155曲目
仲間内でバンド曲を決める。
バンドマンとしての醍醐味である。
バンドコンテストという戦場で実戦する楽曲の選びどころ。
竹箒で上手く掃除をしゴミを集め終えたソウがこちらを振り返る。
「たしか、コンテストで演奏するのはどのバンドも2曲だったな」
ソウの問いに俺たち3人は力強く1回うなずく。
目標のバンドコンテストで、1組のバンドが演奏できるのは2曲までだ。
その2曲をどう決めるのか、決まり次第それを重点的に練習しなければ。
「うーん、やっぱ無難的に考えると2曲ともコピーにするの?」
「いいや。それじゃダメだ。第一それは、俺としてはなるべく避けたい」
確かにいい案だろうし優勝する確率も大幅に上がるがうんとは言えない。
優勝という結果にベクトルを置いて無難にコピー曲でまとめ演奏するか、それとも独創的で団結できる(予定)だろう俺たちのオリジナル曲を入れるか……。
コンテストで演奏できる2曲ともコピーでまとめ練習を積めれば、たしかにあのときに受けたような2度の大きな失敗をする可能性や確率も低くはなるだろう。
それこそきちんと完成した演奏するバンド楽曲のコピーなら、とにかく合宿に置ける時間を大いにかけてやり込めば、イヤでもそれなりにバンド演奏としても楽曲としても上手くはなるものだしな。
元から完成度の高いものに拍車をかけるんだから、当たり前だが……。
うん、それは確実に失敗せずリスクの少ない無難の策だ。
だが、それをしてしまっては面白味や愉快さも少ないやり方だ。
そんなんじゃ俺たちの熱いソルズロックな演奏には不釣り合いだ。
反対に、バンドのオリジナル曲を演奏するのはハードルが多く高い。
俺自身は経験もあるし今だに作詞作曲を全面的に行っているからわかることだが、当然と言っていいほど、形の無い0から作りアイディアを詰め込んで完成形にするための大前提として、まずバンドとしてのオリジナル曲を作るところから最初にしなければならないからだ。
それこそ俺のソロとして演奏するオリジナル曲でもいい。
だけどそれも面白味が無いし二度手間感があってオススメできない。
それはしごく当然のことであり、ここにはシンガーソングライター”熱川陽太”としてではなく、ソルズロックバンド【Sol Down Rockers】のメインヴォーカル&リードギターの熱川陽太として合宿に来ているからだ。
だが、幸い1曲はバンドのメンバー全員で作り上げた持ち歌がある。
この前のライブで演奏して最初こそ良かったものの、中盤からはまったくホールにいた観客に受け入れられなかったロック調の楽曲だが、このまま没にして捨てるのは惜しい。
なにせ、共通性も心情もバラバラな俺たちが初めて作詞作曲した曲だ。
この感覚はもちろんシンガーソングライター魂として同等の想いだぜ。
よくバカな子ほど可愛いやら可愛い子には旅をさせよと言うが、バンドメンバー全員でアイデアを出しあい組み合わせたこのオリジナル曲を絶対に日本中に轟かせたいと考えてしまうほど、強く温かい思い入れがあるのだ。
バンドとしてのコツや実績が少ないからそれ相応の手間と時間はかかるかもしれないが、あの0から作り上げたロック調の曲をブラッシュアップし色んな感情からインスピレーションを取り上げたりし徹底的に仕上げれば、きっと俺たちの目指している太陽と同等として肩を並べられる大きな武器になると思えるのだ。
「悪いみんな。バンドコンテストの優勝としての確率も低いし、結果の道筋も見えずに難しくなるかもしれないが、我儘を言わせてくれ。やっぱり俺としては、2曲ともオリジナルで演奏したい。あのときのライブで演奏したセットリスト通り、俺が作詞作曲した【DREAM SKY】と、もう1度俺たちで手掛け上げたオリジナルに挑戦したい」
夢と希望と憧れを全部賭けて出場するバンドコンテスト。
ステージに立ち実戦する演奏曲はオリジナル曲2つと決めたい。
それこそ俺たち"陽没の熱演者"が作り上げた双創曲でだ。
蝉の鳴き声がし、燦々と照らす太陽と夏の熱気で彩られる世界の最中――。
それすらも吸収した俺はそんな気持ちを出し、意思と決意をあらわにした。
猛者が実力とともにバンドとして舞い込んでくる大舞台での楽曲決め。
目標であり勝ち取ろうとするコンテストはやっぱオリジナルのみで挑戦したい。
そう俺は懇願するように言い小さく頭を下げる。
それには誰も酷評したり否定することは無かった。
だけど、やはりオリジナル2曲はハードルが高く疑問が出される。
「陽ちゃん。その気持ちはわかるけど、だけど、きっと大変だよ?」
俺は顔を上げるとケンの言葉にアッキーもソウもうんうんとうなずく。
夏休みの最終日に控えているバンドコンテストまで、今からじゃ十分な時間があり字技術を詰め込めるとはとてもじゃないが言い難い。
やはり2曲ともコピー曲でまとめる方が無難で現実的かもしれない。
まあ、それはそうだ、確実に優勝できる確率を上げるべきだ。
そっちの方が多くあって高いハードルは格段に低くなるのはたしかだ。
必死に気持ちを飲み込もうとしてもなぜか焦がれ顔色を歪ませてしまう。
無難と言う安泰を取ることをやめ1発勝負に出る真実を脳内で詮索する。
まるで出口を探そうともとめ彷徨う――迷い人のように言葉を探していく。
ご愛読まことにありがとうございます!




