10曲目
電話越しながらも自分の自論や目標を語ってたら、どうにも血が滾り熱気に彩られた気持ちが抑えられなくて、俺は電話相手のケンをそのまま公園に呼び出した。
よくケンと共に話をしたりするそこには周りに木々で覆いつくされており、公園の遊具やらところどころに木が生えているところ、近くに小さな鳥居と小さな神社めいた建物も公園内にある公共の場所だ。
電話で呼び出してから数分共掛からずに公園に来たケンへと、今夜あったできことを、もう一度最初から繰り返し語り終えたところだ。
モヤモヤを吐き出す様に語る中、ケンは黙って聞いてくれていた。
「……ってわけだ。なぁ、俺は間違っているのか?」
「そっか。うーん……」
ケンは少し考えむ。
こういったことにも真剣に聞いてくれるから本当に話しやすい。
いかにも悪いことをせず育ちの好さそうなコイツは日向健二。
俺はこいつのことを『ケンジ』とは呼ばず『ケン』と呼んでいる。
理由は簡単、愛称で呼んでいた方が面白そうだったからで単純明快だ。
ケンは、幼馴染みで音楽とロックバカな俺にとってよき理解者だ。
こいつも音楽を聴いているが、俺とは真逆のジャンルばっかり聴く。
家は上流階級で親父さんもお袋さんも上々な仕事に就いているせいか金持ちであり、その育ちのよさのせいかちょっとトロいし話し方も性格ものんびりとしているから、いつか知らないお姉さんとかに"いいこと"するから着いて来てって言われたらそのまま着いて行かないか心配になる。
俺と同じ鐘撞学園の軽音部所属で、パートはギターを弾いているが、ギターのテクニックもコード弾きも魅せ方も、性格や口調同様にトロい。
せっかちで熱苦しく一度決めたら壁にぶつかっても止まらない俺は、そんなのんびり屋なケンへとたまにイライラさせられるのだが、よくわからないがたぶんケンの時間は俺よりもゆっくり刻まれて動いているのだろう。
きっとそのおかげでケンが俺よりも長生きするに違いないと、これからの人生を自分らしく謳歌すると思えば、別にこののんびりも腹が立たない。
そう、コイツはいいヤツだからさ。
俺とコイツはかれこれ保育園年小時代からのつきあいで、はじめのころはこの気優しいのを逆手にとってよく泣かせて遊んでいたのだが、そのまま小学校に上がると……あれ、泣かせて遊んでいたのは少なくなったけどそれ以外はあんまし変化が無かったぞ?
あるとすれば、そのときから俺が音楽活動をするようになったぐらいだ。
それはまあいいとして、いつの頃から泣かさなくなったのか全然覚えていないが、とにかく友達もほとんど壊滅状態の俺にとって一番付き合いの古い数少ない人間であることは間違いない。
「そうだね……うん、陽ちゃんがやったことはきっと間違ってはいないと思うな。ロックのことは僕にはよくわかんないんだけど、なんていうのかな? いつも真っすぐで熱意のこもった歌詞やギターフレーズを作ってさ、たった一人で路上にアコギ一本持って弾き語りをして夢を叶えた……熱い陽ちゃんらしい行動だなって思う。ていうか、逆にその場でそういうことをしなかったら陽ちゃんらしくないかな」
考え込んでからだいぶ時間が経ってから、ケンはおっとりとした口調で答えた。
気心しれて優しく、朴訥で、いかにも悪さをしない善人そうだ。
顔もスタイルも性格も悪くはない、あーこんにゃろう。
ここ最近は、自分の容姿や性格が学園の女子にウケることに気がつきはじめてきたので(要するに好かれようと思い色気づきはじめたのだ)、熱気と根気で形成されたロックな俺よりも先に可愛らしい彼女が出来そうなのが僅かばかりに心配の種だ。
ちくしょう、その心配の種が芽が出る前に摘んでしまおうか……。
「ああでも、即興ギターボーカルをした時に使用していたのは田所先輩のギターだったんでしょ? ぶっ壊さなかったのは良かったけどあんまりそういった場所で暴れながら弾き語るのはちょっとやり過ぎちゃったんじゃないかな」
「ああ、そうだよな。あれはちょっとやりすぎたかもしれん」
「"しれん"じゃなくてやりすぎ」
「……はい」
軽く叱られて俺は素直に頷く。
階級の良い家に住んで育ちのいいケンは、衝動に任せて周りにある物に当たってぶっ壊したりはしないし、ましてや人の楽器を無断で借りて気ままに演奏したりは絶対にしない。
第一、ケンにはロックな破壊衝動や激怒に憎悪という感情が欠如してるのだ。
幼馴染みである俺は結構ケンと共に行動したり遊んでいたりしていたが、ケンが誰かと喧嘩したり口論になったり、ましてや誰かに向かって物理的に手をあげているところなど今まで一度だって見たことがない。
そんなとこも、俺とは全く両極端な性格だ。
それに、軽音部でセッションする時の演奏もリズムに遅れたりしてトロいが、ケンはギターという一つの弦楽器がものすごく気に入っているらしく、今持っているギターには愛情にも似てまるで恋人と接しているかのような感情を注いで綺麗に大事にしている。
そのせいか、田所先輩のギターを勝手に借りて演奏したことに心を痛めている。
ロックな破壊衝動や激怒に憎悪という感情が欠如しているケンは、そんなことをやらかした俺のことだってもちろん責めたりはしない。
ただ俺の代わりに物悲しそうな顔をするだけだ。
だからいつも、俺はケンにそう言われて、心の底から反省をしてしまうんだ。
「あー悪かった、悪かったってば。今は、うん、俺もものすごく反省しているよ。ラブホテルの物に八つ当たりしたり田所先輩や女共に罵詈雑言言ったり、ましてやギターを無断で借りて弾き語りして怒りをぶちつけることは確かになかった」
「うん、そうだね。後で先輩にはちゃんと謝っておいた方がいいよ」
「ええー……それは、微妙なところなんだけど」
「えー? ちょっと、なんでさ?」
ケンは俺の言葉に反応して疑問形で問う。
いや、そんなのわかるようなもんだろうが。
勝手に楽器を借りて部屋で大暴れして文句を垂れる。
そんなことをしちまった本人になぜそんなことができる?
