13曲目
残りも少なくなった缶コーヒーを飲み干し、ケンは缶ゴミ箱にソレを入れる。
カコンと言った甲高い無機質な音が、まるでドラムのシンバルみたく聞こえた。
自販機近くのゴミ箱から踵を返し、ケンはこちらに近づきベンチに腰を据える。
「太陽か……そう考えると陽ちゃんのその短い頭も、ギザギザしててツンツンしてて、どんな赤色よりも真っ赤に染まっててさ。本当に太陽みたいな存在感を放っているよねぇ」
「ああ、だってその方が目立つしカッコいいだろ?」
「うん。でもさすがに目立ち過ぎだよ。ねえ、その頭……そのままでいいの?」
ケンが真っ赤な頭を見て俺の代わりに心配そうに訊いてきた。
それで、俺もなにか自分の真っ赤な頭のことでなにか思い出しそうになる。
けれど、思考の中でモヤがかかったようにおぼろげであり、思い出せない。
きっと思い出せないってことはそこまで大事なことじゃないんだろうな。
「うーん。そういえば、なんかあったようなないような……」
「ええっ、忘れちゃったの? ほら、牧野先生が、真っ赤に染めたその頭、休み明けまでに黒く染めてくるか丸坊主にしてくるかなどして。鐘撞学園の一生徒としてシャンとしなさいって……」
「えっ……? あ、ああそういえばそんなこともあったけな」
ケンに言われてやっと俺の脳裏に浮かんできた。
そういえば、そんなつまらない柵を強制してくること言われていたっけ。
太陽は確かに丸いし丸坊主にすれば光ってるが、それは俺の性分に反してる。
「いや、待てケン。忘れてたってことは、たいして重要なことじゃないことだ」
「えーなんでそうなるかな? だってそこは重要でしょ。また呼び出されてこぴっどく怒られるし、職員室から絶え間ない怒号と罵詈雑言にも似た説教が轟くの陽ちゃんだってイヤでしょ?」
「そうか? 案外、先生の方もポカンと忘れてるんじゃないか? 俺が忘れていたみたいにさ。もし自分のことじゃないのに一々覚えていたら、先生ってヤツは色々と大変なんだな~っ」
「忘れているってことは絶対にありえないと思うんだけど、規則なんだし」
「いやいや、絶対に忘れてるさ。ケンは悪い方へと深刻に考えすぎなんだよ」
コイツは気が小さいと言うか、よく言うなら心が清らかで繊細というか。
考え方や見た目も変わったとこはあるが、そこは昔からケンはそうだった。
やはりそこだけは根がしっかりしているのか、全然変わっていない。
そうなんだよな……なんでも大ごとに考え過ぎて心配性なんだよコイツは。
「大丈夫大丈夫、そういうのは割とノリでなんとかなるさ」
「そうなのかなぁ……」
真っ暗な夜空に照らす公園の外灯が俺とケンを照らす中。
コイツの心配するような声は俺の楽観的な言葉に飲み込まれた。
ケンに悩みを聞いてもらい別れてから数分後。
俺は自分の家に帰宅しそのまま風呂に浸かり自室に向かう。
親父がこんな遅くまでなにしてただとか飯が冷めてるぞと言われた。
別に飯は冷めていても食えるしライブ終わりにケンと話をしてた、と。
そう告げると親父はなぜか納得したような口ぶりで言われたんだが。
風呂も入り飯も食って、俺は自室にあるテレキャスターを手に取る。
そしてアンプに繋げない生音でコードを鳴らし進行をノートに綴る。
小室進行、カノン進行、王道進行と試しに弾いて合うかどうか。
仮初めのコード進行を書き綴った歌詞と照らし合わせて試してみる。
そのため俺は机の上に置いてあった歌詞ノートを手に取りページを捲る。
自分自身で1から書き上げた歌詞を読んで、最後まで確かめてみたら、合わす。
点灯する街灯の中雑踏する人々、迷走する黒猫が見据える生と死を時間。
踊り狂う足が絡み合う程の、ホップとステップで導いてくれよ。
仮初めの仮面で彩られた、無力が弾き語る荒削りな歌々。
ずっとその後何年も、引っかかっていた、だから心から想いを綴った。
深淵アンダーグランド、恐怖が募るムーンライト。
今すぐお前の、声を聞かせろよ、DEAD:A:LIVE審判の時さ。
せめて抱きしめさせてくれ……。
俺はそう呟きながら抜擢した小室進行で試してみる。
出だしの【Am】から【F・C・G】といったありきたりな暗い感じ。
そこにスパイスがてらに"m7"や"sus4"を入れて少しづつ形にする。
あの時の俺がしていたようなやり方を、もう一度思い出して挑戦する。
だからせめて、もう一度だけ、俺に夢と希望の行く末をくれないか?
「……あーダメだ! 歌詞は良いけどコード進行がこれじゃ合わねぇ!」
むしゃくしゃしイライラが募った感情が剥き出しになる。
手元に置いてあった歌詞ノートを手に取り、壁に投げそうになる。
けれどそこで思いとどまり、軽い舌打ちを出しノートを机にひっさぼる。
抱えていたテレキャスターもスタンドに置き、ベットに寝っ転がり電気を消す。
明かりが無くなった瞬間、一瞬だけ暗闇が制するがすぐに瑠璃色へと塗り潰す。
空に浮かんで雲から恥ずかしそうに出てきた月が、世界中の景色を照らしている。
中々にいい感じで彩られており、流石は夜の主人公ってイメージを突きつけられた。
「……明日から、もっともっと練習したり歌詞を考えていかないとな」
そう呟いたのを最後に、這い寄ってきていた睡魔が体を包み込む。
そのままはっきりとしている意識が段々と途切れ、俺は静かな眠りについた。
ご愛読まことにありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。




