139曲目
投稿遅くなり申し訳ありません。
哀しげで淋しそうな稔は小さく呟く。
その言葉を俺たち4人は黙って聞く。
まるで聞かなきゃならない、そう感じれるからだ。
「もう……ねえ、みんなちゃんと頭だけじゃなく心でもわかってるの? もうみんな、夏休みに入る前に一緒にバンドを組んだんだから、そのときみんなはもうただの友達ってわけじゃないんだよ。家族や親戚とは違う、特別で優れた関係になったんだよ? だったらこんな風にケンカをするんじゃなく、もっと仲良くしなきゃダメだよ。バンドという特別な絆と結束で固く結ばれていないとダメなんだからね?」
稔はまるで俺たちをさとすように丁寧に言う。
1つの言葉には気迫があり、体にスッと入る感じだ。
バンドは特別な絆で繋がるとは、深い言葉だよな……。
しかしコレとソレとは話が違う気がする。
稔の言葉だとしてもさすがに鵜呑みにしにくい。
「いや、そんなこと言ってもさ……簡単にできることじゃ」
俺の出す言葉は渋っておりうんともすんとも言い難い。
稔の言うことは、そりゃそうだったら理想的でいいだろうさってことだ。
だけど、理想と現実は違うし、そう上手く事が進むものじゃないだろ。
だってそうだろ?
やる気が一番あるのは俺でケンは友達としてやってるとこがあるし、暁幸も宗介もたしかに俺たちのバンドに加入してくれたが目的や目標も異なっている中で、なんとかバンドという形の型にはめ込めたのだ。
それをメンバー同士"一致団結"しろとなるととても楽じゃない。
それぞれ思考も行動もまったく異なるのに噛み合わせろというのは無茶がある。
俺のそんな疑問的で後ろ向きな心の声が伝わったのか、稔は俺をグッと睨むように見据えた。
「そうなんだ。熱川君たちはバンドとしても熱意が空回りしているんだね。だったら悪いけど、今のような演奏ばっかしかできない熱川君たちのバンドには、私とメンバーたちで引き継いだ"二時世代音芸部"バンドは絶対負けないよ」
空間そのものをスパッと斬り捨てるように言葉を吐き出してきた。
それが稔の口から出たことを理解するのに、一瞬理解が必要だった。
俺の中でまた憎悪とは似ても似つかない感情が沸き上がる。
「なにっ……!?」
たとえ好きな稔の言葉であろうと今のは聞き捨てならない。
思わず怒りと悲しみの入り混じった視線で睨み返した俺を、だけど目の前で引かない稔は、今まで見た事もないそれ以上の強く固い意志のこもった双眸の瞳で見つめ返してきた。
絶対に負けない、そんな意思の込められた瞳をあの稔がしてる。
そんな現実を今見せつけられて睨み返す俺は僅かに心が揺らいでいた。
クソッ! 俺たちも負けるつもりはさらさらないのに、上手く言い返せない。
「私たちの"二時世代音芸部"バンドは絶対に負けない。だって負ける要素がぜんぜん無いんだもん。それも徹底的な差で埋め尽くせるほど、完膚なきまでに熱川君たちのバンド――"Sol Down Rockers"よりもお客さんを盛り上げらせる自信があるから。もし熱川君が今の私の言葉が気に入らないって言うなら、今ここでライブをやってその証拠を証明してあげてもいいんだよ?」
「………………」
稔はけっして引かずに俺の目を見据え1つの言葉に力を込めて言う。
どんなに俺が強く恐ろしく睨みつけても、稔は毅然として目を逸らさない。
まさに俺たちのバンドよりもいい演奏をしてやれるという絶対的勝利宣言。
「あわわ、ちょっと2人とも、ここは落ち着いて? ねっ?」
ケンがこの空気に耐え切れず俺たちの傍に近寄る。
稔の今言った生意気な勝利宣言すらも俺は真正面から受け止めた。
「安心しろケン、冷静で落ち着いているぞ。ああ、落ち着いているとも」
俺は言葉の中に刺々しい感じも残っているが至極囁くように言う。
逆に稔に果たし状を叩き付けられたお陰で幻覚から覚めた感じだ。
ありがてぇ、それと同時に言ってくれるじゃねえか……っ!?
確かに腹の底はグツグツ煮え滾っているが、それでも俺は落ち着いている。
だけど、俺たちと稔たちとの決着を演奏で付けるのは今じゃなくていい。
そのときはもう、最高の舞台を用意してすぐにやって来るのだから……。
稔と結理が在籍する"二時世代音芸部"は本当に素晴らしい。
バンド内でのコミュニケーションの取り方や見せ場となるとこと落ち着かせるとこの息遣い、リズムに集中するバッキングやお客さんを盛り上げるためのソロとのコンビネーションと緻密に練り上げてきた楽曲の出来の完成度、どれもこれもが他のバンドより一癖も二癖も違う。
だから、今のままじゃたしかに稔たちには敵わないだろう。
演奏の出来や客との連携の力量の比率が段違いで、それこそ手も足も出ないで完膚なきまでな差を見せつけられるのは、ソルズロックをこの世に創り出そうとしてる俺だって痛いほど身に染みて心で理解している。
歯を噛みしめるほどに悔しいが、もっともっともっと練習を積まないと。
しかし練習もそうだが、俺たちに決定的に足りないモノは心の通わせだろう。
暁幸もそうだが基本的に俺たちは音と音の会話がぜんぜん成り立っていない。
全てが"俺の音だけを聴け!"と楽器から出される音そのものが自己中心的に動いており、小さい頃から今までで音楽歴の長い俺でもソレに気づけずに演奏していたことを思い知らされ、今後の課題に決められてしまったほどだ。
今日俺たちのバンドでの初ライブは本当に残念な出来で幕を閉じてしまった。
リトライするとか、もう1度演奏するとか無茶が通らないのも教えられた。
情けないがここは自分自身に強く刻みこみ、腑に落とすしか道は無いのだ。
俺たちの目指す夏休み最終日のバンドコンテスト、そこには稔たちも出演する。
今しがた俺たちに、絶対勝利宣言を口に出した猛者が仲間とともに現れるんだ。
今のままでは絶対に飛び越せない壁として俺たちの前に立ち塞がるのだ……。
俺たちに残されている時間の猶予はもうあまりないが、それでもここからもう1度考え直して、なんとか軌道を修正しなければ未来は無い。
メンバーが一心に固め絆の結束を深める、そうなるためには……。
――ガチャ……。
そのとき、不意に楽屋の扉から蝶番が鳴り、内側に開かれた。
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※お詫び。
転載ミスにより話が飛んでいます。
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