154曲目
バンド内であだ名で呼び合うそんなシーン。
絆と団結力を深めて高めるためにしたのは世話になる施設の掃除。
そしてもう1つはお互いにぶつからずに手っ取り早く早く打ち解け、絆の結束を固めるには、お互いの呼び方を名前や本名じゃなくあだ名に変えて見るのがいいんじゃなかろうかと考え着いたのだ。
こういうのはよく日常的な学校風景でもよく目にする。
学生や社会人のみならずあらゆる仲間同士ってのは、たいてい仲間内だけの独自の呼び方があっては、集まったとき気軽にそう呼び合うもんだろう。
ふつう、そういう独創的なローカルルールで1つの名前から出される無限大のイマジネーションの中で決めた呼び名で呼び合うのは、共有する時間をかけて話が合い親しくなっていくうちに自然と生まれるものだ。
だけど俺はそこで碁盤をひっくり返し、逆転の発想にでた。
それこそ、時間をかけて熟成した関係の中を取っ払い独創的なローカルルールを先に無理やりにでも作ってしまうことで、お互いのわずかに生じている距離を一気に縮めることができるのかもしれない……それが発想の逆転に転じた俺の天才的なアイデアで緻密に練り上げていた策略だったのだ。
「たしかにやり方はメチャクチャだろと思えるものの、まあ、考え方と行動は間違ってないのではないかな。バンドとしての強化とメンバー同士の絆を深めるのを、合宿と言う非日常空間に身を投じるのを機に無理矢理にでも導入することで、歌や楽器の練習への活気にも繋がり団結力工場の効果も底上げできるのではないかと思うぞ」
宗す……ソウが冷静な判断から出した言葉に思わずうなずく。
それはどうやら健二も同じ気持ちだったようで爽やかに微笑む。
「うん、それは僕も宗す……ソウの意見に賛成だな。たしかに今はお互いにあだ名で呼び合うのは難しいかもしれないけど、そういうのもきっとすぐ慣れると思うし、稔ちゃんや笹上さんが言っていたバンドの会話にも繋がるかもしれないもん」
問いを訊くとアッキーは思わず流し目で右頬に冷や汗をかく。
おいおい、そこまでイヤなのか? ま、気持ちはわかるけど。
「うえ~、そうなのか? かく言うオレはこのあだ名で呼び合うようになってからちっとも慣れる気が1ミリもしないんだがな。ったく、陽ちゃんもソウもケンも思考と行動が単純でいいよな~。羨ましいぜ」
悪態をついても俺たちのベーシストである暁……アッキーも、竹箒で地面を掃き清め今だにぶつくさ文句を言ってるクセに、ちゃんと俺が提案した決まりを破らずに守ってくれている。
何だかんだ”自由”を愛すと言っても意外に律儀なところがある男だ。
俺はソレを見て微かな兆しが見える気がしてならない。
案外、それだけこの地獄のバンド強化合宿に賭ける譲れないモノが、アッキーの心の中にあるということかもしれない。
「まあ一先ずメンバー同士が呼び名で呼び合うことはいいとして、バンドに賭ける思いが強い陽ちゃんのことだ。せっかくのコンテストに向ける夏休み合宿だってのに、そんなバカなことだけしか考えてないわけじゃないだろうな? あんなに丁寧かつみっちりと掃除したんだから、旅館も境内もしっかり行き届いたと思えるし、もう掃除なんかしてないでさっさとバンド練習しないか?」
竹箒の持つとこに両手の平を置きそう提案をする。
それに反応したのは俺じゃなく住職の息子であるソウだ。
「いいや、待つんだ。掃除は大事なことだぞ、アッキー。目に見えないだけで、そこにはまだゴミや塵があるかもしれない。それに自分の周囲をきれいにするということは、まさしく、澱んで黒ずんでしまってる自分の心を清めるということと同じことだ」
クドクドと説教にも似ることを言うソウ。
それに対してキョトンと呆けてるアッキー。
「そりゃわかるけど……実際それ、バンドと関係ないじゃんか」
うん、たしかにその通りだ、これでは住職の掃想と変わらない。
道理に適ってることだが俺たちのバンドとはあまり関係性が無い。
しかし絆を深めるには心も強くしないと意味を成さないならやるべきだ。
俺たちは清掃員じゃない、1つのバンドで活動するバンドマンなんだ。
気持ち的には前向きながらも頑張って竹箒で掃除をする姿がそこにあった……。
そんな疑い深くて訝し気に訊いてきたアッキーの目を俺はしかと見る。
当たり前だ、俺たちは音楽を演奏し強化するために来たんだからな!
「ああ、もちろん掃除ばっかりしてるわけじゃねえさ。バンド練習や個人練習、テクニックの向上とライブを全力で演奏するための体力と体作り、合宿の最中ありとあらゆることをしなきゃならないけど、まずは、バンドコンテストで演奏る曲を決めなくちゃならないだろう」
実際に一番ちゃんと決めなくちゃならないことだ。
実力派の猛者が組んだバンドがモチベーションを高めてはライブ会場に集う、最終日に迎えるバンドコンテストで演奏する曲が決まらなけりゃ、合宿で行う練習も修行もクソもあったもんじゃない。
なにを練習するのかをまず決めなければ物事は始まりもしないのだから……。
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