151曲目
仏教+ロック=般若◯経。
太陽よりも真っ赤に、熱く、成長する。
新しい陽を創り出すソルズロックバンド“Sol Down Rockers”の合宿初日。
空には太陽がのぼり、郷には向日葵が咲き乱れ小鳥たちもさえずる爽快な日だ。
新たな太陽の音を紡ぐ俺たちが通されたのがあの本堂だった。
ここに来るのはメンバー勧誘をし合宿をするという2度目となるのだが、やはりいつ来てもお寺らしい古風で和の作りで彩られている大きな部屋だ。
古い木と線香と埃といったお寺独特の匂いがしてる。
このお寺でも旅館でも言えることだが、やはり考えてしまう。
どちらの施設も音楽やロックなんかにはまったく無縁そうなところだ。
ケンは使い込んでいるエレキギター1本をギターケースを背負い、俺はテレキャスターのギターケースを背中に背負い込んでは、右手にアコースティックギターのギターケースなどを担いでこんな和風極まってるところにいるのは、やはりちょっとした違和感やら奇妙な疎外感を覚えてしまう。
だがそれが、面白い。
日本の仏教に熱い魂なるロックの神髄を0から教え込むのも悪くはない。
南無阿弥陀仏とかやら経本の言葉をお借りして歌詞にするのも楽しそうだ。
仏教の道徳的にロックの熱狂的をかけ合わせる。
違った見方もできて新しいきっかけにもつながりそうだな……。
俺は本堂の室内と自分たちの行いに照らし合わせてみる中、宗介が振り向く。
「バンドの強化合宿中は、皆この本堂で寝泊まりしてもらうことになる」
宗介はゆったりとした口調で3人に言う。
俺はそう聞いてから唖然として周りを見渡す。
なんか、和と邦洋の合成を目論み仙道に歩み寄るみたいだ。
とりあえず合宿中は、この端から端までだだっ広くて住みやすそうな空間に、みんなで布団を敷いて寝るのだと言うらしい。
こちらとしてはただただバンドの強化合宿をさせてもらえることだけでもありがたいし、こんな広い場所で布団を敷いて寝ろと言われても別にそれでも不満はないが、すぐそこにバカでかくて丁寧に手入れされている仏像やら経本道具などもあったりする。
こんなところに寝ていいのだろうか、バチが当たらないか?
「ま、夏は夜だと涼しい風も入ってくるし住み心地はいいからいいんだが。宗介、母屋の客間が空いてるんじゃないのか? 練習する場所は別にここでいいとして、寝泊まりはあっちだとダメなのかよ?」
さすがに入り浸りしていると人間ズバズバ言うモノだ。
まさに勝手知ったるなんとやらで、暁幸は図々しいことを言っている。
その言葉を訊いて宗介が暁幸の顔を見ながら静かに1回うなずいた。
「うむ。本当ならそうしようと思っていたのだが、なんでも後でもう一組客がウチの寺に来ることになってしまったようでな。母屋の客間はそちらのお客に使ってもらうことになったのだ」
なるほど、俺らの他にも先客がいるのか。
それに旅館の方のお客さんではなく合宿する人らか。
「ふ~ん、そうか。つーことはまた他の合宿か精神修行かなんかかよ? 去年もどっかの空手部やら柔道部、それに剣道部とかのアクティブ系部活のメンバーが来てたよな。女将さんも飯の作り甲斐があってたいそう嬉しそうに言ってたし」
おいおい、なんか合宿経営とかしたら儲かりそうだな。
ま、ここはお寺でそういった欲望とは皆無なんだろうが……。
暁幸のそういう事実を聞いてケンは思わず関心顔を向ける。
「へえ、そうなんだ。けっこうこのお寺に合宿で練習とか修行とかしたいって人たちが来るんだね。僕らの学園にある部活動の合宿ってだいたい学園内でしてたりもするけど、やっぱ合宿と言えばお寺とか当然のことだけど旅館ってイメージがあるからかな」
ケンはそう尋ねる。
すると宗介が言った。
「うん、そうかもな。まあこちらとしては頼まれればできる限り強力するようにしているからな。お寺と旅館の両親に育ててもらってるせいか、人助けってものが自分の宿命にも思えてしまうほどだしな。これも道徳と仏道の運命なのかもしれん」
宗介は目をつむり仏頂面で言うが内心嬉しそうだ。
メンバーとしてそういった変化を見極められることもなんとなく成長が見えるし、そのおかげでバンドの強化を考えている俺たちもこうして無理を受け入れてもらい合宿ができることになったのだが、旅館は繁盛するのはいいのだが仏門を通るお寺がそうだと考えものだな。
しかし、他の合宿客か。
そいつらも全国大会優勝だとか遠征とかで精を出し本気だろうが、こちらはその方向性よりも大きくそれでいて光輝き、普通なら手が届くはずのない偉大な夢を叶える1歩として、やる気を全力全開で地獄の合宿に来ているのだ。
物事がぜんぜん違う人らと鉢合わせするのもどうかと思う。
「まあ同じく合宿をさせてもらう俺らがどうこう言える立場や権限でもないんだが、そいつらは俺たちが本気で演奏るバンド練習とかの邪魔にはならないんだろうな? その泊まりに来るヤツらの邪魔する気もこっちは無いし、来るヤツらも聞き分けがいいんなら別に構わねえけど」
俺はわずかに顔を曇らせてつぶやく。
正直言って自炊旅館とかではお客さんとかが増えるのは別に良いのだが、合宿先であるこの寺の中で客が増えるのは俺たちとしてはあまり歓迎できない。
住み込む人数がそれだけ増えればいろいろ面倒も増えてしまう。
それこそ泊まりに来る人間性が環境の境目ともなるだろう。
こちらは誠心誠意を持ち熱意を掲げてバンド練習をするのに専念できなくようなら、わざわざ貴重な時間を割いてここで強化合宿する意味もなければ結果も出しずらくなってしまうからな。
ましてや暁幸の情報からすると空手部やら柔道部などと言った武闘派の部活動が合宿に来るらしいし、それこそ言葉よりも先に暴力など出すいざこざも起こりそうで気が気じゃないぜ。
「ああ、それは大丈夫だ。けっして俺たちの練習に邪魔はならないと思うぞ」
「え、そうか? よし、俺らが思いっきりロックを楽しめるならいいぜ」
宗介はみんなの顔色をうかがながら、練習に専念できることを伝える。
ソレを見て、ロックに生きる熱血漢の俺を筆頭にケンも暁幸も肩の力を抜いた。
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