122曲目
リフレッシュって大事。
あれから時間が刻々と過ぎた。
俺は自室の壁に貼られた"Sum41"のポスターを眺めたり、ベットの上に散らかった作詞作曲のアイディア探しのためにありとあらゆるロック系の洋楽を聴き棚から引っ張り出した洋楽のアルバムを手に取ったり、その中から一枚取っては中身を取り出して床に置いてあるマルチオーディオコンポにソレを入れて音楽をかけたりし高ぶる気持ちを成長させる。
ああ、やっぱコレだよなぁ。
お気に入りの楽曲がスピーカーからガンガン流れ出し、近くに置かれた1Lのペットボトル入りのリンゴジュースを開けて飲みながら自室のカーテンを開けて夜の郷を眺める。
横目で見えるカレンダーには俺の闘争心を高めることが書かれている。
とうとう明日は、俺たちソルズロックバンド"Sol Down Rockers"初のライブを迎えるのだ。
時間の許す限り個人練習やバンド練習を熱心に取り組み積んできたが、なにしろ時間がなかったのだからソレらも客観的に見ればたかが知れている。
実力がまだ未熟な俺たちの圧倒的に練習不足は否めない。
だけど、それでももう時間は残っちゃいない。
コンテストの腕試しとなる本番は、明日になればイヤでもやって来る。
そうすると不満に思わせる箇所が脳裏にいくつも過り浮かんできてしまう。
暁幸のヤツ、またメンバーの音を無視して勝手なことするんじゃないか?
ケンは相変わらずサイドギターを任せてても曲の最中にもたついたりフレーズや曲の箇所を間違えたりするし、宗介はまるで生気を感じさせない幽霊みたいでリズムマシン搭載された無味乾燥なドラムを叩くし……。
まだ未完全すぎる俺たちの不安な点を上げればそれこそキリがない。
一番不安で落ち着かないのは自分自身の力量なのかもしれないが……。
俺の演奏り方はやはり荒削りでがなり、泥臭いとこが否めないし。
「まあ、俺たちバンドが目指す真の本番はまだまだ先なんだしな。明日はただの腕試しでもありソレの練習に過ぎないんだって。そこまで深刻に気にすることはないだろ。やるべきことと成すべきことをやり切ればそれでいいさ」
俺はそう呟きながらカーテンの傍から離れベットの上に腰を下ろす。
自身にそう自信をつけるように言ったのに、全然気持ちが晴れ晴れとしない。
そう言い聞かせても、俺はちっとも落ち着けずなんだか居た堪れない。
こんなにナーバスになるなんて、かつてないことだしずっと無いと思ってた。
ソロのときも人前に立つことに緊張はしても絶対に引かず自分自身の成すべき演奏り方で、相棒とともに夢を描き追い求め走り続けていたのに、今バンドとしてメインギター&メインヴォーカルとしての自分は緊張はしても、人前にたって歌うのが怖いや恐ろしいなんて思うことは1度だって……。
「おいおい、太陽を追い求める熱血漢のくせにビビってんのか、この俺がか?」
俺は自分自身に問いかけるように呟き、必死に否定している。
けれども、苦い思い出と言うのは決して拭いきれない楔の鎖である。
それこそ今、俺が思い出すのは、鐘撞大祭ライブでの大失敗。
あの瞬間、俺の中で蠢く太陽の熱意も決意も冷え、停止のレッテルを張られた。
ライブをもう1回演奏ろうと無茶を言っていたときだって、ケンや男子軽音部の三岳部長に先輩らも前の鐘撞大祭に比べたらそんなにひどくはなかったと言ってくれたが、俺自身はあのライブを今でもえらく悔いているらしい。
明日のライブもまた同じ失敗をし後悔を繰り返したら……。
また熱狂で賑わうはずのライブ会場があんな冷めた空気になったら……。
熱気が空回りして、取り返しのつかないことを、俺のせいで……。
いつの間にか、情けないけどそんなふうに悪い方向へと考えている俺がいる。
このクソ後悔がっ、さっさと俺の中から消えちまえよっ!
「クソッ! そんなの俺らしくねぇ! なにブルってんだこの俺がよぉ!」
憤怒と後悔が入り混じる思いを蹴り、室内に流れる音楽を停止する。
そのまま自分自身を熱気で奮い立たせ絶対にそうじゃないと言い聞かせると、すぐさまギタースタンドに立てかけてあるテレキャスターのギターネックに手を伸ばし引き寄せ、アンプにつなげて大音量でコードバッキングや練習し続けて得たロック調のギターソロを熱情のままに掻き鳴らした。
「おいっ! ギター止めろ、音がうるせーんだよこのバカ息子っ!」
閉めてある自室の扉の先からクソ親父の罵声が飛んで来た。
そりゃ怒って当然だ、俺は自室に飾られた時計の時間を見てみる。
もう夜中の10時をとっくに回っており外だって暗いんだ、この音はヤバい。
さすがに爆音で掻き鳴らすギターが近所迷惑なのは俺だってさすがにわかる。
そこまで常識やルールを捨てている覚えも無いし、俺だって普通の状態ならしなかっただろうが、今このモヤモヤとした感情に駆り立てられている俺はとてもその場でジッとしていられる気分じゃなかった。
「くそっ。こんなの、全然俺らしくないぜ……」
爆音から外から聴こえる鈴虫の鳴き声と共に小さく呟いた声が空気に乗った。
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