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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
115/271

114曲目

居酒屋にて突拍子の生ライブ。

酒で酔ってる人の前でいきなり演れば。

そりゃあ、そうなりますよね…。

 鳴り止まない肉の焼ける音と、酒の注がれる音と、店の中のはしゃぎ様。

 そんな日々の疲れから脱却し、ひと時の幸せを満喫するヤツらを見据える。


「えー、今言った通り、俺たちはバンドを組んでるバンドマンだ。アンタらにとっては米からできた酒こそが生きるエネルギーに変換されていると思うが、俺たちは躍動感と熱気で満たされたライブで演奏()ることこそが生きるエネルギーになる。つーわけで俺たち今度ライブを演奏()るんで、もし今からやる演奏を聴いて気に入ったら、ライブのチケットを買ってください」


 さっきまで酔狂に楽しんでいた客からのリアクションはなにもない。

 訝し気な視線を向けているが、酔っ払いのくせにノリが悪い輩どもだな。

 が、もうそんな下らないことに一々気にしている暇は俺たちには無い。


「よしっ、ケン。準備はいいな? じゃあ演奏()るぞ」

「う、うん。頑張るよ」


 互いに目配せし、居酒屋の中で俺たちは演奏を開始する。

 居酒屋で演奏する曲は、例によってケンが、みんながわかりやすくて親しみやすいのがいいと言うので、性懲(しょうこ)りもなくまた"The() Beatles(ビートルズ)"で"Let It Be"だった。


 When I find myself in times of trouble。

(ずっと悩んで苦しみ抜いたときに)

 Mother Mary comes to me Speaking words of wisdom, let it be。

(俺のもとに女神がやってきて そしてこんな言葉を呟いた 素直に生きなよ)


 独特の喧噪が広がる中、俺は歌いながら少しだけ気がかりが脳裏を過る。

 演奏する場所がたとえ居酒屋だとしてもやっぱりオリジナル曲を演奏()りたいとこだったが、俺自身のオリジナルはあってもバンドとしてのオリジナル曲がまだ出来ていないのだから仕方がない。


 And in my hour of darkness She is standing right in front of me。

(すべてが暗闇に包まれたときに 彼女は僕のすぐそばに立っていたんだ)

 Speaking words of wisdom, let it be。

(そしてこう呟いたんだ 素直に生きればいいってさ)


 自分の好きな楽曲とはほど遠いが致し方ないし、唄うしか方法が無い。

 それにバンドとしてのオリジナル曲も早急に手掛けなきゃならないし、本番では絶対に"Sol(ソル) Down(ダウン) Rockers(ロッカーズ)"としてのオリジナルで挑みたいし、早いとこチケットを全部売りさばいてなんとかしたいところだ。


 Let it be, let it be Let it be, let it be……。

(自分らしく 素直に生きればいい……)

 Whisper words of wisdom, let it be。

(そんな素敵な言葉が聞こえたんだよ 素直なままに、ってさ)


 俺は焦燥感(しゅうそうかん)に駆られながら声を限りに絶叫し、手に持つアコギを掻き鳴らす。

 アコギから乾いた音が叫びにも似たように聴こえる気がするが、関係なかった。

 この独特的な酒の匂いと酒乱に身を包まれた人の喧騒の効力なのかどうかはわからないが、曲を演奏()るにつれてだんだんと走り気味になる俺に、トロくてもたつくケンのアコギがえっちらおっちらと見失わないようについてくる。


「ちょ、ちょっと陽ちゃん。ああ、演奏が少し速いってば~っ。この曲、バラード系でゆったり演奏するのだから、もうちょっとスピードを落としてよ~っ」


 隣で演奏するケンがなにか小声で言ってるが、俺はもう止まれず鳴り止まない。

 演奏をしてから心になにか注がれ、体中の芯に火がついたように熱く滾るのだ。

 するとだんだんと集中力が研ぎ澄まされていく感覚に覆われ、確実に刻んでいく秒針が、時間という概念がゆっくりになっていくような不可思議な感覚。


 And when the broken hearted people Living in the world agree。

(心が打ちのめされてしまっても 自分の認められる世界の中にいるかぎり)

 There will be an answer, let it be。

(答えは見つかる だからそのまま突き進めよ)


 ああ、このなんとも言えない感覚も懐かしいな。

 たしか小学生低学年だったころ時速280kmを余裕で越えた改造バイクにはねられたことがあるが、あのとき体と車体がぶつかって勢いよく吹っ飛ばされたときも、いま起こっているように、周りが全部スローモーションに見えた気がするな。

 驚いてた顔も、興味無さそうな顔も、知らんぷりした顔もゆっくりだった。


 For though they may be parted There is still a chance that they will see。

(離ればなれになってしまっても 再び出会うチャンスはまだ残されている)

 There will be an answer, let it be。

(答えはきっと見つかるから 気にせずそのまま突き進めよ)


 場所が、世界が、スローだ。

 時間と空間が異常をきたしてなにもかも遅すぎる。

 下らないほどに落ちぶれてどれもこれもがつまらない。


 Let it be, let it be Let it be, let it be……。

(自分らしく 素直に生きればいいんだ……)

 Yeah, there will be an answer, let it be。

(そう 答えは見つかるんだから 迷うことなんてないんだぜ)


 居酒屋と言うステージで俺とケンはアコギを弾く。

 原曲の曲調を僅かに残し、あとはただガムシャラに。


 Let it be, let it be Let it be, let it be……。

(自分らしく 素直に生きればいいんだ……)

 Whisper words of wisdom, let it be

(そんな素敵な言葉を聞いたんだ 迷わず突き進め、って)


 ケンがアルペジオを弾き、俺がコードをバッキングで弾く。

 怪訝そうにこちらを見る客を想い、ひたすらに歌うだけだ。


 Let it be, let it be Ah, let it be, yeah, let it be。

(素直なままで 思うようにいけばいい)

 Whisper words of wisdom, let it be

(彼女はそう呟いたぜ 迷うことはないから、って)


 アコギを弾き、歌を歌いながら、心の中で言葉が反響する。


 なあ、お前らはなにちまちまとつまらなそうに生きてんだ?

 お前らの望んでいる人生の生き方ってのはそんな体たらくでいいのか?

 もっと必死に生き急がないと人生なんてあっという間に終わっちゃうんだぜ?


 下らない、実に下らなくて笑っちまうぜ。

 遅い、遅い、なにもかもが遅くてつまらない。

 そんなんじゃあ、俺の熱い魂に火は灯らねえんだよ。


 もっと疾走感あふれる速さで。

 もっと激動感で身に染みる激しさで。

 もっと、もっと、もっともっともっともっと……っ!


 言葉にできない感情に身を奮わせラストスパートをかけようとしたときだ。


「あ~っ? んだこの耳鳴りは~っ、おー、うっせーぞ!」


 大広間で酒を飲んでた酔っぱらいのだみ声が、俺を現実に引き戻した。




ご愛読まことにありがとうございます!

宜しければ感想やブックマーク等々。

出来れば、よろしくお願いします!

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