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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
154/271

153曲目

暑い日でも心頭滅却すれば火もまた涼し。

バンド練習も大事だが、感謝の念も大事。

 真夏の季節と相まって燦々と陽射しの強い太陽の真下、木々に留まり夏の風流とも思える蝉の鳴き声と涼し気な通り風がある中、俺たちの本気ロックバンドでの絆と団結力を高める一石二鳥の方法を実行していた。


 ザッザッザ……。

 ザッザッザ、ザッザッザ……。

 ザッ、ザッ、ザザザッ……。


 うん、実に心地よくそれでいて落ち着かせる音だろうか。

 俺はあるモノを両手で持ってはその音の正体を出し修練に励んでいた。


 これまたなんとも夏の風流を感じさせる音があちこちから聴こえてくる。


 噛み合わずにデタラメな雑音(ノイズ)だらけのバンドを更生させるために、夏休みの間この寺で合宿をする俺たちが最初にしているのは、使用させてもらう寺の境内と露天風呂やらお客さんの前で演奏させてくれる機会をくれた温泉自炊旅館内の掃除だ。

 先ほどまで女将さんの方に挨拶してから泊まっているお客さんの邪魔にならないように、旅館内のありとあらゆる場所やら部屋を4人で効率よく丁寧に掃除をし終わってからいま聞こえてくるのは、最終日までの夏休み中の合宿先となる寺で竹箒(たけぼうき)が境内の独特な地面を掃き(きよ)める音。


 しかしコレが意外に難しい操作を用いるものだ。

 俺たち全員が通っているミッション系の学園である【鐘撞学園(しょうどうがくえん)】の教室を掃除するのにもちり取りと箒は使うのだが、さすがに日常的で竹箒だなんてものは早々使うことはない。

 なので馴染みは無いのだが、コレもなかなかいい”Sound(サウンド)”だと言えよう。


 俺が竹箒で地面を掃き清めていると同じことをしてる暁幸が怪訝につぶやく。


「な、なあ陽ちゃん。俺ものすごーく疑問に思うことをこの際だから言わせてもらいたいんだが。なんで絆と団結力の向上をモットーであるバンドの合宿で、来てそうそう最初にやるのが境内と旅館の掃除なんだよ? 音楽からかけ離れておいて清掃の修行でもしなきゃならないってのが腑に落ちないんだが?」


 境内にある些細な塵にけっこう悪戦苦闘してるようだ。

 それと相まってか不機嫌そうにも不思議そうな顔つきを覗かせる。


「おい、いちいち文句を言うんじゃねえよアッキー。最終日に控えるバンドコンテストで見事優勝を実現させるための合宿としてこれからお世話になるんだから、それこそ誠心誠意と感謝の気持ちを大いに込めて2つの施設の掃除ぐらいするのはあたりまえのことだろ。それにライブハウスやライブバーとかでよくバンドマンや有名のミュージシャンのほとんどは、そういった演奏させてもらえる場所の楽屋や控え室とか入る前より出た時の方が綺麗にしろって言うぐらいだしな」


 アッキー。

 悪鬼羅刹や悪鬼羅漢の悪鬼ではない。

 俺の双子の兄である暁幸のあだ名である。


 俺はそう言いながらも同じく四苦八苦する竹箒を操る。

 だが上手くいかずに思わず感情が尖りそうになるが、一瞬で消滅させる。

 そういった心の持ち腐れはよくないと、2度の失敗で学んだからな。


「そうそう、そんなに不機嫌そうにしながらやるもんじゃないよアッキー。これも1つの練習になるんだし、合宿先に合うお寺つながりで精神修養のうちなんだからな。ねっ、ソウ?」

「……………………」


 健二に呼びかけられても宗介――ソウは反応しない。

 仏頂面のまま無言で竹箒を見事なまでに上手く操っている。

 さすがに寺の息子でもあるが、まるで魔術の1つにも思えてしまう。


「あれっ? おい、ソウ、ソウってば。声かけてもしもーし! ……聞いているのか、ソウ?」


 竹箒を掃き清めながら俺が何度かしつこく呼ぶと、ソウはやっと気づいてこっちを振り向いて、その顔にはわずかに驚きの表情が見え取れた。

 きっと無意識に無視したことに罪悪感でも感じているのだろう。

 別に俺はぜんぜん気にしていないが、やはり健二とソウは似てるもんだ。


「んっ? ……あ、ああ、そうか。そうだったな。ソウというのは俺のことだったか。いや、別に無視をしたりしたわけではなく本気でわからなくてな。すまん」


 ソウはそう言うとすぐに3人に向かって小さくお辞儀し謝罪する。

 さすがは寺と旅館を経営する両親の息子だ、人間ちゃんとできてる。


 どうやら自分が呼ばれているとは全然思わなかったらしい。

 まあそれも無理もないしいきなり慣れろと言われても難しい。

 俺だって、自分の双子の兄であるアッキーを暁幸とじゃなくアッキーと言うたびに怪訝な顔を浮かべるし、全身の鳥肌が立っては身震いするからな。


「おい陽ちゃん、やっぱりこれ、違和感がものすごくありまくりなんだが。慣れてないとはいえ全員の名前をあだ名で言うたびに、俺の心が音を立てて崩れていきそうで心配なんだけど?」

「いや、そこは耐え忍べ。とにかく呼び慣れるまでガマンしろ。お前だって俺のことを陽ちゃんって言うのは辛いだろうが、正直言って俺だってお前のことをアッキーなんて呼ぶたくねえんだよ」


 俺はいきなり本音を暴露する。

 一石二鳥の方法だけどさすがに無理がある。

 だけどそれでもこれが一番最適だろ思えるのだ。


「当たり前だろ、オレだってそう呼ばれたくはないんだぞ。オレを尊敬と愛情を込めてアッキーと呼んでいいのは、大事な芽愛とファンの女の子たちだけだったのに……陽ちゃんやソウたちに言われちまうと威厳が無くなっちまうだろ」


 どんな威厳だよ、と思ったが口に出すのは止めた。


 とはいえやはりアッキーは心なしか残念そうだ。

 だがそれも仕方ないし、通らなきゃならない道だ。

 これも全部俺たちのバンドの団結力と絆の深まりのためだ。


 前途多難だとか無理難題だとかいろいろ意見もあった。

 けれどこれが出来やしないとコンテストでの優勝は世迷言に終わる。

 だからこそ自分自身たちで壁を作り上げてぶち壊しなきゃならない。


 ま、それも踏まえて修業と思えば別に苦じゃないからいいかっ!

 そう楽観的かつ真剣に考えながら俺や3人は心を清らかにし落ち着かせ、外の体は冷静で内の芯は熱く滾れる精神を0から養うように、境内を丁寧に掃除に取り掛かるのであった。




ご愛読まことにありがとうございます!

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