレは前回の侵した失態と張られた汚名をそそぎたいんだ。だったらカバーでもコピーでもいいからカッコよくビシッと決めて、バシッと最高の演奏をしようじゃねえか」
アッキーも言う、コピーに賛成3人。
オリジナル1対コピー3では圧倒的不利だ。
「いや、でもさ……やっぱ、その」
さすがの俺も口ごもってしまったときだった。
「おーい、境内の掃除は終わったのか?」
「宗介、それにお友達のみなさんもそろそろ休憩になさって下さいな。まだまだやってもらうことはあるんですから、お昼に近いですしたくさんおむすびを作ったのでぜひ召し上がって下さいね~!」
俺が言葉に詰まっていると、本堂からお経を読んでいた住職さんと旅館から仕事の休み時間として来てた女将さんの声がともに飛んできた。
ソウの父親と母親なのだが、住職さんは一見穏和そうでいてなかなかキビシいし、女将さんはとてつもなくきれいで着物美人と言われるほどながらも気ごころ知れた優しいという人たちだ。
「まあ、バンドコンテストに出す2曲をコピーで演奏するかオリジナルを演奏るかどうかは夜にでもまたみんなで意見を出しあって話し合うのが一番じゃないかな」
「そうだな。母の握ってくれたおむすびと淹れてくれたお茶をご馳走になったら、次は俺たちがバンド練習で使わせてもらう本堂の掃除が待っているから、気合を入れなければな」
「な、なあ? オレたちって、別に清掃員として掃除をしに来たわけじゃないよな? ロックバンドの練習での向上と団結力の固めるために来たんだよな?」
アッキーはまた視線を逸らしてしかめっ面を浮かべる。
そこにソウが無表情の仏頂面で意見に釘を刺してくる。
「おいアッキー、文句を言うんじゃない。これは他の合宿する人々にも同じことを言っているんだが……合宿を始めようとする初日に、自分たちがバンド練習として使う場所と泊まる場所だけは自分たちで丁寧に掃除をしてスミズミきれいにするというのがうちの決まりだ」
そう言い丸め込まれアッキーは肩を落としソウが肩をたたく。
そしてみんな竹箒を地面に引きずって、ゾロゾロと住職さんと休憩中の女将さんがいる本堂の方へと引き上げていく。
だけど、俺の足がぜんぜん動けずにいる。
悠々と歩いて行く3人の背中が、俺にはもの凄く遠くに感じられた。
本当に無難に勝ちをこだわるとか、そんな安牌な術を選んでいいんだろうか?
他のメンバーはそれになんとか納得しても、俺はどうしても納得できないぞ!
静止した中でまるで爆発したかのように俺は境内を爆走し出す。
遠ざかるメンバーの背中を追い求めるように、ひたすら走っていく。
ご愛読まことにありがとうございます!




