111曲目
どんでん返しとなる展開があっても、未だにチケット全部をさばききれない。
こりゃ、駅前で声かけや路上ライブを試しても進展が進まない俺らだけじゃなく、意気揚々で自信満々な暁幸と自信ありげでさばけると思うと言った宗介も苦戦してるんじゃないかと思いバンドメンバーとして様子を見に来たのだが……。
「チケット? ああ、アレか。もうだいぶ前に全部売りさばいたけど?」
「なにっ!? それ本当かよ。おお、そりゃすげーわ……っ」
「うむ、俺も一応チケットは全部売れたな。心配することはないぞ」
「な……なんだとおっ!?」
どうやら心配は無用に終わったようだ、種は摘み取ってやる。
暁幸も宗介も、持ち分のライブチケットは全部さばけたらしい。
なんてことだ、さすがに売りさばくの早すぎないか?
今俺たちは宗介の親父さんが住職として仕事をする寺にある本堂の中にいる。
広々とした部屋の中で何畳もある畳の上であぐらをかいて会議をしているのだ。
今の暑い時期だとやはり涼しげな風も吹き通る和室ってのが風流を誘うモノだ。
ちなみにだが、駅前でケンはまたあれから数枚チケットを売れた。
だいたいが若いねーちゃんやら男女の学生さんばっかだが、貢献力が半端ない。
ということはだ、あれから9枚のまま売れてないのはリーダーの俺だけなのか。
なんてこったパンナコッタ……実に、非常にマズいことだぞこれはっ!
俺は座り心地のいい畳の上に拳を叩いて鈍い音が床にみじかく響く。
「待て、これはおかしい。なんで俺だけチケットがさばけてないんだよ」
「いや、そんなことオレに訊かれても困るし、知るわけがないだろ」
俺の理不尽かつ煩わしさを彷彿とさせる言葉をだすが暁幸は一蹴する。
"売り切ったぞ"と思わせる自信顔は心強いが、なぜか苛立ちを隠せないのだが。
「まあまあ、陽ちゃん落ち着いて。ほら、僕たちのチケットだって合計で30枚前後はもう売り切れたんだし、結果オーライじゃない。これなら完売もできるって……あ、でも2人ともあんなに早くチケットを完売させるなんてすごいよねぇ。あの、なんか早くさばくコツとかあったりするのかな?」
ケンの疑問を聞いては暁幸はまた髪をかき上げる。
この野郎。
「コツ? 別にそういうもんはないし、オレがしたこともなんてこともないことだぜ。俺がバンド組んでライブに出演するって言えば、チケットを買って見に来たいって女の子はたくさんいるからなぁ。それに芽愛も2つ返事でOKしてくれたしな。おかげで10分足らずで完売だ」
なん……だと……っ!?
たかが10分足らずでライブチケット完売とか、騙力もいいとこだぞ?
ま、コイツはある意味チート持ちで現代召喚魔法もあるからな。
チケット完売とか全部コイツに任せても30分くらいで終わりそうで怖い。
「檀家さんや知り合いに住職さんと母が経営する旅館関係の人たちの中にも、バンドを組んでいたり趣味で作詞作曲などをしている人たちがいたのでな。聞くところによるとその人たちの知り合いにも当たってみると言ってもらえて、何枚かまとめてチケットを買ってもらえて俺も助かったよ」
なるほど、わからん。
どちらも日頃の行いで得る、信頼と親戚関係めいたモノが騙力量ってことか。
性格や人間性としてはどちらも疑い深いが、さすがに顔が広いようで憎い。
話を掘り下げて訊いてみると、暁幸は例によってあの熱狂的で酔狂な暁幸教の信者的ファンの女どもと彼女である芽愛さんに話をつけ売りさばき、宗介も当てにしていたとおり、持ち分のチケットを受け取ってからすぐに檀家関係と旅館関係の人々の効果で売れたらしい。
俺も駅前で路上ライブで客寄せをしたが、チケット売りまで行き着かなかった。
そんな最中でもケンは地道で地味ながらもちょこちょことチケットを売っているみたいだし、あの奇跡的な調子が続いてるならこれから先も何枚かさばけるかもしれない。
売る方法は試しているのに、俺だけまったく売れる気配がないとは……。
「ははっ、なんだコレ、まるで意味がわからんぞ。いったいこれはどういう仕組みで作り上げたトリックなんだ? それか知らぬ間にこの国では秘密裏に革命か反乱でも起きてルールが書き換わったとでもいうのか? なんで俺だけ、全然、チケットがさばけないんだよぉぉおおおおおおおっ!?」
俺がその場に立ち上がり某汎用人型決戦兵器の暴走モード並みに、腹の底から腹式呼吸を完全に行ってからのまがまがしい咆哮を上げては本堂の天井に視線をむけていると、膝のうえに手を乗っけてぼんやりと眺めていた暁幸が鼻で笑ってからニヤニヤと笑い確信めいたことを突きつらぬく。
「さすがはボーカリスト。マンドラゴラの金切り声みたいな叫びも、甲子園のサイレンみたいなロングトーンもお手のモンだな。て言うか、陽太。お前ってぜんぜん友達がいないんだな? 音楽の話しのみならず、普通の会話も成立できる知り合いだって少ないし」
かなり気に食わない単語を言った暁幸の方へと向き直る。
失敬な、熱血漢の俺にだって知り合いはいるし友達だっているぞ。
俺は自分の隣に丁寧な正座をして話を訊いている存在に気付かせる。
「いるじゃねえか。ここに最高の友達が」
ケンを指差す。
2人が呆然とした様子でケンを見る。
彼も少し照れ"いや~"といった感じで頷く。
「あ、うん。そうです。僕、陽ちゃんの友達です」
「いや、そうでなくてな。陽太、他にはいないのか?」
宗介が少し呆れ気味にそう付け加える。
あれ、あれ~、おっかしいな。
俺はちゃんと質問の意図を理解して返したんだが。
そうか、もう少しちゃんと言ってやらないとイケないのか。
俺は腕を組んで目をつむってはうんうんと頷き、もう1度目を見開く。
「俺の友達は、ケンに始まってケンに終わるんだ。終わりと始まりの境界線でもあり、俺と言う太陽の存在を保ってくれる原点にして頂点こそが、日向健二である親友のケンだ。これでいいだろう!」
はあ…………。
そんなため息交じりの一息が近くで話を訊く2人から聞こえた。
彼等の顔はどこか"話が通じない"と僅かに諦めている気もする。
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