137曲目
波乱万丈な展開が巻き起こるッ⁉︎
※注意事項!
この話をお読みになる前に……。
第140話の『136曲目』を読まれるよう。
よろしくお願いいたします。
https://ncode.syosetu.com/n1262em/140/
楽屋内は普通もっと熱狂的なライブに楽しんで精神を高める場所だ。
しかし今、その額屋内にはそれらとは真逆で、異なることが起きていた。
「コラっ! 2人とも、いい歳してなにをしちゃってるの!?」
楽屋である控え室に弓なりに飛ぶような稔の怒鳴りが鳴り響く。
それを聴いた俺と暁幸とケンは思わず仰け反るが、宗介はビクともしない。
組んだバンドで初ライブの出来は散々でましてや楽屋内でケンカ。
初ライブに客として呼ばれた稔たちも相当ショックだっただろう。
ついに温厚で健気なのにピンと張られ続けた堪忍袋の緒が切れて激怒した稔によって、ライブハウスの控え室にて他の演者さんには理由を説明し出払ってもらった後、言い争いしてからのケンカをした俺たちは床に正座させられていた。
ロック好きのバンドマンの俺たちはまるで修行僧の気分に浸られる。
ま、ケンカっ早い俺たちにいま足りないモノはきっと修行めいたモノだろう。
1つのバンドとして一体感を築き上げるためには必要なんじゃないかな……。
ライブハウス内にある控え室の床はひんやりしてて冷たい。
ライブをし終わった後のこの冷たさは軽く犯罪的なんですがそれは。
俺は稔に弁解を試みようとしたが、一瞬にして、言葉を失ってしまう。
珍しく稔は頭にタオルをバンダナ風に巻いている、強靭無敵で可愛い。
服装はまた真っ白いキャミソールでホットパンツにサンダル、実に夏だ。
正座をさせられるとその艶めかしい大きな双丘の圧倒的破壊力が抜群だ。
「だって俺は……おい暁幸、お前の身勝手な行動のせいだかんな。稔に謝れ」
「なんだと貴様この野郎、人のせいにするな。全部お前のせいに決まってんだろ」
「文句はダメ、互いに貶すのは禁止します! というか2人とも私語禁止!」
稔がピシャリと怒鳴り、俺たちはその凄みに圧倒し口をつぐむ。
もうかれこれ稔の説教を聞かされてから何分ぐらい経ったのだろう?
すっかり痺れて、暁もそうだろうが足の感覚がなくなっちまってるぞ。
「なあ、稔。あ、いや、稔さん。これは私語としてではなく懇願なんですが、できればあぐらにさせていただけないでしょうか? もう俺も暁幸も足が痺れて辛いんです。なあ、暁幸?」
俺は察しろというような目配せをしすぐに暁幸も心で理解する。
彼は大きな胸を腕組みの上に置いて怒る稔に対して辛そうな態度を出す。
「そ、そうだ……じゃなくて、そうなんですよ稔先生。俺たちが悪いから怒られているのは当然です。でもさすがにもう足の感覚がおかしくて辛いんです。どうかせめて、あぐらをかきながら説教を聞くのを……」
暁幸がわざとらしくそう言うと稔はニッコリと微笑む。
ああ、あれだよあれ、あんな笑みを浮かべてくれるのが俺の天使だ。
そう俺は思い暁幸も”よしっ”と心の中で確信をしているが……。
「うん。そのお願い、却下します」
俺と暁幸は思わず開いた口が塞がらない。
哀しいが、どうやら現実は非常のようだ。
感覚が痺れる正座のまままだまだ稔の説教は続く。
稔のお怒りは底知れぬものでターンエンドまでほど遠い。
「今日のライブは熱川君たちが夢への第一歩として踏み出すきっかけになるはずだったでしょ!? なのにライブ本番中にいきなり言い争ったりケンカをするなんて、2人ともいったい何考えているの!? 物事を判断できない子供じゃないんだから、ああいう場所を借りて演奏させてもらっているのに、周りの人たちにも迷惑がかかるってことくらいわかるでしょ!?」
真っ当な正論をズバッと真剣に言われて俺はすごく頭が痛い。
しかも片思いの稔にそう言われると、さらに追加ダメージだ。
精神的なダメージはあんまり負わない鋼のメンタルを持っているが、これはキクな。
「あ、ああそうだよな稔。わ、悪かった。俺、謝るからさ」
もちろんこれは嘘じゃない。
俺も悪いと本気で思うから、ライブハウスの関係者に謝ろうと思う。
だけどどこかまだ邪念が残っていることを稔は見透かしていたようだ。
「謝ったってダメだよ熱川君! そういう軽い言葉じゃぜんぜん気持ちがこもってないんだよ? それに悪いって自分達でちゃんとわかっているのに、どうして悪いことをするのよ!? 特に熱川君。いつもいつも暁幸君や結理ちゃんからバカバカって言われちゃってるけど、今日。しかも大好きな音楽を出せる場所で悪いことをしたんだから、この際、私もアナタにはっきり言います」
そう言い切ると稔は腕組のまま深呼吸をし空気を一気に吸う。
そして正座をし見上げる形で聞いている俺に目掛けて。
「バカっ!」
そう力強く、彼女から言われた。
うん、返す言葉もございません。
俺はうなづくことしかできないでいた。
普段は本当に健気で素直で優しいのが大一葉稔の長所だ。
だがこれが1度怒り出した稔はとても怖く、どんな言い訳も策も通用しない。
悪いことをして怒られている俺はただただ小さくなって、暴風雨となる嵐が通り過ぎるのをジッと待つ気分だ。
暴風雨を拭き荒らすバンドとしてロック史に名を轟かす(予定)。
そんな俺たちを可愛いのに恐ろしく怖い説教で制御できる稔。
できればそういう気迫をわけて欲しい、と俺は心中で僅かに思う。
ご愛読まことにありがとうございます!




