146曲目
投稿遅くなり申し訳ありません。
バンドといえば合同合宿。
真夏の暗い外はやはり肌寒い。
砂漠の夜と似ているようなもんか。
俺たちがライブハウス"LIVE:ALIVE:SOUND696"の店を出たのは、すでに深夜の2時をとっくに過ぎてからだった。
なぜ俺たち演者がそんな遅くの時間までいたのかは単純な理由だ。
あんな醜態をさらしてめちゃくちゃにしたお詫びにということで、店中のありとあらゆる場所をピッカピカに掃除していたせいだ。
「うえ~、演奏し終わってからそのまま掃除連チャンだったから、もうTシャツもGパンも汗だくで気持ち悪い。早く帰って服ぜんぶ脱いでゆっくりシャワー浴びてーぜ。そんで部屋のベットにそのままぐったりと寝たいもんだ」
暁幸はライブハウスの外に出ては髪をかき上げてそう言う。
その仕草も動きもなんだかぎこちなくフラフラしている感じだ。
あり余ってた体力が空っけつなのは別に暁幸だけじゃない。
メンバーみんな全身汗だくで薄汚れているし、くたくただった。
本当、念願の初ライブとなる今日という日は散々なライブだったな。
ステージはメチャクチャにして暴動紛いは起こるし。
メンバー同士でのいがみ合いをして客のヤジもヤジで返すし。
ましてやステージ内がボクシングのリングになりかけるしで大変だった。
だからこそライブハウス側にはメンバー全員で頭を下げて謝罪をしたが、その中でも、騒動の火種になった俺と暁幸は誠心誠意こめて謝り倒していた。
こうして遅い時間まで掃除をして、もともとのライブハウス内装よりも綺麗にしてしまったおかげか、オーナーからも出禁にされるどころかまた"LIVE:ALIVE:SOUND696"でバンドとして出演しなよとご厚意で言われた。
うん、バンドマンとしての生存確認も滞りなく完了ってことだな。
だが醜態をさらした初ライブと謝罪を込めての掃除にて、全身かんだるくくたくたになれたおかげで、やっと少しだけ熱気に満ち溢れ滾っていた俺は落ち着いた。
とは言っても、まだ俺の心に巻き上がる炎は消えちゃいない。
それどころか鎮火に近い状態でもまだ生き生きとしていやがる。
プスプスと燻っている火種の生き残りが、しっかり意思が残っている。
まだ心の炎と散らばった思いを秘めた火種は、死んじゃいねえと叫んでいる。
それこそ少し息を吹きかければ、またすぐに大きく燃えさかる業火となれる。
もっと先へ、もっと高く、もっと熱くなれと俺が俺自身へと問いかけ続ける。
乗るしかないんだ、この大きな進化へと遂げられる成長の荒波に……。
ライブハウスを出た俺はそのまま、隣の歩道を歩いている3人の存在を知る。
コイツらが俺の、歌の声と楽器の音を支えて高ぶらせてくれる絆の仲間だと。
稔、笹上さん、アンタらの言っていたことはやっぱ間違っちゃいないんだな。
バンドとして成功するには、楽器の上手さでも経験でも才能でも無いんだな。
自分の傍に誰か1人でも、また1人と仲間と呼べる者がいるかいないかだ。
「この夏、音楽の基本を高めるために、バンドの強化合宿をしよう」
あまりにも唐突すぎたからだろう、他の3人が立ち止まる。
だけど、俺は店内を丁寧に掃除しながら、ずっと心の中で考えていたのだ。
少し離れたとこで止まった俺の方を振り返った3人に、俺はもう1度言う。
「これからバンドの絆と一体感、それに腕も技術向上も視野に入れた熱気のある合宿をしようじゃねえか。どこかで泊まり込みで音楽とバンド漬けの生活をメンバー同士で送るんだ。俺たちに足りないモノは、熱血想念夢現技術演奏努力経験圧倒的達成感! その中でもなによりも、絆のリレーションが足りねえんだ! それを全部0から育て上げていかなきゃ稔たちにも笹上さんたちのバンドに手も足も出ないのは確定的なんだ。だから合宿をして力量向上すっぞ!」
泊まり込みでバンドメンバーが集まれて朝から晩までみっちり練習しまくれば、きっと稔と結理や他メンバーで結成された【二時世代音芸部】バンドにだって、笹上さんやあの評判のいいヴォーカリストの女の人が率いる【New:Energie:Ours】バンドにだって、足元どころかその背中を掴めるまでに追いつけるに違いない。
練習、練習、1日中練習に精を出して猛者ともなるバンドを追い越す可能性がわずかでもあるんなら、それが0じゃないってんならBETするのも悪くはない話じゃねえか。
「合宿をすんのはダメかお前ら?」
そりゃそうだ、俺の言ってるのは突発的な考えに過ぎない。
この世を生きている1人1人の考えも行動もぜんぜん違うんだ。
いきなりこんな無茶難題なことを言われても、やっぱ困るかもしれない。
バカと言われてもいい、アホと言われてもいい。
合宿をしてまでバンド練習なんかやるだけ無駄だと、言われても仕方がない。
この中で俺だけがバンドとしてもう1度、あの舞台にプロとして立ちたいと心の底からずっと願っているだけで、他のメンバーであるケンは友達として付き合ってくれてるだけだし暁幸や宗介にとっては飛び火と同じなんだ。
悔しいけど、認めたくないけど、無理と言われたら引き下がろう。
そう覚悟を決めて拳と歯をグッと握り噛みしめて言葉を待ってときだった。
「いいよ」
……………………えっ?
俺の耳には、合宿しようという了承の言葉がたしかに理解し聴こえたのだ。
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