「いや、だって考えてもみろよ。あれだけ部屋の中で暴れながら弾き語りして、お前のやっているのは全然ロックじゃねぇって啖呵切って、どの面下げて謝れって言うんだよ? 俺だったら謝りに来たら即そいつの顔面にグーパンが飛ぶぞ」
「いやいや、グーパンはマズいでしょ……でも、悪いことをしたなって思ったらちゃんと謝らないと。そういうことだって、ちゃんと理解しててできるいい人のはずじゃない、陽ちゃんってさ」
「はー、なんでだよ? 俺はお前が思っているほどそんな律儀で義理堅い善人じゃないんだぞ? もっとこう……混沌としてて荒々しい人間だろ? "Mad:Bad:Human"って感じでさ」
「それ、多分英語として成り立ってないし、悪いけど僕にはちょっと意味がわからないや。僕は、陽ちゃんってそう言っている割には人の気持ちも理解してすごく真面目な人間だと思うんだけどな?」
「はー? いやいや、バカ言うな。俺ほど不真面目で口悪くてバカなヤツは絶対にいないぞ? ケン、お前視界判断力が衰えてんじゃないのか? ちゃんと眼医者とかに行けよ」
「あー、結構ひどいことを言うなぁ。こう見えてもちゃんと視力は1.5以上はどっちもあるんだよ。でもそうかな? 僕はそう思えないけど」
冗談じゃなく本気で言ってるらしいケンに、俺は呆れため息をつく。
キョトンとした顔つきでそう言えるコイツは、結構大物になりそうだ。
「いいかケン、お前はどこのどいつよりもお人好しすぎるんだよ。俺は今までそんなお人好しをお前意外に見たことも聞いたこともないぞ? お前にこの前借りた1000円だって、俺はまだ返していないし楽器店に寄ったときに持ち合わせがなくて"DADDARIO"のエレキギター弦が欲しいって言った瞬間になんの前触れもなく金出して買ってくれるとかあり得ないことだぞ? これが俺よりも極悪人だったらどうなることだか……」
「あれ、そうだっけ? それじゃあ返してくれるよね。はい1000円頂戴」
「げぇ、しまった!」
ヤバい、藪をつついて蛇を出すとはこのことだ。
暴露して自滅した仕方なく財布から1000円札を出し返す俺。
それを受け取って"やった、儲かっちゃった!"って感じに犬みたく喜ぶケン。
ム、もしかして意外に俺は、コイツの言う律儀で義理固く真面目な人間かもな。
「いや~っ、僕自身そんなこと全然覚えてなかったけどなんだか1000円も得しちゃった気分だな~。えへへ、なにに使おうかな~っ!」
「俺にはその先が予測できっぞ。どうせ気が優しいケンのことだから、欲しいモノが決められないでそのまま募金でもしちまうんだろ? それか財布を忘れた子供がお菓子を買えなくて困ってるときにそのままソイツを手渡すパターンだ。まったく、お前と一緒にいるとこっちまで調子を狂わされちまうな」
「ボクはよくわからないけどさ、ロックってそういう怒りとか憎しみを糧にして曲を作ったり楽器を演奏したりするってのが主流だからってのは良いとは思うよ? けどさ、それじゃあただの"ロック"なんじゃないかな? ボクはそういったのより、やっぱ前みたいにアコギ一本掲げて1から作り上げたオリジナルをただひたすらに、ガムシャラに、誰か一人のために歌ってる陽ちゃんの"ソルズロック"の方が良いかな~……なんて」
ケンはそうはにかみながら言ってくれて茶化す様に言葉を占める。
俺は少しだけ、いや、かなり驚かされた。
コイツの言葉から最高に鳥肌が立つジャンルを生み出してくれたからだ。
ロックだけどロックじゃなく、俺みたいな奴に打ってつけの。ソルズロックか。
いいねいいね、最高に熱くてバカみたいにカッコいいジャンルじゃねーか!
本当にコイツはパッと心に染みるフレーズを思い浮かぶ天才だよ全く……。
「ああ。ソルズ、ロックか……かもな、その方が俺らしい」
「そうそうその意気だよ。ああ、さっきの1000円を使うモノ見つけた」
公園にある自動販売機の方角に視線を向けたケンはそのままスタスタと歩く。
話はまだ聞くよって、きっと俺の思っていたことを汲んでくれたに違いない。
俺も腰を掛けていたブランコから立ち上がり、ケンのもとへと近づいて行く。
ご愛読まことにありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。




